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「スキあらば岩岡先生」と言い続けて早2年 「星が原あおまんじゅうの森」完結にかこつけて、ついに岩岡ヒサエ先生と対面してきました!虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第50回

社主が推しすぎるあまり、編集部から「さすがに岩岡先生多すぎます」と待ったがかかったことも……。そんな岩岡先生に念願かなって初インタビュー!

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 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 「実は少女マンガが好きなのと、あとそれ以外にも世の中にはおもしろいマンガがたくさんあるので紹介してみます~」という軽い気持ちで始めた本連載も、気付けば第50回&2周年を迎えました。いつもお読みくださり本当にありがとうございます!

 さて、今回はその記念企画として、昨年の金田一蓮十郎先生に続いて、漫画家・岩岡ヒサエ先生へのインタビューが実現しました。先日最終巻が発売された「星が原あおまんじゅうの森」(全5巻/朝日新聞出版)を中心に、作中の小ネタや先生の意外な側面、そしてこれからの活動など興味深いお話満載の90分でした。

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岩岡ヒサエ先生(左)と社主(右)

 岩岡先生は2011年、「土星マンション」(全7巻/小学館)で第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞された実力派。

 今回紹介する「星が原あおまんじゅうの森」もその前年、同じくメディア芸術祭で最終候補作品に選ばれたマンガで、2008年に隔月刊「ネムキ」「ネムキプラス」で連載が始まって以来7年の歳月を経て今月ついに完結しました。

 社主は初めて読んだ「ゆめの底」(宙出版)が“魂の一冊”になってから10年来ずっと岩岡先生のファンで、実は本連載でも第11回で「なりひらばし電器商店」(全2巻/講談社)第13回で「花ボーロ」(小学館)を取り上げ、また第20回で紹介した恩田澄子先生の「ミガワリメーカー」(全3巻/講談社)も手に取るきっかけは岩岡先生が書かれた推薦帯でした。

 「隙あらば岩岡先生を!」と推しすぎたあまり、普段連載について何も言わないねとらぼ編集部から「さすがに岩岡先生多すぎます」と、待ったがかかったほどなのですが、今回「インタビューならOK」ということで、念願かなって岩岡先生に直接お会いする機会に恵まれました。

「星が原あおまんじゅうの森」(全5巻/朝日新聞出版)

 「星が原あおまんじゅうの森」は、星が原という町の一角にある、人が入らない塀に囲まれた雑木林が舞台。そこはニワトリやカエルなど動物たちが言葉を話し、モノに精霊が宿る不思議な森で、唯一人間である森の住人・蒼一と精霊たち、そして蒼一の生きる支えになっている風の一族の女性・科子(しなこ)、同じ風の一族で、しかし蒼一たちに限りない憎悪を抱く少年・野分(のわき)らが繰り広げる優しさ、怒り、悲しみといったさまざまな感情を包み込んだヒューマンファンタジー作品です。

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 岩岡先生の作品はどれも甲乙つけがたいですが、今回お話を聞いた「あおまんじゅう」は代表作「土星マンション」に並ぶ傑作です。最終回までずっとドキドキしながら追っかけてきましたが、その結末に涙を浮かべて見届けた今、これはもう「大傑作」と断言してもいいでしょう。両方読んだ人の中には「あおまんじゅう」のほうが好きな人も多いかもしれません。

 今回のインタビューではその「あおまんじゅう」の魅力について、すでにその結末に涙した人も、あるいはこれから読む人にとってもおもしろいお話ばかりです。またこのインタビューで初めて明かされた作品の秘密もありますので、ぜひぜひご覧ください!

貴重なラフ画なども見せてもらいました

最初は「読んでて辛い」という感想もあった

UK まずは7年間の長期連載おつかれさまでした!

岩岡 ありがとうございます。

UK 「ネムキプラス」での連載がついに完結して、最終巻も発売されましたが、7年間を終えてみて今はどんな感じですか?

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岩岡 終わった実感がない、と言うか、まだキャラがどこかにいて、引き出しを開けたらぴょこっと出てくるみたいな、「まだ全然いるなあ」という感じで。

UK じゃあまだ完結した感じではない……?

岩岡 そうですね。日常ものとしてだったらまだ今のキャラで描けるなあって思います。

UK 最終巻は買ってすぐ地元のサイゼリヤで読んだんですが、最後本当に感動して泣いてしまって……。そのサイゼリヤって前にも田中相先生の「千年万年りんごの子」の最終巻を読んで泣いた店で(関連記事)、店員さんに「こいつうちに来るたびマンガ読んで泣いて帰るやつや!」って思われそうです。またしばらくあのサイゼリヤには行けません(笑)。

終始熱く語りまくっていたUKさん

岩岡 作者としてはしめしめです……(笑)。

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UK 実を言うと1巻を読みだしたときは、ここまでガチで純なラブストーリーになるとは全然予想してなくて。主人公の蒼一も、最初は動物や精霊と森の中で暮らすっていうその生き方に共感を覚えつつ、「蒼一」か「蒼一くん」くらいのつもりで読んでたんですが、最後は「蒼一さん!」ってさん付けしないと失礼になりそうなくらい男前になりましたね(笑)。いや、本当に素晴らしい作品でした。

岩岡 ありがとうございます。最終回の感想をいただくまでは、自分の中で作品にいろんな否定をしていたところがあって、少し感情的に悪い方向に行ってたところがあったんですが、みなさんの「やっと完結した」っていう反応を見て今はちょっとほっとしてます。

UK 「感情的に悪い方向」というのは?

岩岡 4巻までの反応で「読んでて辛い」という感想もあったんですね。

UK ああ、なるほど……。確かに「あおまんじゅう」は、絶望とまではいかないですが、シリアスな場面も多いですもんね。キャラで言うと社主は野分(※1)がすごく怖くて。先生のこれまでの作品の中で一番邪悪なキャラなんじゃないかと思いました。あいつのせいでソファーの精霊もひどいことになりますしね……。

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※1:風の一族の少年。同じ風の一族である科子を蒼一に奪われたという憎悪から、蒼一と仲間たちを何度も殺そうとする

岩岡 私としてはその辺は全然平気で、ソファーの話でも描いているときは「おお、すごいこと起こったなあ」って。

野分は本当に怖い……

「たぶんこれ死んじゃうよなあって」

UK あと辛いなと思ったのは、スタンプカードの話ですね。両親を失って生きる目的をなくした蒼一のために科子が用意した「スタンプを貯めると精霊と同じ世界のものになれるスタンプカード」。森で困っている動物たちを助けてはスタンプ1個押してもらう姿を見て、ああ、ファンタジーだなあって思って読んでたら、途中でそのスタンプカードの意味が全然変わってしまうじゃないですか。それが分かったときは、もう本当に「はぁ~~~~~~~……」ってなりました。「どんだけ救いがないんだ」って。

のちに重要アイテムとなる「スタンプカード」とニワトリのキイロ

岩岡 1巻の終わりくらいには最後はハッピーエンドにするって決めていました。ただ、秘密が明らかになった後のカードの使い道はまだ思い浮かんでなくて、そのあと「この方法でカードが使える!」ってなったときに、「よかった、これでカードも意味ないものじゃなくなった!」と。

UK そうですよね。そういう意味で「あおまんじゅう」はストーリーからキャラから道具から本当に全て無駄なくきれいにまとまっていて、美しいだけでなく、隙がない作品だなって思ったんです。ハッピーエンドという点では、去年インタビューした金田一蓮十郎先生も「マンガという娯楽の中ではハッピーエンドであってほしい」って同じようなことをおっしゃってたんですよ。

岩岡 始まりはバッドで考えていることもあるんですが、描いているうちに愛着がわいてきて、よりハッピーな方にしたくなっちゃいますね。あとは「マンガなんだから希望を持ったっていいじゃない」とも思います。

まだ連載が終わった実感がない、と岩岡先生

UK 連載中はずっと「大丈夫かなあ、これ」ってハラハラしながら読んでたんですが、その辺はちゃんと考えてあったわけですね。ほっとしました、と言うか、最初から最後まで完全に先生の手のひらで踊らされっぱなしでしたね(笑)。

岩岡 (笑)。でも、実は第1話の最初のネームではキイ(※2)は死んでたんですよ。

※2:人間に追われて塀の外から森に入り込んできたニワトリ。ひよこの頃から育ててくれた犬の「おかあさん」を探している

UK えっ、キイが? ええええええ!?

岩岡 いや、最初は淋しげな方がいいのかなあって。ご飯も食べてなかったから、たぶんこれ死んじゃうよなあって。

UK あ、あ、あ……。

岩岡 そのときはキャラへの愛着も薄かったので。そしたら担当さんから「いやこれかわいそうすぎますよ」「1話目から飛ばしすぎですよ」って言われて、その時は「そうなのかな」って思いながら描き直したら、実は最後をまとめてくれるキャラにまで育ったっていう。

UK 7年越しの伏線回収なので、生きてくれてて本当によかったです(笑)。

(カバーを見ながら)これ絶対わかんないやつだ!

UK 今回5巻で完結したわけですが、最初からこれくらいの長さのストーリーで考えておられたんですか?

岩岡 最初は全4巻の予定で、2巻あたりで全体のカラーテーマを決めてました。

UK カラーテーマ、というのは?

岩岡 「1巻が土、2巻が水、3巻が火、4巻が風」という感じで。

言われてみると確かに!

UK あっ、言われてみると確かに! 考えたことなかったです。

岩岡 あと読者さんから「四季がテーマですよね」っていう指摘もあって。

UK ああ、それは社主も思いました。

岩岡 じゃあその辺りも含めて、ということで、4巻は冬のようにしました。

UK じゃあ最後の5巻のテーマは……。

岩岡 それが全く浮かばなくて(笑)。物語が明るく終わるので全体的には明るい感じで構図を考えていて、それでデザイナーさんと相談して、実は木の配置とかを1巻と全く同じに……。

UK ん? んん? (1巻と5巻のカバーを広げながら)ええええええ!! 本当だ! すごい! これ絶対わかんないやつだ。そういうのもっとTwitterとかで言ってくださいよ! 

岩岡 すいません(笑)。

1巻と5巻のカバーを並べてみると、確かに同じ構図!

「皆に生かされてる」(なむなむしながら)

UK さっき描いているうちにキャラへの愛着が深まってくるというお話がありましたが、先生は「あおまんじゅう」ではどのキャラがお気に入りですか?

岩岡 3年前の「ネムキ」では科子を一番に挙げてましたね。

社主もお気に入りの「科子」

UK あっ、社主も科子さん大好きです。あの哀しそうな目とすべてを悟ったというか、諦めているような性格も含めてすごく好きでした。連載を終えてそれに変化が……?

岩岡 今は鈴(※3)が一番かわいいです。素直で、暗い場面でも楽しそうにしてくれるので。

※3:ふわふわヘアーが特徴の鈴蘭の精霊

UK あー、鈴もかわいいですね。鈴と言えば、森が大火事になったときの、この「じゃあ一緒にいよう 逃げてるつもりで」っていうセリフ、このセリフ大好きなんですよ! 表情含めて、鈴のやさしさがこの一言に詰まってるなって。

岩岡 ありがとうございます。そんなに響いてくれるなんて。

鈴「じゃあ一緒にいよう 逃げてるつもりで」

UK いえ、先生の作品はどれもすごく心に突き刺さってくるセリフが多くて、「あおまんじゅう」もいいセリフがたくさんでした。例えばこの蒼一の「やっぱり僕は… 皆に生かされてる…」っていうセリフも、これは年取ってくると「本当にそう!」って思いますね……(しみじみ)。

蒼一の「皆に生かされてる…」もじんとくるセリフ

岩岡 そうですね、「生かされてる」っていうのはお仕事なんかでもいろんなタイミングとかご縁とか……(岩岡先生、手を合わせて「なむなむ……」という身振り)。

UK それ、すごくわかります! 本当にそうなんですよね。今日こうして岩岡先生にお会いできたのも、「実力で勝ち取った!」なんてみじんも思ってなくて、運とかタイミングとかが重なって恵まれただけの結果で。ありがたや、ありがたや……(同じく「なむなむ……」)。

岩岡先生なむなむ
社主もなむなむ

実は「やりすぎコージー」大好き!

UK 今日初めて岩岡先生とお会いして思ったんですが、先生は作風やTwitterでのつぶやきで思っていたイメージよりずっと気さくな感じで少し驚きました。失礼ですが、もっと眉間にしわが寄っているような方かと思ってて(笑)。

岩岡 マンガって日常では普段出せない、現実にできない自分を出すこともあるので、そういうきつめのイメージを持たれてしまう部分があるかもしれませんね。普段はお笑い大好きで、深夜のお笑い番組はたいてい録画してます。

UK おお、それはちょっと意外な。でも言われてみると、先生の作品にはふっと入ってくるユーモアがありますよね。シリアスな場面なのに、ふふってなるセリフとか自然に入ってくる力加減がすごく好きです。ちなみに好きな芸人さんとかは?

シリアスな場面にもふっとユーモアが入ってくる

岩岡 サンドウィッチマンとナイツの漫才はいつもすごいなあ、おもしろいなあと思います。あと私「やりすぎコージー」がむちゃくちゃ好きで。

UK えっ、「やりすぎコージー」ですか!?

岩岡 ほとんど初回から録画を残してて、ヘビロテで見すぎてさすがに飽きたな、というくらい(笑)。編集さんと打ち解けられるかどうかを測るときに「やりすぎコージーご存知ですか?」って聞きます。

UK リトマス紙みたいですね、「やりすぎコージー」(笑)。

ソファーの精霊の名前って……?

UK 「あおまんじゅう」が終わったばかりではあるのですが、発売中の「ネムキプラス」にはもう次の「幸せのマチ」(※5)が載ってますね。「マチ」は別雑誌で連載されていたものの再録のようですが……?

※5:同じ雑居ビルの1階と2階でお店を開いている喫茶店店主の三雲さんと雑貨店主人の谷野くんを主人公にしたほのぼの恋愛作品。初出はアンソロジーコミック「シンカン」(朝日新聞出版)

岩岡 そうですね。7月号と8月12日発売の9月号で7話まで再録されて、10月13日発売の11月号から連載再開というかたちで続きが始まります。

UK そう、「あおまんじゅう」を読んだ後に、この「マチ」を読んですごくほっとしたんですよ。今の「孤食ロボット」とか、あるいは「土星マンション」とか、先生の最近の作品は近未来のテクノロジーが普及した中に、やっぱり今と変わらない普通の人たちが生きていて、下町風情とか人と人のつながりだとか、そういうSFっぽいテーマで描いておられる感じが強いんですけど、「マチ」はそれとは離れて日常を描いたほっこりできるお話ですよね。

岩岡 あと今後はぎゅっとのめり込める話を描きたいなと思っていて、いろいろなものを見てインプットしながら勉強中ですね。スウェーデンの歴史の本を読んでめちゃハマったり、いろいろ楽しいものが見つかりつつあります。シュメール人の本も読んでます。

今はシュメール人に興味があるという岩岡先生

UK へええ、シュメールですか! 「歴史はシュメールに始まる」、の。

岩岡 これは今読み切り用に読んでるんですけど、シュメール人って歴史の中でちゃんと生きている感じがあって。シュメールのことわざに「嫌いなものは戦争、楽しいものはビール」っていう意味合いの言葉があるんですけど、これすごくステキだなって思います。

UK へえええ。

岩岡 読んでいて「シュメール人、好きっ」って(笑)。

UK いいですね(笑)。確かにそういうのって時代を超えて通じる普遍的なところがありますよね。これまでとは全然違った方向の作品が読めそうな感じがしてきて、今から楽しみになってきました。今日は本当にありがとうございました! 10年越しの夢がかなってすごくうれしかったです!

岩岡 こちらこそありがとうございました!

UK あっ、最後に1つ。作中出てこなかったんですが、ソファーの精霊の名前って……?

作中では結局明かされなかったソファーの名前

岩岡 「マホガニー」です。最初おしゃれすぎるかなってしっくりこなかったんですが、5巻の発売に合わせて自分のサイトで名前を公開したら、読者さんから「マホさんって呼びます」って言われて、「しっくりきた!」って(笑)。「マホ姉さん」と呼んでください(笑)。

UK マホ姉さん!(笑) これで本当に作品の謎が全て解けて美しく完結ですね(笑)。ありがとうございました!

(C)岩岡ヒサエ/朝日新聞出版


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