灰色のボールペンだけをひたすらレビュー 同人誌『色彩豊かな灰色のボールペンの世界』が究極にシンプル司書みさきの同人誌レビューノート

作者さんは灰色のボールペンをどのように使っているんだろう。

» 2019年06月30日 12時00分 公開
[みさきねとらぼ]
同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 梅雨に入ってしっとりした空気が街を覆っています。蒸し暑い日もあれば、ひんやりとした気温のときもあり、その行きつ戻りつが、夏に向かうのを感じさせます。季節と季節のあいまいな空気、暑いと寒いのあいだの気温……今回はこんな季節に似合うのかも? な、白でも黒でもなく、灰色インクのボールペンを紹介した同人誌です。

今回紹介する同人誌

『色彩豊かな灰色のボールペンの世界』A5 12ページ 表紙・本文モノクロ

作者:和泉葛城


同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ ボールペン 灰色の紙に黒のインクで刷った表紙がシンプル

市販で購入できる灰色インクのボールペンを淡々と、しかしこだわりのレビュー

 こちらのご本には、計6本のボールペンがレビューされています。そもそも灰色インクのボールペンについて考えたことのなかった私から見ると、6種類もあることが驚きですが、作者さんは理想の灰色ボールペンを求め、インク一つの表現も「青っぽくもなく、赤っぽくもなく、墨を薄めたと言うべき色合いは、他のペンにはない独特の風合いがある」と、淡々としながらもこだわりを見せてつづられています。使い心地や、インクの残量が見えるかどうかと言った視点からもチェック。どれも街の文房具屋さんで手に入りそうな、親しみあるメーカーさんのボールペンばかりで、今度ボールペンのコーナーをのぞいてみようかな? と気分が盛り上がります。

同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ ボールペン さっぱりとした画面構成で使い心地などをレピュー

画像は白黒写真1枚だけ。あとは文章で勝負!

 ボールペンの紹介は基本的に文章のみで、あとは製品の写真が1本につき1枚載っています。本文もモノクロ印刷なので、表紙からずっと白と黒とグレーで構成されたページがストイックに続きます。そこに色を添えるのが、灰色インクの描写。「赤や茶といった暖色によった、ウォームグレイともいうべき色」といわれると、一口に灰色インクとまとめてしまっていたものの多彩さを知り、自分の目でどんな色なのか、どんな濃さなのか確認したくなってきます。しかも時折「パリッとしていて、スッと目に入る」と抽象的な表現も混ぜられると「パリッと…!?」と、ざわざわかき立てられてしまいます。

同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ ボールペン パリッとしていると評された「ユニボール シグノ ダークグレー」

 作者さんは「ボールペンのカラーバリエーションは豊富になったのに、灰色インクのボールペンが少ない」ことを憂いてご本を作られたのだそうです。「増えてくれればいいが、そういう気配もない。であれば、今ある灰色のボールペンを見ていくしかない」と、淡々と、しかし決意のにじむ言葉を述べられています。しかし、なぜここまでして灰色のボールペンを求めるのかは、ご本を読み通しても全く分かりません。

 いえ、お気に入りのボールペンが販売停止になったことがきっかけなのがあとがきで分かるのですが、そもそも灰色ボールペンをどのように使用しているのか、どうすると使いこなせるのかなどという使い方のアプローチはゼロ。潔い良い作りです。灰色ボールペン門下でない者は置いていく! 灰色ボールペン坂を上るヤツだけがついてこい! という気配が、ご本の装丁、構成、レビュー全体に浸透しています。表紙込み12ページのコピー本にぶれがありません。

熱意の理由は結局分からず! 自分の小さなこだわりを本にする面白さ

 かといって読者に不親切かと言えば、決してそんなことはないんです。ぱっと見ただけで何について書かれているのか、一目瞭然の表紙とタイトル。製品名、メーカー、価格などの基本的な情報をきちんとまとめていらっしゃることや、1ページに1製品というレイアウトも見やすいです。

 それなのに……いえ、それだからこそ、なぜそこまでして灰色ボールペンを求めるのかが気になってしまうのかもしれません。けれど、作者さんは多くを語りません。そうなると文中からわずかに垣間見える描写や評から個人像を拾ってみたくなるものの、分かるのは「ユニボール シグノを中学生のころに使っていた」ことと、“ガンダム使っていける”という語(誤変換?)から、ガンダムに親しんでいらっしゃるのではないかという推察ぐらい。多くを語らない、必要なところを書いて、作って、本にする。どこにこだわりポイントを置くのかは、自分で決めてます! という、自分のこだわりを自分のペースでまとめる同人誌の良さをさらりと見せているようなご本でもあると感じました。

同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ ボールペン たった6本のボールペンから灰色世界の豊かさがのぞいてみえるようです

サークル情報

サークル名:葛城書房

次回イベント参加予定:第二十九回文学フリマ東京

Twitter:@Pzkpfp_202B



今週の余談

 夏の大きな同人誌即売会、コミックマーケットの参加サークル当落も発表され、梅雨から暑い季節への移り変わりがひしひししますね。「まだカタログも出てない時期だし……」とつい謎の余裕を見せてしまうので、気を引き締めて掛かりたいです。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. /nl/articles/2412/18/news145.jpg “月収4桁万円の社長夫人”ママモデル、月々の住宅ローン支払額が「収入えぐ」と驚異的! “2億円豪邸”のルームツアーに驚きの声も「凄いしか言えない」
  3. /nl/articles/2412/16/news079.jpg “プラスチックのスプーン”を切ってどんどんつなげていくと…… 完成した“まさかのもの”が「傑作」と200万再生【海外】
  4. /nl/articles/2412/17/news060.jpg 100均のファスナーに直接毛糸を編み入れたら…… 完成した“かわいすぎる便利アイテム”に「初心者でもできました!」「娘のために作ってみます」
  5. /nl/articles/2412/17/news197.jpg 「巨大なマジンガーZがお出迎え」 “5階建て15億円”のニコラスケイジの新居 “31歳年下の日本人妻”が世界初公開
  6. /nl/articles/2412/17/news078.jpg 鮮魚コーナーで半額だった「ウチワエビ」を水槽に入れてみた結果 → 想像を超える光景に反響「見たことない!」「すげえ」
  7. /nl/articles/2412/18/news059.jpg 「奥さん目をしっかり見て挨拶してる」「品を感じる」 大谷翔平&真美子さんのオフ写真集、球団関係者が公開【大谷翔平激動の2024年 「妻の登場」話題呼ぶ】
  8. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  9. /nl/articles/2411/25/news189.jpg 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
  10. /nl/articles/2412/18/news056.jpg 日本人ならなぜか読めちゃう“四角形”に脳がバグりそう…… 「なんで読めるん?」と1000万表示
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」