レビュー

みんなの持ち物、わたし気になります! 他人のポーチをのぞいた同人誌『オタクのポーチの中身』司書みさきの同人誌レビューノート

イラストも味があるんです。

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 カバンの中をちょっとまとめるときの心強いお供、“ポーチ”。化粧品やこまごまとした品々を引き受けてくれる小さな袋は、いつもはカバンに収まっていて、その中身を知るのは持ち主だけ。今回はそんなポーチの中身をそっと一緒に楽しませてもらえるちっちゃな同人誌です。

今回紹介する同人誌

『オタクのポーチの中身 #1』A6サイズ折本 8ページ 表紙・本文2色刷り

著者:らが


直線で作られた表紙にやわらかな「ポ」が引き立ちます

キュート! イラストで描くリアルポーチ3選

 きっちりとした線の表紙の印象から一転、ページをめくるとやわらかな線のカラフルなイラストが飛び込んできます。左にポーチ本体、右ページにはその中身が描かれています。率直にかわいい! 人様のポーチを目にするのはカバンから出し入れするちょっとのタイミングです。しかも中身を一斉に見せてもらうなんて雑誌の企画くらいで、友人同士でもなかなかそんな機会に巡り合いません。こちらのご本ではゲームがお好きな方や、男性アイドルを応援する方など3人のポーチが紹介され、どれも化粧品やポケットティッシュやばんそうこうといった、小さなあれこれが丁寧に描かれ、ときには「ハウステンボスで買った」などの親しみの持てるコメントがそっと添えられています。

 持ち歩くグッズって好みであればあるほど使い倒してしまって、時に愛用感が出てしまうのですけど、そこはイラストであることの力が発揮されていて、品物の本体に注視しつつ、「筆アイライナーあるある 毛先割れ」とコメントしながらも、使い込んだことが寂しそうに見えないようにかわいく画面に収まっているんです。ポップな2色の印刷と繊細な、でもリアルすぎない線で表現された、愛用品への包容力がうれしいです。

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おしゃれなポーチにはどんなものが詰められているのでしょう(作者さんからの希望により一部をぼかしています)

持ち主との物語を想像する楽しさ

 イラストには物品の紹介と、およそ3行で持ち主の経歴が添えられています。3行! その短さに驚きつつ、「2019年 9年ぶりに二次創作BL同人誌を出した」というたった一文から「ああ……熱い出会いを経て今に至られたのね……」と心をたぎらせた事情を思い浮かべます。

 そうすると自ずと湧き上がってくるのが物品にそれって反映されているの? との疑問です。隣のページを眺めてみますが、ある……ような、ないような。率直に公開されたポーチの中身は日常の延長だから、直結で経歴とひも付いているものでもなく。でも好きなジャンル由来のポーチに「仕事で疲れていたときに友達にプレゼントされた」というエピソードがあると、そうそうそう、ほんとに物に助けられるってありますよねー! と深くうなずきつつ読んでしまいます。

 そして各人の星座が載っているのもポイントです。ただ「射手座」と書かれただけで漠然と射手座さんのイメージに思いをはせるきっかけなんですよね。そうやって浮かんでくるのはあくまで読み手が勝手に想像した姿です。でもそれは正解や不正解ではなく、紙面から受け取った情報だけで描いてみる、自分だけの連想の楽しさです。ごくごく短い文の補足で、物品から持ち主の姿をイメージするストーリーが足されていきます。


こまごまとした中身が丁寧に描かれます

リモート取材、折本、かわいいバランス感覚が光る

 ご本が発行されたのは2020年の5月です。ちょうど外出自粛の中、持て余した時間で知人の方にもリモート取材して作成されたという品々からはどれも今使っています! という空気が伝わります。そして生まれた、3人分のポーチで表紙込み8ページというこのご本のなんとチャーミングなことでしょうか。限りある紙面のなかで取捨選択された文字情報、丁寧なイラスト、やわらかなベージュの紙にぱっと華やかな蛍光ピンクとエメラルドのインクを使ったレトロ印刷JAMさんでの2色刷り。そして本のつくりは、1枚の紙に切れ目を入れて折りたたんである手のひらサイズです。

 活動に思わぬ制限がある時期に楽しみを見つけて同人誌を出す軽やかさと、小さな中に上手に収納された内容、本づくり、そのどれにもバランス感覚が光っているように感じます。ご本そのものも、まるでポーチみたいなかわいさですよ。

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サークル情報

サークル名:Rappy

Webサイト:https://rappy-web.jimdofree.com

現在入手できる場所:BOOTH

今週の余談

 夏服の季節が近づいていますね。もう準備はなさいましたか? 日に日に色づく紫陽花(あじさい)を見つつ、2020年はどんな色の夏服が流行するかしらと楽しみです。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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