第21回 TAG Heuerのスマートウォッチに期待する、対Apple Watchの攻め手“ウェアラブル”の今

Apple Watchのおかげで、腕に付けるデバイスへの注目は上がっているが、長らく腕を占有してきた腕時計メーカーはどう動くのか。世界最大の時計イベントBaselworld 2015では、TAG Heuer、Google、Intelの協業が発表されるなど、動きが激しい。

» 2015年03月25日 11時00分 公開
[松村太郎ITmedia]
TAG Heuer Carrera 新しいAndroid WearのベースになるとうわさされているTAG Heuerの「Carrera」

 Apple Watchの発売まで、1カ月を切った。4月10日には予約が始まり、アップルストアや伊勢丹などでの展示も始まる。2014年9月の発表から実に7カ月を経て、いよいよ市場に投入されようとしている。

 そんな中、スイスでは3月19日から、世界中の宝飾・時計ブランド2000以上が出展する非常に華やかなイベント、Baselworld 2015が開催されている。ここで、モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)グループの宝飾時計ブランド、TAG Heuer(タグ・ホイヤー)が、スマートウォッチへの取り組みを披露した。

 TAG Heuer CEOのジャン=クロード・ビバー氏がステージに呼び込んだのは、GoogleのAndroid Wearエンジニアリング・ディレクター、デビッド・シングルトン氏と、Intel副社長兼ニューデバイス事業本部長、マイケル・ベル氏。

TAG Heuer、Intel、Google TAG Heuer、Intel、Googleの3社がスマートウォッチで協業する。左からTAG Heuer ゼネラルマネージャーのガイ・シーモン氏、TAG Heuer CEOのジャン=クロード・ビバー氏、Intel副社長兼ニューデバイス事業本部長のマイケル・ベル氏、GoogleのAndroid Wearエンジニアリング・ディレクター、デビッド・シングルトン氏

 時計、プロセッサー、ソフトウェアの分野での協業を、ビバー氏は「シリコンバレーとスイス・TAG Heuerの融合」と声高に叫んでいたのが印象的だった。自社でブランドを確立しようとするAppleに対抗するメッセージであることも読み取ることができる。

TAG Heuer×Intel×Google

 TAG Heuerはスイスの高級時計ブランドで、これまでクロノグラフなどのスポーツウォッチに力を入れ、その発展に貢献してきた。2003年まではF1の公式時計も担当しており、そのイメージを持つ人も少なくないはずだ。

 Intelは、2015年1月に発表した「Curie」(キュリー)が武器になる。ボタン大のデバイスにも搭載できる、超低消費電力のウェアラブルデバイス向けモジュールで、384Kバイトのフラッシュメモリーに80KバイトのSRAM、DSP、センサーハブ、Bluetooth LE、センサー類などを搭載する。

Curie IntelのCurie。シャツのボタンほどの大きさの超低消費電力なウェアラブルデバイス向けモジュール

 Curieは、IntelのIoT戦略に欠けていたピースを埋める製品として注目されており、時計メーカーのFosssilや、サングラスやアパレルのブランド、OAKLEYと提携を決めている。TAG Heuerのスマートウォッチにもこれが搭載されることになるだろう。

 またCurieで動作するのは、Android Wearとなる。Android Wearは、すでに多数のスマートウォッチが活用しており、デバイスとスマートフォンとの連携や、多彩な機能の活用が可能になる。

 Appleが1社でやることを、3社協業で行う体制は、PC市場やスマートフォン市場と重

なる。台数の面で協業体制の方が圧倒的に増えることは間違いない。

 スマートフォン市場ではApple 1社が半分以上の利益シェアを獲得する結果となっているが、スマートウォッチについては価格が高いこともあり、売上や利益の面でもApple以外の企業に可能性がある。

 Androidでも起きている、ハードウェア、ソフトウェアなどの仕様や、対応するデバイスに関する「断絶」も発生することになるだろう。ただし、スマートフォンほど大きな影響を与えるものではないと考えている。

時計としての魅力

 TAG Heuerのスマートウォッチに対する期待は、「スマートウォッチ」という種別をなくすことかもしれない。すなわち、スマートウォッチそのものに魅力を感じなくても、ブランドやデザインに惹かれて買った時計が、スマホにつながる、という自然な世界が訪れるのではないか、ということだ。

 もちろん、活動やスポーツのトラッキングは重要な機能であり、スマートウォッチの最も基本的な機能として使われることになる。またスマートフォンからのフィードバックを受け取って、腕に何らかの通知を返す機能も、今後必須になっていくだろう。ただし、必ずしもディスプレイが必要なわけではないと思う。

 電源確保の問題は何らかのバッテリーで対応する必要があるかもしれないが、自動巻きで動作する時計が多い中で、バッテリー交換をせずに自動巻きでスマートウォッチの機能をまかなう仕組みにも期待できる。機構が複雑化して搭載しにくくなることも考えられるが、電源周りのモジュール化にも期待だ。

 スマートウォッチとしての機能のアピールではなく、できるだけ、これまでどおり普通の時計として扱うことができるようにすることが、成功の秘訣だと言える。特に、Apple Watchにはバッテリーへの不満が発売前から寄せられているが、1日しかバッテリーが持たない高級腕時計などないからだ。

 また、時計が持つ、モノとしての魅力も、TAG Heuerをきっかけとしたスイスメイドのスマートウォッチが担う役割だろう。時を刻む部分と、これに付加された機能がバランス良く進化していくことになるはずだ。

TAG Heuer Japan TAG Heuer JapanのCarreraを紹介するページ。新しいスマートウォッチはこのCarreraをベースにしたものになるといううわさがある

Android WearのiPhone対応

 もう1つ、別の視点からの期待は、タグホイヤーとしては、Anroid WearのiPhone対応を望むのではないか、という点だ。

 もちろんスマートフォンの世界シェア8割以上を占めるAndroidに対応していれば問題ない、とも思えるが、先進国でシェアを伸ばしたiPhoneのユーザーを逃す訳にもいかない。

Apple Watchに対抗する意味では、当面Android Wear搭載のスマートウォッチがiPhoneに対応する必要はないが、近い将来、Android WearのiPhoneサポートが実現することになるだろう。

 今回の3社の提携は、スマートウォッチに対する取り組み方の1つの例を示すことになった。TAG Heuerが属するLVMHの他のブランドへの波及があるのかどうか。あるいは全く別のブランドが、この枠組みを活用するのかどうかなど、不透明な部分も大きい。

 ひとまず、Apple Watchを迎え、消費者がどのような反応を示すのかを見極めたい、というブランドも少なくないはずだ。今回の場合、その戦略は間違っていないのではないか、と考えられる。

 他社が考える隙を与えないほどAppleが時計ブランドとして急成長する、というわけでもなさそうだからだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/25/news134.jpg 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  2. /nl/articles/2411/25/news135.jpg 大谷翔平&真美子さん、“まさかの姿”に!? 大谷・地元の空港がMVP祝福で湧く 「真美子夫人まで」「怖いぞ…」
  3. /nl/articles/2411/22/news184.jpg 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  4. /nl/articles/2411/22/news145.jpg 大谷翔平と真美子さん、「まさかの服装」に注目 愛犬デコピンも大谷家全員で“歩く広告塔”ぶり発揮か
  5. /nl/articles/2411/21/news080.jpg ネットで大絶賛、ワークマンの服に“破損”報告…… 自主回収で「心よりお詫び」 監修インフルエンサーも謝罪
  6. /nl/articles/2411/24/news038.jpg ワゴンに積まれていた“980円の激安デジカメ”→使ってみると…… まさかの仕上がりに「お得感がすごい」
  7. /nl/articles/2411/25/news073.jpg 「上手いwww」 小学5年生、社会のテストで漢字をド忘れ→ひねり出した“天才的な回答”が240万表示「この子出世する」
  8. /nl/articles/2411/24/news005.jpg 25年も放置されていたマツダの名車が…… ピカピカに磨き上げられた初代RX-7に「とてもかっこいいクルマ」「素晴らしい仕事をしたね」
  9. /nl/articles/2411/22/news133.jpg 茶色い石→磨いたら…… “信じられない変化”が370万再生 美しすぎる“まさかの正体”に「とてもきれい」「ただの石だったのに!」
  10. /nl/articles/2411/25/news175.jpg 「真美子さんに似てる」 大谷翔平、“そっくりさんコンテスト”に反響 「なんだこれw」「めっちゃ似てる」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた