電王戦第2局「やねうら王」は旧バージョンで ドワンゴ川上会長「誤った判断だった」と特例撤回
ドワンゴ川上会長、「やねうら王」開発者磯崎さん、将棋連盟片上理事のコメントと、経緯をまとめました。
ドワンゴは3月19日、「第3回将棋電王戦」第2局(佐藤紳哉六段VSやねうら王)の対局方法について会見をニコニコ生放送で行い、先日発表した“特例”を認めたことについて、「誤った判断だった」と謝罪し撤回した。22日の対局では、将棋ソフト「やねうら王」の旧バージョンを使用する。
ニコニコ生放送には、ドワンゴの川上量生会長、日本将棋連盟理事の片上大輔六段、やねうら王開発者の磯崎元洋さんが登場し、経緯を説明した。佐藤紳哉六段は出演していない。
ドワンゴ川上会長のコメント
そもそもソフトの修正を認めたことが誤った判断であり、新しいソフトでの対局を依頼したことも間違いだった。電王戦の主催者として未熟であり、関係者・将棋ファンに多大な迷惑をかけたことをお詫びしたい。今後については、片上理事からは「一度変更したルールをさらに変更することはやめてほしい」と要望があったが、当初のルール通り、第2局は元のソフトで実施する。来年以降の大会については、本番用ソフトの改良期間などのレギュレーションを改善する。
これまでの経緯
- 昨年11月中旬 磯崎さんから動作安定のためにソフト修正の要望があり、特例として許可。
- 3月1日 ソフトの差し替えが行われる。
- 3月3日 佐藤六段から指摘があり、ソフトの棋力が向上した可能性が発覚。
- 3月4日~15日 「どちらのバージョンと対局しても構わないが、一連の経緯については全て公表してほしい」(佐藤六段)、「棋士の意向にできるかぎり沿ってほしい。研究時間に影響があるため、バージョンはすぐに決めてほしい」(将棋連盟)と要望を受け、ソフトの安定性を重視して決定。片上理事から直前のルール変更について指摘があったが、主催者判断として了承してもらった。その後、佐藤六段からPVでも経緯を説明するように求められ、急きょ電話インタビューを行い、後半部分に追加した。
日本将棋連盟・片上理事のコメント
15日に公開されたPV(※現在は非公開)について深くお詫びしたい。内容は当日午後に佐藤六段と確認し、「全ての事実がオープンになっているか」の一点を重視していた。しかし、「将棋ファンがどう感じるか」という視点が欠けていた。見る人が不愉快な発表になってしまった。
今回の件についてさまざまなコメントを読んだが、「やらせじゃないか」「茶番ではないか」といった言葉にはショックを受けた。棋士にとって、盤上の勝負は真剣かつ神聖なもの。「八百長が一切ない世界」であることは将棋指しの誇り。そのため、先のように思われることは想像もできなかった。「事実をオープンにすること」に気を取られながら、逆にそういう見られ方をする方法を選んでしまったことは自分の責任。
問題は3月6日に把握。7日から数回にわけて旧ソフトとの対局を希望したが、ドワンゴの強い意向があり「本当にバグがあるのかもしれない」「弱い方を選んだと指摘されかねない」など悩んだ末、最終的に川上会長の提案に従った。今回の再度の変更については17日夜に連絡があった。17日昼に佐藤六段から新しいソフトに何らかの不具合があるかもしれない(詳細は不明)との報告も受けていた。このため、再提案を受け入れた。将棋連盟の判断は全て自分が下した。
多くの将棋ファンはプロ棋士が真剣に指す姿を見たいのであり、どの「やねうら王」が相手かは注目ポイントではないと考えている。「やねうら王」はルール違反だから失格にせよとの声もあったが、実際にソフトが存在しているのだからプロとして対局しないという選択肢はない。強い相手に敬意を評し全力で立ち向かわなくてはならない。そうした対局を見てもらうことが棋士の本分。今後は原点にかえり棋士が盤上に集中できるようにすることを約束したい。
将棋ソフト「やねうら王」開発者・磯崎さんのコメント
差し替え自体は(認められたため)ルール違反だとは考えなかった。しかし、棋力が変わったのは明らかに自分の不手際であり、以前のバージョンで対局したいと提案した。
昨年の電王トーナメント終了後、一週間のソフトの修正期間があった。しかし、トーナメント準備により通常業務を後ろ倒しにしていたため、間に合わなかった。ドワンゴに認められた修正について“棋力や指し手に影響を与える思考部には手を加えない”という条件があったとされているが「思考部」については約束していない(メールを見直して確認した)。フリーズなどは思考部由来の問題。思考部に手を入れずに解決することは、竹やぶに入らずにタケノコをとってくるようなもの。期間が特例で延長されたこともあり、思考部を修正してよいと解釈した。評価関数には手を入れていない。
作業は1月中旬に開始。1月末にドワンゴからメール受信。2月2日に終わり、しばらくランニングしていた。佐藤六段とアポイントが取れたのは3月1日。その間に、事実として強くなっていた(奇跡的であり実感は薄かった)。そんなに簡単に強くならないだろうと甘く見ていた部分があり、対応が後手に回ってしまった。深くお詫びしたい。プロ棋士と将棋ソフト(開発者)の共存共栄を望みたい。佐藤六段には申し訳なかった。
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