妄想がとまらない! “狐の嫁入り”から着想した「ご祝儀袋」作品集が最高にファンタジー:司書メイドの同人誌レビューノート
愛らしい設定にきゅんっとなります。
この頃のよく晴れた澄んだ青空が、秋を感じさせますね。一方で、しとしとと降る細い銀糸のような雨もまた冬の近づきを思わせます。どことなく少し切なくなるような心震える季節に、美しいイラストの同人誌をレビューします。
今回紹介する同人誌
『狐の嫁入り用 ご祝儀袋 夜舟作品集』
A6 40ページ 表紙・本文カラー
作者:夜舟
中身はお揚げ!こんな美しいご祝儀袋があったらいいな。空想のイラスト集
お花と緑で構成された四角なイラスト、これは「狐がお嫁入りするときに使われるご祝儀袋」なんですって。
晴れた空なのにどこからかぱらぱらと雨が降ってくる不思議なお天気を指す言葉“狐の嫁入り”。そこから連想し、「人間のまねをして狐が作るご祝儀袋」というテーマを考えられたのだとか。かわいい……なんてファンタジックですてきな設定なんでしょうか。
しかも中に入れるのはお金でなく、お揚げ。器用な狐が作ってくれるそうです。あああ、なんですか、この胸がきゅんとなる設定は。喜ばしいことを控えた狐さんたちは、きゃっきゃしながら、どんなお花や緑でご祝儀袋を作るか相談したりするのでしょうか。そして、おいしいお揚げをくるんだりするのでしょうか……。その設定の愛らしさに射抜かれます。
草花の取り合わせとデザインが織りなす、四季の風情
描かれたイラストのご祝儀袋は、どれも野のお花やなじみのある植物たちで彩られています。こでまりと白詰草とれんげで作られた春のご祝儀袋は清楚(せいそ)でかわいらしい印象です。一方で、牡丹と水仙と南天の、冬のご祝儀袋は赤い色が際立つ華やかさ! 水引の役目をしている葉は水仙が使われていて、そのすっと伸びた葉先が丸いのが、ゴージャスさばかりでなく柔らかさも感じさせます。
植物は季節ごとにそのときそろえられそうなもので構成されているそうで、四季ごとの草花を生かした作品がカラーで掲載されています。でもこのご祝儀袋、お花ばかりでもないんです。秋の作品の一つは、銀杏、烏瓜の蔓(つる)、松葉、紅葉で構成されています。葉や蔓ばかりで構成されていますが、こちらもぱっと目をひく彩りです。読みながら「ああ、これからの季節、こんなふうに色づく葉っぱが楽しみだな」という気持ちが湧いてきました。
敷き詰められた花びらや、葉っぱをぐるりと取り巻く水引の緑。折り重ねられた色と、躍動感ある植物のラインが、定められた四角形のルールの中で、可憐(かれん)に調和しています。自然が生み出した曲線や素材を生かすという点では、華道を連想するようなすっきりとしたデザインですが、突き詰められた理想の形、配置ができるのは紙の上に描かれた空想だからこそのいいところですね。
言葉のない贈り物「ご祝儀袋」から何を読み取る? 一つ一つの作品が謎解きのよう
こちらのイラスト集にはほとんど言葉はありません。イラストの横には季節と、どんな素材で作られているかの材料の情報が添えられているだけです。ご本の後半には、「狐の嫁入り用 ご祝儀袋」以外のテーマで作られた植物のご祝儀袋シリーズも掲載されています。例えば江戸川乱歩展に出展されたものは、なんと蜥蜴も素材の一つとしてご祝儀袋を飾ります。でも、それらに何かの解説がされているわけではありません。言葉は最小限です。
けれど、そのわずかな言葉を手掛かりに、作品への想像がどんどん膨らんできます。このお花の組合せはどうしてかしら? 土地によっては、もしかして同時期の開花が難しいかしら? でもそれは実はあえての狙いで、ちょっと時期外れのつぼみを組み合わせる希少さがポイントに……? なんて深読みが進むんです。それは、れんげを“レンゲ”や“蓮華”でなく、あえて平仮名で表記するようなところから生まれる、短い情報のなかにもこだわりのある言葉の味わいと、何よりも雄弁なイラストが重なり合って、奥行きを感じさせてくれるように思います。
お嫁入りの“晴れの日”なのにお天気雨。でも決して悪いことではなくて、そんな天候も不思議で楽しいものかも……空想という言葉に“空”が入っているように、秋空を見上げながら狐さんたちのよき日をお祝いしたくなるご本です。
サークル情報
Twitter:@yofune_arou
Webサイト:http://yofune.blog.bbiq.jp/blog/
入手先:オンラインショップ「舟宵」、minne、タコシェ、アリスブックス
イベント参加予定:九州コミティア2(11月4日)
今週のシャッツキステ
著者紹介
司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る
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