朗読エンタテインメント「キキコトバ」第1回公演「『タルト・タタンの夢』より〜オッソ・イラティをめぐる不和〜」リポート&独占インタビュー
2月17日、東京ドームシアターGロッソにおいて、朗読エンタテインメント「キキコトバ」の第1回公演「『タルト・タタンの夢』より〜オッソ・イラティをめぐる不和〜」が催された。
本公演は、近藤史恵の短編集「タルト・タタンの夢」を原作とする朗読劇と、フランス料理に関するトーク・ショーの2部構成となっている。出演したのは、菅沼久義さん(ギャルソン・高築智行役、語り部)、緑川光さん(料理人・志村洋二役)、置鮎龍太郎さん(客・脇田役)、浅野真澄さん(ソムリエ・金子ゆき役)、銀河万丈さん(シェフ・三舟忍役)という、人気もさることながら、実力も折り紙付きの青二プロダクションが誇る5名の声優。
今回は、「フランス料理」がテーマという事で、いつもの声優イベントとは一味違う、大人な雰囲気に包まれた公演のリポートをお送りする。
チーズに隠された秘密とは……?
今回は文芸作品を原作とする朗読劇、という事もあり会場の客層の年齢層も、やや高めの印象である。開演前の待ち時間も、どこか落ち着いた雰囲気が漂っている。
やがて開演時間になると、自身が演じる役柄をイメージした衣装に身を包んだ出演者達が、ステージに姿を見せた。
ギャルソンを演じる菅沼久義さんとソムリエを演じる浅野真澄さんは黒をベースとした制服、レストランのスタッフを演じる緑川光さん、銀河万丈さんは白い制服姿、そしてサラリーマンを演じる置鮎龍太郎さんはスーツ姿。
ビシッとスーツを着こなす置鮎さんもさることながら、レストラン・スタッフになりきった残りの出演者もバッチリと決まっている。特に長いシェフ帽をかぶる銀河さんのハマり具合は特筆モノだった。
物語の舞台となるのは下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。そこに訪れる客が巻き込まれた事件を、風変わりなシェフが極上のフランス料理とともに解決していくという内容の「タルト・タタンの夢」は、ギャルソン・高築智行(菅沼さん)の視点で物語が語られる。通常の小説のセリフ部分を各出演者が演じ、それ以外の地の文を菅沼が読み上げるといった具合だ。
今回の「オッソ・イラティをめぐる不和」という物語は、妻が実家に戻ってしまい、その理由が分からずに一人悩むチーズ好きなサラリーマンに、シェフが特別メニューを用意し、それをヒントに謎が解き明かされる、というちょっとしたミステリ仕立ての内容。そんな等身大の悩みを抱えた人間のドラマを、各出演者は自然体の落ち着いた演技でじっくりと表現した。
言葉だけで繰り広げられる物語に、観客はじっと耳をそばだてて聴き入るのだった。
第2部はキャスト陣によるトーク・ショー
朗読劇の後は、出演者によるトーク・ショーが行われた。
出演者も制服から通常の衣装に着替えて、ややリラックスした様子だ。とはいえ、今日はフレンチをテーマにした、アダルティなステージという事で、置鮎さんは先程と同じスーツ姿だが、残りの男性陣もフォーマルなスーツ、ジャケット・スタイルで。そして紅一点の浅野さんはエレガントなワンピース姿で再登場した。なお、ここからは朗読劇でも語り部を演じた菅沼さんが、司会を務めた。
まず最初のトークのテーマは朗読劇の感想(以下、敬称略)。
菅沼 大先輩を差し置いて、あれだけ長いモノローグをしゃべるのは初めてだったので、ものすごく緊張していました。
緑川 制服のズボンって、チャックじゃなくてボタンなんですよ。油断するとこれが開いてしまうんですね。さすがに今日は開いていたらまずい! と思い、そこばかり注意していました(笑)。ちなみにさっき確認したら大丈夫でした(笑)
置鮎 この角度の客席に向かってやるのって初めてなので(会場のGロッソは客席が縦に伸びており、後方の席になると2階から1階を見下ろすような感じになる)難しいなと思いつつ、新鮮な気持ちでやらせていただきました。
浅野 立ちっぱなしで演技をしなくてはいけなかったのですが、ソムリエらしく格好良くしていなきゃいけない、という事が大変でした。ずっとプルプルしてました(笑)
銀河 帽子のバランスを取るのが意外と大変で、けっこうプルプルするんです。今日のキーワードはプルプルですね。
と、一様に今回の朗読劇ならではの感想を述べる。次の「得意な料理」というテーマでは、「料理は作らない」という浅野さんと緑川さんや、「袋ラーメンに野菜をのせた物にハマっている」という菅沼さん、「カレーかシチューなら作れる」という置鮎さんなど、どちらかというと料理に関しては無頓着な意見が飛び出してきたが、その中で銀河さんは「時々煮物を無性に作りたくなる」とコメント。役柄だけでなく、日常でも本格的に料理を嗜んでいる様子に、一同は「すごい!」と感心するのだった。
作中の料理を実食!
和やかなトークが続く中、菅沼さんが「フレンチは少し敷居が高いと思われている方も多いかもしれません。そこで、今日はもっと皆さんに身近にフレンチを楽しんでもらおうと思います」と、本物のフランス料理のシェフがゲストに登場。出演者達は、朗読劇中で事件解決のキーワードとなった、ヴァン・ショー(注1)とオッソ・イラティ(注2)を味わいながら、シェフのフレンチに関する解説に耳を傾けるのだった。
なお、今回の出演者達に共通していたのが「お酒に強くない」という事。当初は「お酒が飲めないんですよ」と、皆一様に不安がっていたのだが、フランスでは子供も風邪を引いた時に口にするというヴァン・ショーは、彼らにとっても大変飲みやすかったようで、口々に「美味しい!」と舌鼓を打った。
続いて作中と同じように、オッソ・イラティを黒さくらんぼのジャムにつけて食べる一同。癖の強い味だと作中では語られていたが、これまた「美味しい!」と出演者達は口々にコメント。フランス料理というと格式張った食事、というイメージが一般にはあると思われるが、まったくそんな事はなく、くだけた雰囲気の中でどんどん食が進む出演者達。
見ているだけでお腹が鳴ってしまいそうな、美味しそうな光景がステージ上で繰り広げられていた。
※注2:フランスのピレネー山脈の一部地域でのみ少数生産される羊乳チーズ。ほとんど地元で消費されてしまうため、日本国内に出まわる事は少ない。
ほろ酔い気分で質問タイム
お食事タイムが終わり、ここからは質問コーナーがスタート。ここで菅沼が、ファンの誰しもが「聞きたいと思われること」を想像して、質問を各出演者に投げかけた。
緑川さんへの質問は、「忙しいはずなのに最新のゲームをすぐにクリアしてしまう緑川さんは、一体いつ寝ているんですか?」というもの。この質問に対しては、「夜中の4時前には布団に入って、5時半には目が覚めてしまう」という驚きの回答が飛び出し、出演者・会場ともに「えー!」と思わず驚愕してしまう。「長時間眠る時は小刻みに寝て起きてを繰り返す。逆に徹夜なんて絶対にできない!」と力説する緑川さんに、置鮎さんは「全然共感できない!」とコメントした。
置鮎さんへは「休日はなにして過ごしていますか?」という質問。「夜更かしして、午後に起きて、宿題(台本読みなど)をしてたら一日が終わるんだよね。車も持っているけど、ドライブも最近は全然行ってない」と、ちょっぴり寂しい(?)休日を過ごす置鮎さんに、菅沼さんは「じゃあ、今度ドライブに行きましょう。ふたりで」と発言。それに対し、「君とか(笑)!」と置鮎さんは困ったようにツッコミを入れるのだった。
その他、自身も作家として活動する浅野さんは「お薦めの本は何?」と問われ、「今日朗読劇を演じた『タルト・タタンの夢』は、大変読みやすい内容で、フランス料理への敷居がちょっとだけ下がりました」と、原作の面白さと魅力をアピール。
また、銀河さんへは、「お宝グッズは何?」という質問。それに対し「お宝なんてものじゃないのですが……」と頭を捻りつつ、「着物かな?」と回答。この着物は、毎月銀河さんが主催している朗読会で着用しているという。
アルコールを飲みながらのせいか、素の表情でトークを繰り広げる出演者達。まるで、仲の良い友達同士の気安い会話をしているかのようなステージ上の彼らに釣られて、会場全体が和やかな雰囲気に包まれていた。そして最後に、出演者の挨拶で舞台は終了となった。
菅沼 今日はつたない自分の進行を温かく見守ってくださり、本当にありがとうございました。
緑川 原作の本を読ませていただいた時、仕事抜きで楽しめて、フランス料理への敷居が少し下がったような気がします。さらに、今日は美味しい物を食べられて幸せです。この仕事をやっていて本当によかったと思います。……僕、酔っぱらいじゃないですよ?」(と、ここでGロッソはヒーローショーが行われている会場ということで、いきなりヒーローのポーズを取る)
置鮎 僕はお客さんの役なので、今回のみの出演となりますが、またご友人などをお誘いの上、ご来場ください。
銀河 この朗読劇には、様々な隠し味が隠されています。これからも、我々で腕によりをかけておいしい作品にしていきたいと思っています。
浅野 私は朗読劇が初めてだったのですが、こんなにたくさんの人が耳をかたむけてくださっているのを見て、やりがいがありました。
なお、朗読エンタテインメント「キキコトバ」 は今後4月、5月に同じ東京ドームシアターGロッソにおいて2回、3回めの公演が行われることが決定している。第2回のタイトルは「『タルト・タタンの夢』より 〜ロニョン・ド・ヴォーの決意〜 」。
今回に引き続き菅沼久義さん、緑川光さん、浅野真澄さん、銀河万丈さんの4名の他、神田朱未さん、真殿光昭さんの出演が決定している。アニメ、ドラマCDなどとはひと味違う、等身大の大人の演技を堪能できる朗読エンタテインメント「キキコトバ」 は、今後も要チェックだ。
公演終了後、菅沼久義さんに突撃インタビュー!
公演終了、主演の菅沼久義さんにインタビューを敢行! 本公演にかける熱い想いを語ってもらった。
── 「キキコトバ」というイベントはお芝居とトークのどちらがメインですか?
菅沼 もちろん劇です。作品を真剣に聞いていただいた後に、トークで緊張した体をほぐしていただいて一緒に楽しい時間を過ごせたらと思っています。今回は僕が滑りっぱなしだったのですが(笑)。ただ劇とトーク、両者の間にフレンチというキーワードがあってちゃんと関係しているという感じです。
── 今回は色々な年齢層の方が観客として訪れていたように感じました。原作のファンの方も当然いらしたとも思います。そのせいか他の声優イベントではあまり見られない、全体的に落ち着いた大人な雰囲気のイベントでしたね。
菅沼 珍しい雰囲気ですよね。ただ今回はやっぱりフレンチを題材にしているので、礼儀正しいというか、おごそかな感じでやりたいと思っていました。でも敷居が高くなりすぎないようにという事で……。今回の劇で扱ったフレンチと一緒で、普段あまり馴染みのない朗読劇を気軽に楽しめていただければ幸いです。
── 次回の目標は何でしょう?
菅沼 高槻くんは役の上では半人前という事で、僕とかぶるところがあるので彼と一緒に成長していけたらなと思います。そして「キキコトバ」というタイトル通り、我々が発する言葉を皆さんに受け止めていただけるよう、精一杯がんばります。そして第2部のトークでは、役から離れて皆さんと一緒になって楽しめれば、と思います。
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