充電不要、人間の「体温」で充電するスマートウォッチが登場――秘密はNASAも活用する「ある効果」
「Apple Watch」などスマートウォッチの購入をためらう人にとって最大の懸念点は、バッテリーではないだろうか。「便利なのは確かだが、毎日の充電は面倒。そのうち使わなくなってしまうのでは……」という心配の声をよく耳にする。
しかし、間もなくシリコンバレーから、「充電不要」という画期的なスマートウォッチが誕生する。ベンチャー企業、米Matrix Industriesが開発中の「MATRIX PowerWatch」は、世界初、「人間の体温」で充電できるスマートウォッチだという。
現在クラウドファンディングサイト「Indiegogo」で開発資金を調達中のこのデバイスは、2017年秋ごろに一般向けに販売される予定。気になる充電の仕組みを主な機能とともに紹介しよう。
秘密はNASAも活用する、ある「効果」
米Matrix Industriesが開発中のスマートウォッチ「MATRIX PowerWatch」。その最大の売りは「充電不要」であることだ。
装着する人間の体温が持つ熱エネルギーを電気エネルギーに変換することで充電してしまう仕組み。つまり、ただ身に着けているだけで充電されてしまうので、従来のスマートウォッチのようにバッテリー残量を気にする必要はない。
人間の体温で充電するというこの発電技術は、1821年に発見された「ゼーベック効果」に基づいて開発されている。ゼーベック効果とは、複数の物体間で温度差が発生しているときに、電圧勾配がなくても電流が流れるというものだ(逆に電圧を温度差に変える「ペルティエ効果」はペルティエ素子に用いられている)。
NASA(米航空宇宙局)も古くから宇宙船に電力を供給する方法として利用していた効果で、MATRIX PowerWatchはこれを応用した。
米Matrix Industriesの創業者であるAkram Boukai氏は、元ミシガン大学教授で熱電(Thermoelectrics)が専門。同氏は、エコをキーワードに近年、さまざまな製品の「低消費電力化」が押し進められていることからゼーベック効果に注目。
より一般消費者向けの製品にも生かせないかと、2011年にDouglas Tham氏と共同創業し、MATRIX PowerWatchの開発に踏み切った。
水深50mまで耐えられる防水機能も
充電不要のMATRIX PowerWatchの主な機能は、消費カロリーや歩数、走った距離、そして睡眠の深さを記録し、表示してくれること。
充電や電池交換が不要であることから、本体をより頑丈に設計することができ、水深50mまで耐えられる「防水機能」も備えている。水泳中も身に着けることができるため、プールでのエクササイズ中も身体の状態をトラッキングできる。
消費カロリーの計算にも、体温が使われている。そもそも消費カロリーは、身体が生み出す熱量に基づいて計算されるものであるため、理にかなっている。つまり、より精確に消費カロリーを計算できる。
これらのトラッキングした情報は、MATRIX PowerWatchの1.2インチ(約3cm)のディスプレイ上に表示されるほか、無料の専用アプリと同期させ、スマホでリアルタイムで確認できる。アプリはiOSとAndroidに対応予定。
MATRIX PowerWatchは腕から外すと、自動的にスリープモードに切り替えられる。それまで記録されていた情報は内蔵メモリに保存され、再び身に着けるとスリープモードは解除。スマホと同期され、そのときの日時にアップデートされる。
目標金額の620%超を調達済み、2017年7月に発送開始
MATRIX PowerWatchは現在、クラウドファンディングサイトで開発資金を募っている。2016年12月末時点で目標金額の620%に相当する約62万ドル(約7300万円)を集めている。
一般向けの発売予定は2017年秋頃、価格は169.99ドル(約2万円、送料別)。Indiegogoで事前注文すると129ドル(約1万5千円、同じく送料別)。こちらは早くて2017年7月には発送が開始される予定だ。事前注文には、カップル用に2つ、ファミリー用に4つまとめて購入できるプランもある。
「充電不要」という売りは、スマートウォッチとしてはインパクト大だ。今後、この「ゼーベック効果」が他のウェアラブルデバイスにも生かされることも期待したい。
ライター
執筆:中井千尋
編集:岡徳之
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