海外の若者に浸透するボカロ・アニメ――ファン交流活動「みらいのねいろ」主宰に聞く:海外オタク見聞録
VOCALOIDを海外に紹介するファン交流プロジェクト「みらいのねいろ」主宰に、現地で見た日本のコンテンツの人気について聞いてみました。
今や持ち歌10万曲を超えるとも言われる初音ミク、世界各地のアニメイベントでも初音ミクをはじめとするVOCALOIDのコスプレが定番となっています。海外のアニメイベントに出かけてVOCALOIDを紹介しているプロジェクト「みらいのねいろ」主宰・正木良明さんに海外でのVOCALOIDやアニメの人気についてうかがってきました。
正木さんはアメリカの大規模アニメイベントAnime Expoのスタッフで、2011年にロサンゼルスで開催された初音ミクのライブ「MIKUNOPOLIS」を実現に導いたキーパーソンでもあります。
今年もすでに2月に南米チリで開催されたAnime Expo Santiagoに、ボカロPのZANIOさん、ダンサー・振付師のYumikoさんとともに招かれ、DJパフォーマンスや日本のVOCALOIDファンの活動などを紹介しています。
―― 「みらいのねいろ」を始めたきっかけは?
正木 初音ミク現象と呼ばれる創作の連鎖が海外でも話題になり始めたころ、この現象は日本人自らが語るべきと2009年にAnime Expoでパネルディスカッションを行ったのが最初です。
―― どのような活動を?
正木 「ZANIOさんやかごめPなどのボカロP、YAMAHAの剣持さん(VOCALOID生みの親、剣持秀紀さん)、AHS(VOICELOID結月ゆかりなどを手掛ける企業)の尾形友秀社長などVOCALOIDの関係者に海外のイベントでの講演などをお願いしています。そのほかにもアミッドPなどにアミッドスクリーン(網戸を使った透過スクリーン)やMMD動画の作成で協力していただいています。これまでにアメリカ、ドイツ、スイス、デンマーク、メキシコ、チリ、台湾の7カ国のイベントやコンベンションに参加し、アメリカ、ドイツ、チリにはアミッドを持ち込み、メキシコでは現地で制作されたアミッドでMMD動画を披露しています。
―― 海外への旅費などは持ち出しだそうですが。
正木 今年招待されたチリ以外はすべて自費です。法人化してどこかに援助していただくという方法もあるとは思いますが、お金が動くとさまざまな権利問題など制約がきつくなるため、あくまでも個人的なファン活動にとどめています。
招待を受けたAnime Expo Santiagoは、チリの首都サンティアゴで開催され、日本からの直行便がなくカナダで乗り継いだため2日かかったとのこと。ほかの南米諸国でもアニメコンベンションが開催されていますが、日本からの往復だけで4日かかるため、日程的に日本からアニメ監督や声優さんを招くことが難しいのだそうです。
正木 南米でもさまざまな国でアニメコンベンションが開催されていますが、チリのAnime Expoが最も人気があります。お世話していただいたスタッフはチリのことを『南米の日本』と呼んでおり、その意味を聞いたところ、ラテンな気質の南米にあって真面目で日本のような優等生なのだと自負していました。
―― 日本が優等生の代名詞となっているのは興味深いですね。当日、記事冒頭の写真などがTwitterで流れてきて現地の熱気を感じました。
正木 会場に来ているのはローティーンから大学生まで幅広く、男女比は少し女性のほうが多いようでした。VOCALOIDについてはネット経由で見ており、日本の様子を時差なくよく知っていました。パネルセッションにはアニメファンも多く来ており、10代の少女がカゲロウデイズについての質問をしてきました。
―― (記者が)来日したさまざまな国の方と話して感じたのが、10代をターゲットとした娯楽が海外では日本に比べて圧倒的に少なく、特に少女向けのものに飢えているようです。カゲロウデイズの質問をした少女のように、そこがメインターゲットとなっているボカロが海外で人気になるのも、需要と供給としてとらえると必然のように思います。
正木 海外でなぜ日本のコンテンツが若い世代に人気になっているのか、これまで漠然と感じていたものが『需要と供給』でとても明快に理解できました。
―― その世代が自分で自由に使えるお金が少ないために、消費者とはみなされずコンテンツ自体も少ないということらしいです。
正木 現地ではカラオケ大会も催されており、アニソンをみんな日本語で歌っていましたし、ボカロのイラストなども展示されていましたが、日本の女の子が描くのと同じ絵柄で、日本の文化が浸透しているなあと感じました。
―― 商売としては厳しいですが、文化の浸透具合でみるとやはりすごいですね。日本政府がクールジャパン戦略に力を入れているのも、この文化の浸透が背景にあるからですね。
正木 サンティアゴの街を案内してもらいましたが、コミックやBlu-ray Disc、それにグッズなどを扱う店があり、(アメリカでは実店舗を廃業した)タワーレコードも健在でした。海外では店舗の廃業などで販路が減っていましたが、日本のコンテンツは下げ止まって回復している印象があります。
ドイツでも日本のコンテンツは人気
「みらいのねいろ」は、先に紹介したように正木さんを中心にさまざまな人が協力しています。世界各地にアミッドスクリーンを運んだり、現地のイベント側との調整を行っていますが、欧州のイベントではドイツ留学中のKatahoさん(ねとらぼではドイツのファンによる実写版「進撃の巨人」を取材しています)がドイツチームとして活動しています。一時帰国したKatahoさんによるドイツチーム報告会からも、海外での日本のコンテンツの人気ぶりが見られます。
ドイツではConnichi(コンニチ)というアニメコンベンションが毎年開催されており、2010年からみらいのねいろも参加。2012年からは毎月のように開催されている欧州各地のコンベンションにも参加しています。
ドイツの「進撃の巨人」ファンが制作した実写動画が話題になりましたが、徐々にファン活動も活発になってきており、昨年の夏コミにはドイツ人ボカロPのニコラスさんもサークル参加し、大洗をはじめ日本各地のアニメの舞台を聖地巡礼していました。
「進撃の巨人」ファン動画に出演している方や「ドイツの島風」を名乗るコスプレイヤーも今年の世界コスプレサミットや夏コミに参加とのことなので、今年の夏もさらに熱くなりそうな予感!
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