分身ロボット「OriHime」はなぜ生まれたか 開発者吉藤オリィさんに聞く
分身ロボット「OriHime」は、いかにして生まれたのか。その小さな体に込められた想いは、開発者である吉藤オリィさんが生きる意味とつながっていました。
なぜ、分身ロボット「OriHime」を作ったのか。誰にとってOriHimeは必要なのか。そして、OriHimeがいることで実現する未来とはどういうものか。いろいろなことが聞きたくて、知りたくて、開発者である吉藤オリィさんを直撃しました。今回はその第1回目。オリィさんがOriHimeを開発するに至る道のりを聞きました。
人の役に立ちたい――その想いからすべては始まる
「OriHimeがどこからスタートしたかと言えば、工業高校時代に車いすの制作に関わったことでしょう。当時私が師事していたモノづくりの巨匠、久保田憲司師匠とともに、電動車いすの新機構を開発し、世界最大の科学コンテスト、ISEF(インテル国際科学技術フェア)で世界3位(Grand Award 3rd)を獲得しました。その時に感じたこと、経験したこと、その後に起こったさまざまなことが、OriHime開発のきっかけになりました」(オリィさん)
小学校5年〜中学校3年まで不登校、引きこもりを経験したオリィさん。高校へ通うようになってからは、ボランティア活動に力を注いだと言います。そこにあったのは、オリィさん自身の「ありがとう」への渇望でした。
「とにかく、人の役に立ちたかった。それまで、私はありがとうを言う側の人間でした。たくさんの人にたくさんのありがとうを伝えましたが、言い続けるだけでいることが辛くなったんです。自分も人からありがとうと言われたい。与えられるだけじゃなく、与える人間になりたい。そう強く思っていました」(オリィさん)
オリィさんは「ありがとう」は言うだけではダメだと感じているといいます。もちろん、人から「ありがとう」と言われるだけでもいけない。自分が言い、人から言われ、「ありがとう」が循環することが大切で重要なのだと考えているのです。
生きる意味を考え続け、たどり着いたもの
そして、世界的な科学コンテストがオリィさんにもたらしたのは、世界3位という名誉だけではありませんでした。もっと大事な、もっと根本的な部分に触れる経験をしたのだといいます。
「コンテストに出場する学生はみな、このために生まれてきたんだという強い意思を持っていました。研究にかける情熱を素直にうらやましいと思ったんです。私はその頃、自分が何のために生まれてきたのかと、よく自問自答していました。それはすごくネガティブな思考でしたが、彼らは違いました。非常にポジティブに生まれてきた意味を理解していて、私も同じように、このために生まれてきたと言える何かがほしいと思いました」(オリィさん)
生きることがあたり前と思えなかったという当時のオリィさんにとって、この経験は強烈なインパクトとなりました。自分が生まれてきた意味を考え続ける中、1つのキーワードが浮かび上がります。
「私がたどり着いたのは、孤独の解消でした。自分自身、引きこもりをしていた頃、強い孤独感にさいなまれていました。今、同じような状況にいる人、病気で寝たきりの人、家族や仲間と遠く離れて暮らしている人など、孤独を感じている人は少なくありません。そうした人たちの孤独を解消するにはどうしたらいいのか。何が必要なのか。それに人生をかけてもいいと思い至ったのが17歳の時でした」(オリィさん)
孤独の解消。それは、オリィさんが生きる意味であり、同時にOriHimeの最終目標でもあるといいます。
そこで次回は、世界3位で一躍時の人となったオリィさんの周囲に起きた変化と、そこから気付いたことを追いつつ、OriHimeが分身ロボットである意味について迫りたいと思います。
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分身ロボット「OriHime」を通じてつながる人々の事例を紹介し、開発者の吉藤さんやそれに携わる人々に話を伺っていく新連載を始めます。
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