で、デカい……(目が) 前人未到の「単眼」人外マンガ「ヒトミ先生の保健室」の魅力:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第56回
食わず嫌い、良くない!
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。謝罪芸に定評ある虚構新聞の社主UKです。
社主おすすめのマンガを取り上げていく本連載、今回は「月刊コミックリュウ」(徳間書店)から、鮭夫先生の人外コメディ「ヒトミ先生の保健室」(~4巻、以下続刊)をご紹介。「リュウ」からは中野でいち先生の「十月桜」以来久々ですね。
「人外」というジャンル、読んで字のごとく「人ではない生き物」全般が出てくる作品を指しますが、特にマンガにおいては神話や怪談に出てくる半身半獣、獣人、ゾンビ、雪女、ヴァンパイアといったヒト型生物が登場する場合が多いです。
そしてこの人外を扱ったマンガが、最近注目のジャンルとして社主がよく行く書店などでも「推し枠」として見かけることが増えました。記憶に新しいところでは、同じく「リュウ」にて連載中の「モンスター娘のいる日常」(オカヤド/~8巻、以下続刊)がアニメ化、ねとらぼ読者なら夏コミで販売されたミーアの等身大抱き枕(※ただし7メートル)が完売した記事を読んだ方も多いのではないでしょうか。
これまでは異形の生物、人間の敵として描かれることが多かった人外ですが、近ごろ流行りの人外マンガ全般に言えるのは、人外を我々にとって理解できない生き物として見るのではなく、むしろその中にある人間との共通点、人臭さに焦点を当てているところ。さらに取っつきやすい絵柄の作品も多く、一部愛好家だけのマニアックなジャンルから、広く読まれ始めるようになった理由はこのあたりにあるんじゃないかと考えています。
と、前置きはこれくらいにして、そんな人外マンガの中でも、社主が読んでいる中では最も人外の範囲が広い、言い換えれば最もバラエティに富んだ人外たちが登場する作品が今回紹介する「ヒトミ先生の保健室」です。
モノアイ(単眼)の養護教諭というインパクト
「ヒトミ先生」として親しまれる中学校の養護教諭・一美先生はその大きな瞳が校内でも注目の的。女子生徒から「プリクラの補正いらずだわ」と言われるのもそのはずで、彼女はモノアイ(単眼)の養護教諭だったのです。
巨乳でドジっ娘、その上男運に恵まれないという何とも残念な感じの女性なのですが、やはり最初はその単眼のインパクトに度肝を抜かれます。それは作中でヒトミ先生の巨乳がネタになって初めて「あ、言われてみれば」と思うほどで、「男なのに巨乳に気付かないレベル」と言えば、どれほどその目の印象が強いか分かってもらえるでしょう。
が、そんなヒトミ先生の単眼に負けないほど個性的なのが、彼女のもとに次々と相談にやってくる生徒たち。第1話には成長期に入って舌が伸び始め、今や3メートルにまで達した“長舌系女子”設楽さん、第2話には生命力と治癒力の高さから滅多なことでは死なない“不死身系女子”富士見さん、さらに性格だけでなく、その見た目まで印象が薄い“透明系女子”留居さん、石でも何でも食べてしまう“総食系女子”田部さんなど、これでもかというほど個性的な人外生徒たちが登場。
ここまでくると最初のヒトミ先生の単眼など見慣れてしまうというか、ページをめくっていても巨眼より先に巨乳の方に視線が行くようになります。あれほど特徴だったはずの単眼が気にならなくなるのです。
「どうせまた嘘を書いているんだろう」と思われるかもしれませんが、これは紛れもない事実で、この不思議な慣れの感覚は本作を読んだ人ならきっと感じているはず。それでも信じられないというようなら、もはや読んで実感してもらうしかありません。
読み始めたばかりのころは、次々と現れる奇抜な人外キャラのインパクトについ目を奪われますが――自分が2次元(=マンガ)の登場人物だということに気付いてしまった“平面系女子”宇水さんという「それも人外なのか!」という禁じ手キャラも含め――その後物語を深めるカギとなるヒトミ先生の妹・三美(※どういうキャラかはお察しの通り)や、富士見さんの過去(第3巻)へと読み進むにつけ、「人外マンガ」というジャンルでくくったことで読まず嫌いを生み出してしまう、ある種の「もったいなさ」すら感じてしまいます。人外という見た目のハードルを乗り越えた先に待っているのは、我々と同じ人間としての悩みや喜び、笑いや感動にあふれたドラマなのです。
以前からリュウコミックス買ってる率が高い社主ですが、実を言うと「ヒトミ先生」を買ったのは2巻になってからで、1巻をスルーしたのは「人外」というマニアックさからでした。ただ、今回連載で紹介したことからも分かるように、今となってはちゃんと1巻の時点で買って読んでおけばよかったと自分を恥ずかしく思う次第です。読まず嫌い、良くない。
また今回は「人外」という視点から紹介してきましたが、凝った擬音表現まで作品と一体化したコントラスト鮮やかでポップな画風も本作の見どころであることを付け加えておきます。1コマ1コマ入念で隙が無い作品です。
いろいろなジャンルのマンガを読むと人は寛容になれる
小学生から「少年ガンガン」だけで育った社主がこの10年のマンガ生活で少女マンガに目覚め、百合に目覚め、そして最近は人外に目覚め、法的にアウトなジャンルを除けば、あとはもうBLくらいしか大きなものは残ってないんじゃないかというところまで来ましたが、ひとつ言えるのはいろいろなジャンルのマンガを読めば読むほど、人は寛容になれるということ。今もし街中で単眼の人とすれ違ったとしても、さすがに二度見こそすれ「怖い」という気持ちはずいぶん弱まってるんじゃないかと思います。言い換えれば、それだけ本作のヒトミ先生が魅力的だったということでもあります。気が付けばヒトミ先生のかわいさにハマっている自分のほうが怖いです。
何かを指して「キモい」だとか「理解できない」というのは往々にして、それについての無知から来る偏見ということも多いのです。そういう意味では、昨今人外が売れる作品として認知されつつあるのは、世の中が寛容な社会に向かっている良い兆候なのかな、などと思ったりもしたり。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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