くねくねハニィの「世界不況がもたらす影」 :くねくねハニィの「最近どうよ?」(その28)(3/3 ページ)
前回の原稿をあげてからアメリカに取材に行ってた様子のくねくねハニィ。零下の北東部から30度越えのカリフォルニアまで横断。温度差で大風邪をひいたらしいが、不況を肌で感じてきたかは不明なので、記事を読んでみてはいかが?
業界不調……おまけニュース
この原稿をあげた直後にすごいニュースが飛び込んできました。
Midwayというシカゴにある老舗ゲームメーカーのお話。2008年7〜9月の4半期だけで76億円の赤字を計上して従業員を30名ほどリストラしたってニュースが出たばっかりのMidwayは、今年11月にニューヨーク証券取引市場(NYSE)から上場廃止の通告を受けていたのね。あまりの業績の悪さから1株1ドルを30日以上に渡って切っていたためよ。今年初頭にはロサンゼルスにあったスタジオを閉め、Eidosとの合併を囁かれていたんだけど、現地12月1日のWall Street Journalのニュースによると、Midwayの株を87%(9千2百10万株)握ってたRedstoneさんって人が、このすべてを個人投資家のMark Thomasさんって個人投資家に売っ払ってしまったのだ!!
なんとその金額は10万ドル。え? 1千万円? ちなみに、評価額は30億円。なんと300分の1の価値で譲ってしまったの! チュンソフトがドワンゴに11億円で買われたときも「安い!」って驚いたけど、そんなもんじゃないよね? 「モータルコンバット」が泣くぜ、って思ってたら、ちゃんと理由があったのさ。
そう、その個人投資家が買った株には約70億円の借金がついていたの。結局は70億1千万円で買ったって言ったほうが簡単かも、な事件ですな。いずれにしても株主が変わって上場廃止を免れるだけの売上をあげていけるのかはとっても疑問よ……。
市場と業界のミスマッチ
結論から言うと、市場は堅調、業界は不調、つまり、ちぐはぐな状況なのだ。せっかくゲーム市場が成長しているのに、業界がもろもろの事情のためよろしくない。市場の急激な縮小に繋がってしまうのでは? とちょっぴり心配になるよね。日本市場が黎明期〜全盛期を越えて、閉塞感を感じている現在の状況に、北米も急激に向っているのではないかと感じるから。
市場が求めるタイトルをメーカー側がこれからも供給していけるのかは非常に疑問だね。特にニッチタイトルやイノベーティブなものの発信はしばらく期待できないかもしれないね〜。残念。大型タイトルは絶対に売れる、でもそれ以外はリスクなので作らない、ってうねり(ハリウッド化)を肌で感じてるのはハニィだけではないはず。複雑な心境だなぁ。ダイナミズムを持ってタイトル供給をし続ける北米のパブリッシャーには敬意を払っていたのだけどなぁ。
日本のゲーム開発への影響は?
北米のパブリッシャーが大型タイトルにコストと人材を集約してくることが考えられるので、さらに競争はクオリティのハードルは上がるでしょうな。そうなってくると、日本開発のタイトルはよほどの個性を出すか、よほどの競争力を持ったクオリティを発揮しない限り厳しいものになってくると思われるです。
ただし、これも見方を変えればいいこと。北米のパブリッシャーがこぼれ落とすニッチ市場を埋めてやるんだ! って考え方もあるわけですな。市場は求めているわけだから、供給する方法さえ間違わなければ、道はあるはず。しかぁーし、円高(っつーか、ドル安ユーロ安なんだけどねぇ)も影響して、日本開発が安いってのもなかなか通用しなくなってきたんだなぁ。
ってことで、市場がいいという状況だけでは語れない目に見えない影響がジワジワと日本にも押し寄せているのだね。海外を意識した開発をしている方々には、こんな状況になってるってことも踏まえた上で、戦略を間違えないでいただきたいと思ってるハニィでやんす。
しつこいけど、ダウンロードコンテンツへの移行を本気で考えて!
市場がいいのに業界がダメっての原因には、リテーラーの存在が大きいってことは前述の通り。だからすっ飛ばせればいいのだ。つまり、業界の不透明感を打破するには、ユーザーに直接働きかけるダウンロードコンテンツへの模索を! ってことです。インフラや今までの商慣習を考えると、販売チャネルを全面的にダウンロードに移行するのは難しいと思うけど、業界の構造的問題をはしょるには早道と言えましょうな。
コスト面でもCOD(Cost of Goods 製造原価)やプロモーション、在庫管理、輸送費なども無視できる。さらに、カジュアルゲームからフルフルのゲームまでチョイスができて値段設定も自分でできるため、ある程度の冒険もできるのだよ! せっかくのWii Ware、PSN、XBLAなんだから、ぜひ始めてくださいね! しつこい?(笑)。
ハニィのあとがき
ちょっと前に書きたかったトピックなんですが、実際に現地に行って見てきてからと決めていたので、このタイミングになっちゃいましたけど、いかがだったですかねぇ。せっかく現行機が出回って、これから業界が活性化するなぁって思ってた矢先の世界経済の悪化ですよ……。ホント、ここまですごいことが起こるとは思ってなかったなぁ。
今回お店をまわってみて(専門店には今回行ってないので、家電量販店のみ)思ったのがPS2タイトルの棚が減ってること、PSPタイトルの棚は更に減ってて並んでるソフト数も少なかったということ。実際に新規タイトルがあんまり投入されないのでしょうがないのかもね。
一番仰天したのがPSPタイトルの値崩れ具合。最安値4.99ドル(500円くらい)ってのがいくつかありましたの。これってメーカー絶対赤字だよなぁと思いながら、ニンテンドーDSはどうなんだろう? って思ったら、ニンテンドーDSタイトルは値崩れしても19.99ドルが主流で、たまに14.99ドルってのがあるくらい。製造コストが高いニンテンドーDSだからあんまり値崩れされても困るんですけど、グラフィッククオリティが高いはずのPSPタイトルの値段がここまで落ちてしまうのは何だか悲しい感じがしたハニィでした……。
そんなこんなで、年末商戦追い込みの12月が始まりました。業界と市場のミスマッチが市場縮小へと導いてしまうのか、それとも市場が業界を持ち上げてくれるのか、それを占う意味でもこれまでにない重要な商戦期かもしれないね。しっかりリポートしていく予定(予定は未定?)なんでよろしこ。
年賀状も書かんとなぁ。先生のみならずハニィも走る師走ですワン!
くねくねハニィのプロフィール
1967年アメリカサウスダコタ生まれの日本人。
小学生からはゲームセンターに通いまくってやたら大きく育つ。
1990年に都内K大学を卒業後、大手ゲーム会社にて海外ソフト担当となり、2001年に退職。それ以降は自称フリーのゲームアナリストとして暗躍。暗躍しすぎたので名前を変えて表舞台に。くねくねと唐突に現れて「親父ギャグ」をかまして周りの人々のレベルを下げまくる。独特の語り口調ですが、もう慣れてくださいとしか言えません。言ってる中身は至極マジメなので。ちなみに「風来のシレン」が好物で、名前もそこから借用。なんだか公認してもらったそうです。
ちゃんと年内に間に合いました。あと1本くらい行けますか?
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