僕らが作っているのは「作品」ではなく「商品」――宮本茂氏が30年の仕事史を振り返る(2/3 ページ)
周囲からは猛反発を受けた「ゼルダの伝説」
続いて宮本氏は、同氏を代表する二大シリーズとなる「スーパーマリオブラザーズ」、「ゼルダの伝説」が生まれた背景についても言及。ここで宮本氏から、「当初『スーパーマリオブラザーズ』は最後のファミコン用ソフトと考えていた」という発言があり、会場からどよめきが上がる。
というのも、当時ファミコンは発売からすでに3年近くが経過しており、通常の玩具のサイクルで考えれば、そろそろ次の世代への移行を考えるべきタイミングにさしかかっていた。実際、任天堂はこの年「次の世代」としてディスクシステムを発売しており、宮本氏も「今後はディスクシステムが主流になる」と考え、「その前に、最後に『一番分かりやすいゲーム』をカートリッジで作ろう」と「スーパーマリオブラザーズ」を開発したのだそう。
ところが発売してみると、この「一番分かりやすいゲーム」が大ブレイクしてしまった。しかも翌年にはあの「ドラゴンクエスト」もエニックスから発売され、世は空前のファミコンブームに。結局、任天堂や宮本氏の狙いに反し、スーパーファミコンが発売されるまで5年間にもわたってファミコンの時代は続くこととなった。
また一方で、「ドンキーコング」「スーパーマリオブラザーズ」とは正反対のコンセプトから生まれたのが「ゼルダの伝説」だったという。「いつまでもゴールを目指すだけでは面白くないだろう」と考えた宮本氏は、当時すでにPCで流行のきざしを見せていたRPGから着想を得て「成長」という要素をアクションゲームに取り入れることを考案。さらに広大なマップの中から「プレイヤーが自分でゴールを探し出すゲーム」を作ろうとした。
しかし、実際に作ったものを見せたところ、周囲からは「どこにゴールがあるか分からないゲームなんか売れるわけがない」と猛反発を受けたという。宮本氏は「自分で見つけるのが楽しい」と信じていたが、周りはそれでは納得しなかったというわけだ。
では、どうすれば周囲を納得させられるだろうか? そこで宮本氏が考えたのが、主人公リンクから「剣」を取り上げてしまうことだった。そのかわりスタート地点に「どう見ても入れと言わんばかりのほら穴」を用意しておき、中に入るとおじいさんが剣をくれるようにした。こうすることで「成長するって嬉しいことなんだ」ということをユーザーに伝えるとともに、「このゲームは自分で怪しいところを探していくゲームなんだ」という暗黙のルールを自然に理解してもらえるようにした。こうして生まれた「ゼルダの伝説」は、日本のみならず海外でも大ヒットを記録し、以降、「マリオ」と「ゼルダ」は宮本氏の二枚看板として広く認知されるようになっていく。
失敗を恐れず、悩まないことが成功を生む
上記「ゼルダ」もその一例だが、宮本氏は仕事のうえで、周囲からたびたび大きな反発を受けたことがあったという。例えばファミコンの十字ボタンも、今では当たり前のように受け入れられているが、当時アーケードゲームで遊んでいた人からは「スティックでないと遊べない」と猛反発があった。また、スーパーファミコンのころ(※)には、周囲では「ストリートファイターII」のヒットを受けて「ボタンを増やしたい」という声があがったが、宮本氏はいずれも「そのうち慣れるよ」とあくまで楽天的だったという。
また「ポケットモンスター」や「星のカービィ」を海外に展開する際、「北米のユーザーはキュートよりもクールなものを好むから」と、キャラクターデザインの変更を迫られたこともあった。しかし、このときも宮本氏は「日本のユーザーが面白かったと言うものはきっと受ける。そのままでいこう」とゴーサインを出した。もっと反発が大きかったのはWiiで、「あのときは海外で誰かと会うたびに、どうしてあんな名前にしたのか、気が狂ったのかと言われた」のだそう。しかし上記のいずれも、今となってはみんな「慣れて」しまった。
「みんなが言う『こうじゃないとダメ』って意外といい加減なんです。深く入り込んでる人ほど保守的になる。海外ではクールなキャラクターしか受けないのだったら、マリオはなぜ売れたのか。僕らの仕事はキャラクターを持ってくることではなくて、面白いゲームを作ること」(宮本氏)
こうしたエピソードからも分かるように、宮本ならではの仕事のスタイルのひとつは「悩まない」ということだろう。もちろん成功の裏には多くの失敗もあったが、それさえ宮本氏は「失敗しても次の糧になる。人生に無駄なし」とあっけらかんと答える。「チャレンジしていれば悩まない。そのうち慣れるようなことにまでこだわってたら、新しいことなんてできないですよ。目をつぶって一気に進むべきところと、そうでないところは使い分けていかないとやっていけない」と宮本氏。反発を受けるのは、それだけ氏が新しいことにチャレンジしているからだとも言える。
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