学校給食の「牛乳廃止」 栄養学的な問題は?
新潟県・三条市の教育委員会が「学校給食における牛乳の提供停止」を検討しています。栄養学的に問題はないのか、管理栄養士に聞きました。
新潟県三条市内にある小・中学校の学校給食で、2015年9月からの「牛乳の提供停止」を決定したことが先ごろニュースとなりました。4カ月間の試験期間を経ての決断。賛否両論が飛び交うこの問題を栄養面から考えるべく、管理栄養士の穴山幸氏に話をうかがいました。
三条市では2008年、それまでのパン給食から完全ご飯給食に切り替え、市内全ての小・中学校で地元の野菜や卵、肉を使った和食中心の給食を提供し始めました。以来、「ご飯と牛乳は合わない」との意見が多く、2014年12月〜2015年3月までに試験的に牛乳の提供を停止。その分、他の食材で栄養を賄うよう工夫が行われました。
その後、試行期間を終えた4月以降は給食に牛乳が復活していましたが、6月30日、三条市教育委員会が「給食の牛乳廃止を決定した」と発表。同時に、給食とは別にドリンクタイムを設け、引き続き牛乳を提供していくことも説明しています。
栄養学的に問題なし。むしろ、日本人に適した内容に?
――三条市では今後もドリンクタイムで牛乳を提供していくとのことですが、給食から牛乳を外しても、栄養学的に問題はないのでしょうか?
穴山さん:給食は、基本的に管理栄養士が栄養価を計算して献立を立てています。牛乳に豊富に含まれるエネルギーやカルシウムなどを、他の食材で補給することができれば、栄養価が不足する心配はありません。そして、日本人の80%近くが「乳糖不耐症」である、といわれていることはご存じですか?
――乳糖不耐症とはどういったものでしょう?
体質として乳糖が適合していない。胃腸が乳糖をきちんと処理しきれないということです。つまり、どんなに牛乳を飲んでもその栄養を吸収できない体質を、日本人の多くが持っているわけです。そう考えると、毎日の給食で牛乳を飲む必要はないのではないか、というのが私の個人的な見解です。
――なるほど。そもそも牛乳を受け付けない体質なら、飲んでもあまり意味がないと。では、その分の栄養を代わりに摂るにはどういった食材が適しているのでしょう?
牛乳に含まれている主な栄養素は、タンパク質に脂質、そしてカルシウムです。これらは、例えば肉や魚、卵、ゴマなどの種実類、青野菜などで代替することができます。ただし、牛乳は液体である分、栄養素の吸収率が高いというメリットがあります。ですから、他の食材で栄養素を補給する場合は「よくかんで食べる」ことがとても大切になります。その意味では、総合的な食育も同時に進めていくべきだと思います。
給食以外の、家庭で食べる食事も見直すきっかけに
――三条市の牛乳一時廃止について、穴山さんご自身はどう思われますか?
個人的には賛成でした。中でも、私が個人的にもっとも同意した点は、三条市が試験的な牛乳一時廃止を発表した際に述べた「家庭への啓発」についてです。
1日3食のうち、2食は家庭で食べるものであり、その家庭での食事もあわせて必要な栄養が摂れるよう、声がけをしていくとしています。また、毎日の食を家族で見直すきっかけにもしてほしいと訴えていました。ここに強く同意するとともに、大人に対する食育も急務であると実感しました。
今回三条市が取った、4カ月の試行を経てさらに検討を重ねるとした進め方にも問題はなかったと思います。試行後のスクリーニングの方法や、今後の対応についても、興味深く静観したいと思います。
まとめ
実は、穴山さん自身、子供の頃から牛乳が苦手で、給食の牛乳をまったく飲まなかったのだとか。「それでも問題なく成長しました」と言う穴山さん。牛乳を飲まない代わりに、お母さんが小魚をたくさん食べさせてくれたとのこと。
給食の影響なのか、「子供は牛乳を毎日飲むもの」という刷り込みがありますが、それは決して必須なことではありません。牛乳は単に数ある食材のうちの1つ。他の食材でも十分に代用することができます。
もちろん、今回の三条市の決定はさまざまな観点から論じられるべき問題ではありますが、あくまでも栄養学的な観点から見れば「牛乳なしでも問題ない」という結論が言えそうです。
参考リンク
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