国体初のマスコット”未来くん”を小説に 同人誌『古都こと奇譚』は京都を舞台にしたキャラクターたちの物語:司書みさきの同人誌レビューノート
皆さんの町にも、人気を博したキャラクターがきっといるはず。
夏の前触れが思わぬ速度でやってきたような気温で、「令和ちゃんはまた慣れていないから……」と言った声も聞こえる中、新元号に変わってはや1カ月です。2019年も半分までやってきました。うっかりしていると、あっという間に年末を迎えそうな慌ただしい日々ですが、そんな中で開いた今回の同人誌は、昭和生まれのキャラクターをきっかけに書かれた、創作小説です。
今回紹介する同人誌
『古都こと奇譚』A5 32ページ 表紙カラー・本文モノクロ
作者:豊倉かんな
キャラの行く末は……? かつての国体キャラクターをも登場させる創作小説
お話の舞台は現代の京都。ある図書館でPR用に生み出されたキャラクターが主人公です。華々しくこの世に生み出されたものの、最近は活躍の場も減って、もしやこのまま消えゆく運命では……と悩める“ことりん”。主に図書館の広報ペーパーに掲載される4コママンガを活躍の場にしていたものの、担当職員の産休で描ける人がいなくなってしまったために4コママンガが休載。そのままなし崩しにことりんの登場も風前のともしびに、という状況がリアル……リアルですよ、これ。街やお店、いろんなところにキャラクターがいる昨今ですが、その活躍の場がないと、なんとなくいつしか忘れ去られていく寂寥(せきりょう)感が冒頭から漂います。
しかし、そんなことりんはキャラクター界の大先輩、1988年京都国体のキャラである未来くんと出会います。
百鬼夜行ならぬ、百キャラ夜行? 京都をキャラがかっぽする!
未来くんの牛若丸を模したその姿は、京都の方ならよくご存じかもしれません。昭和63年という昭和最後の年に、国体初のマスコットキャラクターとして世に出た未来くんは、実在のキャラクターです。都市を背負った伝説級の有名キャラクターにことりんは高ぶります! けれど未来くん自身も、実は己の進退に思うところがあって……。
物語はことりんと未来くんが京都の町で出会い、時にちょっとした名物を食べ、語らいます。きっと京都を知る人なら頭に思い描けるようなスポットが、少しずつ織り込まれているのがお話のちょっとした楽しみになっています。そして京都の町にいるのは、近年のキャラクターばかりではありません。作者さんは物語に妖怪も登場させます。琵琶やたらいといった物品が、長い年月を経て付喪神として命を得て動き出す姿もまた一つのキャラクターであると解釈し、ことりんや未来くんと交流していきます。人が架空のものやキャラクターを生み出し、親しんできたことが、歴史ある京都という場所を舞台にしていることで、自然になじんでいるようです。
変わっていくものを受け止めて、未来に進む様子を描く
作中で、実は未来くんの容姿が変化してきたことに触れられています。かつて未来くんは白目が無く「朝顔の種を顔に張り付けている」と評され、怖いと評判だったとか。しかしいつからか白目もでき、おまけに体も子どもらしく若返ったとか!? 時流に翻弄(ほんろう)される未来くん。作者さんはそんな未来くんをずっと気に掛け、いつか未来くんがむくわれる物語を書きたいと思い、執筆されたのだそうです。
その情熱は、未来くんの着ぐるみが資料館に寄贈されたニュースを追うにとどまらず、彼の動向を気にしつづけた結果、とうとう京都府の担当部課とご縁がつながることに。そこで明かされたのは、未来くん着ぐるみはなんともう一体現存しており、しかも修復されてお披露目の舞台があるという超朗報! あくまで余談としてさらりと語られるあとがきは、物語に同じく、日々に寄り添うような分かりやすく堅実な文章です。けれど、そこににじみ出る作者さんの未来くん、キャラクターへの愛情は見逃せない、もう一つの“物語”です。
古都、京都で現代を過ごすキャラクターたちの行く末はいかに? 私の住む町にどんなキャラクターたちが暮らしているのか、読後はお散歩したくなりました。
今週の余談
今年は傘を新しくしました。生地に鳥の模様が織り込んであって、持ち手にタッセルがついているのがかわいらしくて、今から使うのが楽しみです。そろそろ紫陽花(あじさい)もきれいな季節で……いよいよ、夏のコミックマーケット、初の4日間開催に向けてスタートの季節でもありますね!
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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