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クイズ王はなぜ「ですが問題」を最後まで聞かずに答えられるのか? 勝負を決める「先読み」思考法(2/2 ページ)

理屈は分かってもマネできない。

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美しい問題って、どんなもの?

 それでは、実際に「これが美しい問題文である」というものをお見せしましょう。

 今回はオーソドックスな「ですが問題」を例にとり、100点満点で採点しつつコメントを加えました。

 大体80点以上ならテレビの早押しクイズで出題されうると考えてください。僕自身が出題するとしても80点以上のものを採用すると思います。

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 それでは見ていきましょう。まずは普通のものから。

  • Q1:日本一高い山は富士山ですが、世界一高い山は何でしょう?

 100点。日本→世界という対比がきれい。答えが簡単なことはこの際置いておいて、構造上の無駄は一切ない。

  • Q2:日本一高い山は富士山ですが、お隣韓国で一番高い山は何でしょう?

 85点。「日韓」と並べられることは多いが、日本→世界の素直さと比べると限定性がやや不満。中国でも成り立ちはするし。「お隣」というフォローワードがなければ80点。

  • Q3:世界一高い山はエベレストですが、火星一高い山は何でしょう?

 40点。世界→火星、という対比は不正確。ここでの「世界」が指す範囲には宇宙すら入り得るからである。ここで用いるべきは「地球」である。


 さて、ここまでの3問からは、面白い示唆が得られます。

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 前振りに「日本」を持ってくると、後ろにある「世界」が「日本」に対比されるものとしてきっちり定義されます。世界=地球と決まるわけですね。しかし、「世界」を単独で使うと、一転その意味の解釈が不自然になります。このこと自体は、「ですが問題」というものを初めて聞く人でも構造として理解できるのではないでしょうか。

 これこそが、「ですが、の後は前振りと対比的なものでなければならない」という前提を裏付けるのです。つまり、たとえ「ですが問題では、前と後ろが対になっていますよ~」という事前知識がなくても、Q1では感じなかった日本語的な違和感をQ3では明確に感じ取ることができるし、その違和感の正体は「対になりきれていない」ことだというのもまた自然に分かるレベルのことです。

 故に、「ですが問題」には美しさが必要なのです。美しくない「ですが問題」は、解答者に違和感とツッコミどころを与えるだけであり、相当洗練された「ですが問題」以外は出しても失敗にしかならない、とさえ言えます。そのため、美しくない「ですが問題」は排除されていき、美しい、つまり早く押せる可能性の高い問題のみが生き残る、洗練された状態になっていくのです。そのあたりの背景まで考えて、クイズ王は無謀にも見える速さの押しを繰り出しているんです。

 さてさて、さらにバリエーションを増やして採点していきます。

  • Q4:地球で一番高い山はエベレストですが、火星で一番高い山は何でしょう?

 85点。Q3を踏まえての出題であるが、点数はQ2と同じ理由。ですが問題の前後対応としては十分に機能しているが、地球と火星が一対一対応しているわけではない。金星の最高峰を聞いたっていいからだ。その点では日本→世界というきれいな対比に劣る。

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  • Q5:日本で一番高い山は富士山ですが、日本で一番長い川は何?

 60点。「山」と「川」がきれいに対比されているので一見良作に見えるが、「高い」と「長い」は似ていてもイコールではない。つまり、対立軸以外の部分が微妙に変わっているため、きれいな対称構造を作れていないのだ。ボロクソにいうほどではないが、このような問題は真剣勝負では出題されづらいだろう。

  • Q6:日本で一番高い山は富士山ですが、日本で一番売れている○○は何?

 20点。「日本で一番」でくくり、その後を対比させるという構図はできているので最低限は得点をあげられるが、「高い」と「売れている」が対比されていないので厳しい。○○の中に山要素のあるものを入れられればまだフォロー可能か? 「日本で一番売れている山」などならまだ収集がつくだろう。答えは「山本山」か「きのこの山」か。いずれにせよ没。

  • Q7:日本で一番高い山は富士山ですが、日本で唯一毛が生える効果が実証されている発毛剤は何?

 0点。「一番」と「唯一」は言葉尻が似ていても全く別の概念であり、対にすらなっていない。おやおや……。


 上に挙げたものの中には、ともすると違和感を覚えない問題文もあったかもしれません。「対比の軸がしっかりしていること」「対比関係にあるものがきれいに対応していること」の2点を満たした、採用できるレベルの美しい「ですが問題」を作るのは意外と難しいのです……。

これぞ「ですが問題」!

 最後に、少し変わり種の「ですが問題」をご紹介しましょう。このような対比の作り方もあります。

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  • 「会計などで用いられる用語で、ある期間の最後のことを期末と言うのに対し、初めのことをなんという?」→「期首」

 最初→最後ではなく、最後→最初と振るパターン。最後のことを「期末」と呼ぶのは普通ですが、「期首」は知らないと答えられない、少し特殊な呼び方ですよね。「期末」を問うより問題として面白い上に、最初と最後というきれいな対比がある良問です。

  • 「『空の車』と書く『空車』の対義語。タクシーなら実車ですが、駐車場なら何?」→「満車」

 このように、最初に一文置くことであらかじめ対立軸を見せてしまうことも可能です。正解が出るような配慮ですね。

 「空車」という言葉が使われるのは、ほぼタクシーか駐車場のみなはず。タクシーと駐車場というその言葉自体が明確な対立軸を持っていなくても、このような限定を設ければ2語は相補的な関係になります。

  • 「日本の牛肉銘柄で、米沢牛の米沢は山形県にありますが、前沢牛の前沢はどこにあるでしょう?」→「岩手県」

 「牛肉の銘柄なんていくらでもあるじゃないか!」という声が飛んできそうですが、よく見てください。ここで対比されている銘柄はもちろん双方とも超有名ブランドであり、そして何より名前が似ている「紛らわしい」2つ。よくごっちゃになる、どっちがどっちにあるのか分かりづらい、という意味でこの2つは対比される関係にあるといえるでしょう。完璧に両者の存在と所在を押さえていたものだけが私に石を投げなさい。

まとめ

 ということで今回も長くなってしまいました。「ですが問題」はその特殊性ゆえにクイズ王が出る番組ではよく出題されます。そして、その中身はここに書いてある通りです。

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 大事なことは、このような思考ルートが明らかになってなお、「ですが問題」を早く押せることの価値が揺らがないということです。問題文の構造を的確に把握した上で、正解にたどり着く知識も持っていなければいけない。フォークボールがなぜ落ちるかを知っているだけでなく、実際にフォークボールを投げられる、というところにこそクイズ王の鍛錬の結果があります。ここまでの説明は、手品の種明かしではなく、スポーツにおける技の解説のようなものなのです。

 今後クイズ王が「ですが問題」に挑戦している様子を見かけたら、隣にいる人に「実は彼らはこんな理由があって早く答えられるんだよ」とワケ知り顔で解説していただけたら幸いです。出典を明言しなくても一向に構いませんよ!

 クイズのショウ的な面白さだけでなく、競技的な奥深さが普及していけばいいな、そんなことを考えながらこの連載を書いています。

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QuizKnock

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