「なんでUUUMは漫画チャンネルを作ったの?」 UUUM社長に話を聞いてみたらガチの漫画オタクだった件
「みなさんが来る前にも漫画を読んでました(笑)」
YouTubeの急上昇ランクを眺めていると、漫画を動画にしたものがランクインしていることがあります。こうした「漫画動画」は、通常は書籍として楽しむ漫画に、音声・SE・BGMと絵の動きを追加したもので、今ではYouTubeの人気コンテンツとしてユーザーから受け入れられています。そんなYouTubeの漫画動画にUUUMが参入し、「UUUM MANGA」の本格始動を宣言したのは2019年10月のことでした。
HIKAKINさんをはじめ、多数の人気YouTuberを擁するUUUMがなぜ漫画をYouTubeに持ち込んだのか――UUUMに取材を申し込むと「社長の鎌田が肝いりで始めたプロジェクトなので、鎌田が直接対応します」との回答。動画クリエイターのマネジメント会社として飛躍したUUUMがなぜ漫画業界に足を踏み入れたのか、CEO・鎌田和樹さんにUUUM MANGAにかける思いを聞いてみました。
「世の中の漫画は全部好きなんで」
――なぜ「UUUM MANGA」を始めることになったのでしょうか。
漫画が好きだから……ですかね。2年前に好きが高じてゴルフのチャンネル(UUUM GOLF)を作りました。これが月間1000万再生を突破して、YouTubeになじみがなかったシニア層にも届きはじめて、ファーストステップとしてはクリアできたと感じています。もちろんこれはゴールではないですけど、それでまた次のことをやりたいなと。
もうやりたいことしかできないような体になっていて、その「やりたいこと」の1つに漫画がありました。Kindleには6500冊の漫画が入ってますし、仕事になるかどうかは分からないけど自由にやってみたい。
――なるほど、「漫画好き」が起点なんですね。
あと、うちの会社として広くエンタメとして次のコンテンツを作っていきたいと考えていたので、漫画はそれに当てはまります。
――Kindleに6500冊入っているとのことですが、どんな作品が好きなんですか?
気分なんですよね。当然『ドラゴンボール』『SLAM DUNK』『幽☆遊☆白書』は好きですし、少女漫画も好きです。吉田秋生さんの『BANANA FISH』『YASHA-夜叉-』『イヴの眠り』は全部良い。もちろん、『アオアシ』『MAJOR』『タッチ』『シュート!』といったスポーツ系は大好きで、少し脱線して『Harlem Beat』『DEAR BOYS』なども読みます。本当に漫画は全部好きです。
――noteでは『彼方のアストラ』を推していました。
SFが好きな理由として“無いもの”へのあこがれがあるんですよね。『ARMS』の人間が進化していく過程は面白いし、吉田さんの『YASHA-夜叉-』『イヴの眠り』では新人類の話が出てくるじゃないですか。そういうのにちょっと憧れます。多分誰にも伝わらないですけど(笑)。
今読んでいるのは『きみを死なせないための物語』ですが、世界観の説明が難しいな……やまざき貴子さんの『ZERO』とかも既存の世界観ではないですよね。
――幅が広い……!! 好きな作家さんはいますか?
石田スイさんは、「ジャックジャンヌ」(2020年発売予定のNintendo Switch向けゲーム。石田スイさんは原作、キャラクターデザイン、シナリオを担当)のサイトを見させてもらっただけでも世界観が好きだなと思えます。それと漫画家ではないですが、西尾維新さんの物語シリーズは「どうしたらこんな考えが生まれるんだろう」と思っちゃいますね。僕の中でこの2人は突き抜けています。
――本当に漫画好きなのがビシビシ伝わってきました(笑)。ちなみに「UUUM MANGA」はいつから計画していたんですか?
本格スタートは10月ですが、実際には今年の年明けごろから考えてました。好きなことをやりたいという話をしましたが、漫画に限らず失敗することは嫌なんです。「だったらやらない方がいいじゃん」となっちゃうので。だからリサーチ期間をとって、漫画はいくらで売れているのかとか、本屋・電子書籍含めてどういう売れ方をしているのか、作家さんとはどんな契約があって出版社はどういう役割を担っているのか、グッズ展開はどうしているのか等、気になったことは全部調べました。
僕らは動画クリエイターのビジネスにおいては最初からトップランカーの方が参画してくださって、先行者メリットがあったんです。でも、漫画業界で僕らは最後発。むやみにやっても仕方ないから、いろいろ調べた上で5月に社内向けに「まずはYouTubeチャンネルから始める」と告知しました。
――チャンネル登録者数は約1万4000人(記事執筆時点)。将来的にはどのくらいの規模に。
今は月間の再生回数を見ています。もう少しで月100万再生に届きそうなので、これから伸ばしていきたい。これまでの経験から、「このくらいの再生回数ならグッズが出せる」みたいな“どこまでできるか”はある程度予想できます。でも、UUUM MANGAの場合はYouTubeチャンネルが大きくなっても「ステップ1をクリアした」という程度だと思うんです。今後はオリジナル作品も作りたいですし、ネット以外の分野、紙の雑誌のようなポジションを狙いにいく可能性もありますし。YouTubeチャンネル1本で続けるわけではなく、「漫画」というカテゴリーで成果を上げて、漫画業界に貢献したい。世の中の漫画は全部好きなんで、僕はもう漫画の仕事ができるだけでうれしいんですよ。
――つまりYouTubeという枠組みから外れて展開していく可能性もあると。
はい。でも、具体的にそれが何かと聞かれても「考え中っす!」なのが正直なところですね。
「YouTubeで漫画をやることが正しいのか」
――UUUM MANGAは長期プロジェクトなんですよね。
年単位で捉えています。このチャンネルの登録者数はマルチ系のクリエイターと違って、「面白い作品があったから登録する」という概念はひも付いていない。だからチャンネル登録者数にはこだわってません。
漫画のコミックスって1冊のページ数が結構あるじゃないですか。毎週19ページ生まれる雑誌でも単行本化までに10週かかる。もちろん同じページ数にしたり、絶対に本を作る必要はないのですが、そういう意味では長いビジネスになるだろうと。
――オリジナルコンテンツの準備は進んでいますか?
先日Twitterで作りたい漫画のネームをアップして、描いてくれる人を募集しました。すると数十件応募が来て、当たり前なんですけど同じネームからでも絵が全然違うのでめっちゃ楽しいですね。
――現在は漫画の動画化がメインですね。編集方法は固まってきていますか?
今のやり方は分かりました。ただ、YouTuberは日々進化していかないといけないので、今後もこのやり方で良いのかというとちょっと違うだろうなと。
『鬼滅の刃』がアニメ化を機に爆発的にヒットしたり、『いちご100%』がフルカラー版で人気が再燃したのを見ると、見せ方はいろいろある。一定のやり方が分かったとはいえ、この方法にユーザーを合わせていくべきなのか、ユーザーの望むものに僕らがあわせていくべきなのかについては、A/Bテストを細かく繰り返しています。
――動画化にあたっては、紙の漫画には存在しないSEやBGMや声を入れるなどさまざまな工夫があったかと思います。現在の形になるまでに参考にしたものはありますか。
特にないです。今のやり方はあくまでも「動画で見るとしたら」ということを考え抜いたもので「動画で見る漫画」というと既存よりワンランク上のものだと思うじゃないですか。でも僕がやりたいのはアニメではないから、漫画という枠組みの中で工夫をしないといけない。どの順番で文字を入れれば読みやすいのか計算して編集したり、そもそもBGMは必要なのかを検討したり、読む人の環境はどうなんだろうとか、そういう部分を検証しながら進めている感じですね。
――約2カ月運営してみて手応えはどうでしょう。
10分の1くらいじゃないですかね。「こんなもんかなー」みたいな。まだまだやるべきことも残っていて、道半ばです。
――改善すべき点も見えてきている……?
そもそも「漫画動画がユーザーに合っているのか」という部分がまだ自分の中ではっきりしていません。YouTubeの視聴者と漫画の相性はいいのだろうか、本当はアニメが期待されているのでは――これはエゴでもなんでもなく「YouTubeで漫画をやることが正しいのか」と自問自答しています。
――チャンネル上では「ニートの日常」と『防御力ゼロの嫁』がすごく伸びています。ああいう見せ方にすると人気になるんですね。
内容もそうですが、タイトルの影響が大きいでしょうね。現代向けというか、とてもはっきりしている。僕は『密・リターンズ!』がドンピシャ世代だったので「知らないんですか!? 八神健先生のあの作品を!?」って感じなんですが……。そういう部分にどれだけ食い込んでいけるかは大事ですね。
――掲載作品はどうやって決めたのですか?
できるところから、ですね。会社を立ち上げた初期にYouTuberを集めたときと一緒で、声をかけた・契約が済んだ順で。今後も増やして行きたいです。自薦他薦も問わず。
「みなさんが来る前にも漫画を読んでました(笑)」
――YouTubeには漫画を動画化するチャンネルがそれなりにありますが見ていますか?
「こういうのが見られているんだな」というトレンドはチェックしています。
――漫画を投稿するチャンネルが非収益化される例があるようですが、こういった点への対策はしていますか?
特にやってません。非収益化されるのは理由があるはずなので、その理由にたどり着けるかどうかという問題だと思います。世間で言われている理由が本当に正しいのかも分からないですし、漫画として出版できる性的コンテンツの範囲と、YouTubeのガイドラインでは違ってくるので、そこは理解して事業をやっていく必要があると思います。
――今後も投稿作品は増えていくと思います。投稿数の上限などは?
YouTubeはどれだけ投稿しても怒られないので、そこは制限しません。投稿時間をサラリーマンの出勤時間や学生の帰宅時間に合わせるのは検討していますが、その辺りはこれからですね。……取材してもらって申し訳ないんですけど、そんなに固まってるわけじゃないんですよ。
――(笑)。
漫画業界がもっと盛り上がればいいんですよ。こうやって取材受けるのも、漫画を読む人がちょっとでも増える気がするからです。「今まで漫画を読んでこなかったけど、UUUMが漫画をやるなら見てみよう」という人もいると思うので、きれいごとじゃなく、そういうユーザーが少しずつ増えていけば……。具体的なUUUM MANGAの目標や数値とか、多分記事に書きたいんだと思うんですけど「なんもないよ」と(笑)。
――書きたかったです(笑)。
ただ次にやるべきことが少しずつ見え始めているとは思っています。人間って向上心の塊だから、明日は今日より良いものにしたいじゃないですか。それを漫画という分野でやってみたいと思ったのがスタートで、そこでたまたまYouTubeという場を選んだと。
――鎌田さんの仕事量はかなり膨大だと思いますが、UUUM MANGAに割く労力はどのくらいなんでしょう? 例えばUUUM GOLFと比較すると……。
同じくらいですね。社長としてやらなきゃいけない仕事は当然あって、使える時間には限りがあります。その中で漫画には多くの時間を割いているというのは間違いないですね。もう毎日読んでますから。みなさんが来る前にも漫画を読んでました(笑)。
――なるほど(笑)。ここまでお話を聞いていて、もしかして鎌田さんには「漫画業界を良くしたい」という思いがあるのかなと感じたのですが、いかがですか?
「業界に大きなゆがみがあるから、俺らが立ち上がらなきゃ」みたいな気持ちはないですよ。漫画はすごく楽しいものなので「どうしたらもっと楽しさが伝わるんだろう」みたいな思いがあるだけで。
――「漫画の面白さが世間に伝わりきってない」と?
うーん……まぁ一言でいえばそうなんですけど。漫画って嗜好品だから、究極なくてもいいものじゃないですか。映画でもいいし、アニメでもいいわけで。「でも漫画もうちょっと知ってくれないかな……」と思っています。
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