こういう煙草もあり? 空想世界の煙草をまとめた同人誌『ドルゼムカン架空煙草図鑑』:司書メイドの同人誌レビューノート
妄想が捗る。
むかしむかしの幼いころ、危険な任務のスパイや渋い刑事さん、酒場でグラスを傾けるお姉さんが、ふっと紫煙を吐き出す描写に、なんだかそわっとしませんでしたか? 煙草、それは大人の小道具。古今東西、小説、映画、マンガ……さまざまな表現で、いろいろなイメージを煙草は背負ってきました。名シーンも多いですね。とはいえ、煙草そのものはちょっと苦手という方も多いかもしれません。でも今回のご本の煙草はもしかしたら、今まで嗅いだことのない、いい匂いがするかも!
今回紹介する同人誌
『ドルゼムカン架空煙草図鑑』 約9cm×約7cm 48ページ 表紙・本文カラー
著者:雑木林ふみ子
架空の国の架空の煙草のパッケージデザイン20種!
こちらの同人誌では、20種類の煙草が紹介されています。パッケージの展開図やフレーバー、どんな人に向いているかなどなど、小さなご本ながら、一種一種に丁寧なコメントが寄せられています。ところが、どの煙草も、実は手に入れることはできません。なぜなら、この煙草たちが販売されている国、“ドルゼムカン”は作者さんが作った架空の国だからです……!
スープに振りかけることも!? エピソードを添えてファンタジーを楽しむ
ドルゼムカンの煙草は、例えば「ホワイトペッパー、オレガノ、レモングラス」で構成されているそうですが、これは刺激的でありながら、さっぱりとしておいしそうなブレンドでは? と思ったら、なんとドルゼムカンでは、スープと一緒に煙草を摂取したり、ときに直接スープに煙草を振りかける習慣もあるのだとか。ファンタジックさ全開です。誤飲に注意とか、副流煙がつらい、ということもなさそうですし、これはまた、こちらとは随分と「煙草」の概念が違うみたいです。
どんな煙草なのか、と、もやもやと頭で考えるも、架空の国の架空の煙草ですから、どうやっても入手不可! でも説明に添えられた、「親しみやすいテイストの煙草。ファミリー向け。彼女の両親に挨拶に行く時は『僕、これしか吸えないんですよ』と誠実で家庭的なアピールをしよう」。なんていうエピソードから、彼の国で煙草がどう日常生活に溶け込んでいるのかを想像できます。
パッケージも色とりどりでポップな物から、かわいらしいものまで、多様な種類を見ることができます。正面からだけでなく、展開図がついているのも心憎いところですね。
どんな味なのか……それはあなたの脳内で! イメージで味わう煙草
ドルゼムカンの煙草は、スパイスやハーブで構成されているとのことですが、当然ながら紙面からはその香りは分かりません。頼りになるのは、自分の脳内の記憶だけ。あんな香りかな、こんな匂いかなと、パッケージの雰囲気も手掛かりに想像してみます。そのうちに、自分の考えていた煙草とギャップがあることを楽しんでいる自分にはっとしました。本当の匂いも、形も分からないのに、自分の中にあった“煙草のイメージ”が崩れて、新しく広がっていくような気持ちになりました。
涼しい風吹くころの季語に、草の香、という言葉があります。秋草の匂いを示す語は、ドルゼムカンの煙草と、もしかしたら似ているのかもしれません。秋草の間をたゆたう、自分のイメージだけの紫煙を心行くまで脳内で堪能できる一冊です。
今週のシャッツキステ
乾燥しているからか、思わぬ寒暖の差からか、喉を痛めている方も多いみたいです。あたたかい飲み物をゆっくり飲んで、養生してくださいませ。晩秋の穏やかな季節、冬の一歩手前でちょっと休息をしておくのもいいものですよ
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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