連載
» 2008年10月01日 02時31分 公開

ゲームとアカデミーの素敵なカンケイ(第1回)――東京大学 大学院情報学環 馬場章教授(3/4 ページ)

[松井悠,ITmedia]

マイナスイメージで凝り固まっている「ゲームのイメージ」に対して一撃を

―― 現在、文部科学省・科学技術振興機構による戦略的創造研究推進事業(CREST)に採択されている「オンラインゲームの教育目的利用のための研究」に関してお聞かせください。

馬場 これは、2010年までの研究で、今年で3年目になります。国から研究助成金をいただいてから3年ですが、実際はそれ以前の助走期間を含めて……5年くらいになるでしょうか。研究を始めたきっかけは、日本ではゲームの社会的な評価が低いというところからです。日本に特異な現象というのは、ゲームの負の側面ばかりいろいろと宣伝されるている点があります。もちろん、ゲームに負の側面がない、というわけではありません。しかし、問題は「負の側面が必ずしも科学的に証明されていない」というところです。

 例えば「ゲームをやりすぎると目が悪くなる」、「姿勢が悪くなる」、あるいは「ゲームをやっていたせいで成績が下がった」とおっしゃる方がいます。それでは、どれくらい目が悪くなったのか、どれくらい姿勢が悪くなったのか、どれくらい勉強をしなくなって成績がどれくらい下がったのかと。ここに科学的な根拠は何も無いわけです。その最たるものが、「ゲーム脳」という、あのインチキ学説だと思います(参考記事:ゲーム脳、言われているのは日本だけ)。ああいったものが社会に流布されて受け入れられてしまうということは、やはり日本ではゲームのマイナス面ばかり強調されていて、ゲームの本質というものが理解されていないからだろうと考えました。つまりゲームの社会的評価の低さを痛感したわけです。

―― それがきっかけで?

馬場 「ゲームにプラスの側面は無いのか?」、「ゲームに効用は無いのか?」、と考えると、いくつか挙がってくるわけです。ゲームをやると気分が爽快になるとか、歴史の武将の名前を覚えていたりとか……。とくに教育の分野では「ゲームが教育に与えるマイナスの影響」についていろいろと言われていたので、逆に教育に関してプラスの影響があるのではないか、また、それを科学的に証明することでマイナスイメージばかりで凝り固まっているゲームのイメージに対して一撃を加えることができるんじゃないかと思って、まずは教育的な側面から解明していこうと。

―― CRESTについてはさまざまな場所で調査報告を出されてます。直近で何か発表される予定はありますか?

馬場 今年発行された「CESAゲーム白書2008」(社団法人コンピュータエンターテインメント協会発行)に文章を書きまして、その中で成果を引用しています。また、10月の東京ゲームショウ2008で配布される予定の「テレビゲームのちょっといいおはなし」にも、ほぼ同じ文章が掲載されることになっています。

 さまざまな機会にたびたび中間報告みたいな形で発表していますが、それはこの研究の進め方として、特に私たちが意識してやっていることなんです。5年なり6年なりの研究期間が終わってからまとめて研究成果を出すのではなくて、社会と対話をしながら研究を進めていきたい。「こういう研究結果がでましたけれども、いかがですか」という社会への問いかけですね。それをしながら、「研究方法がまずいんじゃないか」、「こういう効果も調べてみたらどうか」など、皆さんからご意見をいただきながら研究を豊かにしていく進め方を特に意図しています。こういう研究の進め方はふつうしませんが、ゲームが社会的な存在である以上、必要な方法だと思います。

―― ゲームの研究で5年間の期間があるのは、かなり長いのではないでしょうか。

馬場 そうですね。ですが、私たちにっては5年でも短いかなと思っているんです。というのはやっぱりゲームの影響というのは、そう短期間ではっきりでるものではないので、できれば10年、20年と継続して調べたいとは思っています。残念ながら今は国の助成制度の問題で5年間でやらざるを得ない。

 研究対象が高専の学生達なので、5年間は彼らと一緒に研究ができます。高校に相当する3年間と専門課程が2年間あるので、短くとも5年ちょうどで国の助成期間と同じでいいかなと思うのですが……本来であれば彼らが高専を卒業してからの追跡調査もしたいので、少なくとも10年くらいはあったほうがいいだろうなとは思います。しかし研究は短期間でも、科学的に影響を調べられるような方法を同時に開発しながら、きちんとした成果を出していこうと考えています。

―― 国内では間違いなく初めての試みだとは思いますが、海外ではこういった取り組みは行われているのでしょうか。

馬場 世界的に見ても、MMORPGの教育分野での効果を調べているのは、私たちが始めた研究が多分初めてですね。現在は似たようなプロジェクトがいくつか出てきています。シリアスゲームの分野が多いですね。基本になるものが教育学や、社会心理学など、同じような学問をベースにおいているので、研究手法が国によって大きく異なる、ということはあまりないのですが、何歳の子供を対象にしているか、どういうタイトルでやっているかは違います。

 そこのところは考慮しなければいけませんが、根本的な方法が大きく異なるということはないですね。 研究の期間も、場所によってさまざまです。1年で終わってしまうところもありますし、簡単に英語教育のソフトウエアを使って成績が上がるか下がるかを1、2回の実験で終わらせてしまうところもあります。長期に渡って取り組むところもありますが、継続してというのが他の国でも難しいらしくて、毎年対象となる学生が変わってしまうというのが普通ですね。

―― 先生が海外で発表をされる内容は、日本におけるCRESTの事例に関してが多いですか。

馬場 必ずCRESTの成果については触れるようにしていますけれども、学術的な人々の集まりか、一般の方の集まりかで工夫しながら話しています。明らかにここで始めた研究の影響を受けて、同じような研究始めましたというグループもいくつか世界の中で出てきたので、将来的にはそういった人たちの研究内容と比較ができるようになるとおもしろいですね。民族的な違いであるとか国による違い、当然そこには歴史的、教育制度の違いなんかがあるわけですが、それによって違ってくるのか違わないのかなど、比較できるとおもしろいと思います。

―― 先生の話を聞きたい、講義を受けてみたいという人たちは、どうすればいいのでしょうか? がんばって勉強して東大に受かって、大学院に入る以外の方法はあるんでしょうか?

馬場 メールをいろいろな方からいただくことが多いのですが、スケジュールなどを考慮して、可能な限りは呼ばれれば出かけていってお話しますし、来てくだされば、お話をするようにしています。東大の他の研究室と比べれば、私たちの研究事例は何らかの形で一般の方々との接する機会は多い方ではないかと思っています。今年重視している講演は「学園祭」です。東大の学園祭だけでなく、この秋以降は他の大学でもお話しする予定です。

 そこで主催の学生にお願いしているのは、学生だけではなくて、一般の方々、保護者の方、教育関係の方々、高校生くらいだと大体理解してもらえると思うので、高校生はウェルカムと言う体勢を取ってくださいとお願いしています。小中学生だとちょっと話は難しくなってくるかもしれないですね。本当は小中学生向けにもお話はしたいですが……。まだ、どの学校でどの時間に講演をさせていただくかは発表されていないのですが、もし読者のみなさんのお近くで開催されるようであれば、足を運んでいただきたいと思います。

「オンラインゲームの教育目的利用のための研究」概略

研究目的は、オンラインゲームの正の効用、その中でも教育効果を科学的・客観的に解明し、その分析結果を、オンラインゲームを用いた授業カリキュラムやオンラインゲームの評価基準の確立に結びつけることにある。本グループが仮定するオンラインゲームの教育効果は以下の四段階である。

(1) 学習に対する学習者のモチベーションの形成

(2) 学習者の各分野における新知識の獲得

(3) 世界観・歴史観の形成

(4) 学習者の協調性やコミュニケーション能力の獲得など社会集団の一員としての自覚と社会的スキルの涵養

平成19年度は詫間電波高専の日本史・世界史の授業で、2週間にわたって株式会社コーエーのMMORPG「大航海時代 Online」を用いた講義を受けてもらい、プレイ前後に「社会的スキル」、「歴史関心度」、「学校満足度」などの要素を含む質問紙調査を実施した。

「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」 平成19年度実績報告より

「オンラインゲームの教育目的利用のための研究」の風景。ただゲームをプレイしているだけではなく、目的を持った様々な授業を行っていることが分かる

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2311/07/news087.jpg 寺田心、40センチ身長伸びすっかり大人の姿に 「別人すぎてビックリ」「めっちゃデカくなってる」と驚きの声
  2. /nl/articles/2311/07/news127.jpg 指揮者・山脇幸人さん急逝に衝撃「31歳という若さで深い悲しみ」「これからが楽しみでした」 死去2週間前にはステージへ「感謝です」
  3. /nl/articles/2311/07/news042.jpg 飼い主と5日ぶりに再会した甘えんぼ猫、喜びがあふれだして…… 200万表示突破の愛情表現に胸がギュッとなる
  4. /nl/articles/2311/07/news048.jpg 長崎県の近海でカヤック乗艇中、3メートル級のサメに遭遇 リアル“ジョーズ”の一部始終が手に汗握る緊迫感
  5. /nl/articles/2311/06/news047.jpg 隣家にいった飼い主、ふと視線を感じると柴犬たちが……? じーっと監視するワンコきょうだいの圧に爆笑
  6. /nl/articles/2311/06/news051.jpg 「それでも かぶは 抜けません」 大きなかぶが抜けない“まさかの理由”に「でしょうね」とツッコミ殺到
  7. /nl/articles/2311/06/news044.jpg 寿司を見て「おいしそう」とつぶやき、マグロとエビを注文した男が食べずに店を出たのはなぜ? 「ウミガメのスープ」クイズに挑戦!【レベル1】
  8. /nl/articles/2311/07/news027.jpg ママにはチューしたい猫ちゃん、パパが顔を近づけた瞬間…… 「は? 無理」と虚無顔になるビフォアフが面白すぎる
  9. /nl/articles/2308/03/news157.jpg 寺田心、すっかり青年に成長した姿に視聴者驚き 「大人になったなあ…」「もうこんなおっきいの!?」
  10. /nl/articles/2311/06/news117.jpg 「スト6」フランス大会決勝、モニターにペンキで中断 環境団体乱入で
先週の総合アクセスTOP10
  1. 柴犬「友達〜!!!」 お母さんの寝坊で散歩が遅れた柴犬、ワン友に会えず……→怒りMAXの拒否柴発動に母「スマン……」
  2. 「やばい電車で見てしまった」「おなか痛い、爆笑です」 カメがまさかの乗り物で猫を追いかける姿が予想外の面白さ
  3. 父の出張で元気がなくなったデカワンコ、1週間ぶりの再会で…… 感情爆発な姿が「涙腺崩壊しました」と415万再生
  4. これは消せないな! DAIGO、3歳娘の落書きが超ほっこり「最高の壁です」 満点パパな対応に「優しい」「愛おしいですね」
  5. 寺田心、40センチ身長伸びすっかり大人の姿に 「別人すぎてビックリ」「めっちゃデカくなってる」と驚きの声
  6. 素潜りでイソマグロを突いたら海に引きずり込まれ…… 水深25メートルの激闘が100万再生「怖い」「磯のダンプカー」
  7. 動物病院の駐車場に着いた瞬間、柴犬が…… 無の表情で震えだす姿に「抱きしめてあげたい」「頑張って!」とエール続々
  8. 「好き好きが止まらない」「こりゃたまらんですなー!」 獣医師を好きすぎる柴犬、診察台でのかまちょ攻撃がもん絶の愛らしさ
  9. カナダ留学中の光浦靖子、得意の手芸でまたしても力作を生み出す 「クオリティ高すぎ」「もープロですね」
  10. 柳原可奈子、脳性まひの3歳長女が“念願の晴れ着姿” 幸せあふれる七五三写真に「見るだけで涙」「愛が沢山」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 病名不明で入院の渡邊渚、3カ月ぶりSNS更新で「表情に違和感」「そこまで酷い状況とは」 ベッド上で「人生をやり直すこともできません」
  2. 動かないイモムシを助けて1年後のある日、窓の外がありえない光景に 感動サプライズが「アゲハ蝶の恩返し」と話題
  3. 「スカートはないわ」「常識無視の番組でびっくり」 山下リオ、登山中の服装批判巡って反論「私が叩かれているようですが」
  4. 「千鳥」大悟、大物美人俳優にバッグハグされた表情に注目集まる 「マジ照れのお顔ですね」「でれでれやん」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 神田愛花アナ、拡散された女子中学生時代ショットにスタジオ騒然「ヤバい」→“アネゴ感”でSNSもざわつく
  7. 「生きててよかった」 熊谷真実、美麗な初“袋とじ”グラビアで63歳の色気全開 真っ赤なドレス着こなす姿に「すごいプロポーション」
  8. 尻尾がちぎれた小さな子猫をサーキット場で保護→1年後“ムキムキ最強生物”に 驚異の成長ビフォーアフターに注目集まる
  9. 双子モデル・吉川ちえ、美容整形後のひたいが“コブダイ”状態へ 多額の費用要した修正手術で後悔も「傷がこんなに残りました…」
  10. 「犬ぐらい大きくなれよ」と願い育てた保護子猫が「まさか本当に犬ぐらいになるとは」 驚異の成長ビフォーアフターが192万表示!