レビュー

東京の喫茶店と「オ・レ・グラッセ」 レポ同人誌につづられた1杯のカフェオレを巡る物語司書みさきの同人誌レビューノート

同人誌『オ・レ・グラッセをめぐって。』をご紹介。

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 北風に凍えてばかりでなく、この頃は昼間の日差しの暖かさにほっと体が緩む一瞬を感じるようになりました。春の気配はまだまだ少しずつではありますが、やってくる季節を楽しみに、今回のご本はひんやりドリンクの同人誌です。

今回紹介する同人誌

『オ・レ・グラッセをめぐって。』A5 52P 表紙・本文一色刷り

著者:飯塚めり

カフェオレを思わせる茶色に、ツヤのあるニスのインクが開く前からわくわくします

気になる共通点、それは「オ・レ・グラッセ」

 オ・レ・グラッセとは、コーヒーとミルクの冷たい飲み物で、フランス語でアイスカフェオレを意味する“カフェ・オレ・レグラッセ”からの呼び名だそうです。ご本では、コーヒーとミルクがきれいに二層に分かれたもの、最初から混ざっているもの、ミルクは甘い? 氷は? ストローはなし? といった視点から、東京のお店で出されるオ・レ・グラッセ、およそ30店を4つに分類され、それぞれの様子がイラストで描かれます。

 喫茶店観察家として喫茶店に関する著書も複数あり、カフェについての同人誌も出されている作者さんが、1つのメニューに注目されたのは、喫茶店を巡るうちに、オ・レ・グラッセを出すお店には共通点があることに気付いたからだとか。お店の間取りや店名のロゴ、そしてオ・レ・グラッセ……実は複数の店舗の立ち上げに携わった一人の人物がいらしたという秘められた系譜に作者さんは驚きます。

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 冒頭に書かれたこの経緯からは、作者さんが普段からさまざまなお店を巡っていたからこそ共通点に気付くことができた積み重ねの厚みを感じます。そして同時に、一杯の飲み物からお店発祥の歴史までさかのぼった、はっとする体験の静かな興奮も伝わり、今までオ・レ・グラッセを特別に意識したことのなかった私にも、おいしい一品とそれを取り巻く喫茶店の世界、その深みへと滑らかに入り込ませてくれます。

独自に分類し、お店ごとに紹介されています

ほんわか観察レポートは喫茶店世界への水先案内人

 紙面にはオ・レ・グラッセの手描きイラストが大きくあり、コメントと短いキャッチフレーズ、それにお店の雰囲気を伝える小さなイラストも添えられることがあります。たくさんのお店のレポートが載っていますが、意外なことにお店そのものの情報は店名と簡単な地名だけです。でも、ページをめくっていると、むしろそれがいい! という気分になるんです。

 ほんわかざっくりとしたタッチで描かれたイラストは、作者さんが「『グラスのうつくしさ』も見どころのひとつだと思う」とおっしゃる通り、ああ、このグラスを持ってみたいなぁという気持ちになる魅力があり、お味や、お店の調度品などに触れる文章は短いのに「気分はいつでも軽井沢」「店内の暗さもあいまって、早い時間からお酒を飲んでいるような高揚感」とドラマチックに心を盛り立てられます。

 ご本をきっかけに現地に赴くとしたら、ふんわりかわいいレポートに触発され、自分でもう一歩を踏み出して場所や行き方を調べ、やがて実際にそこを訪れて味わってみる……それは情報の解像度を自らで一つずつ上げていくような体験ではないでしょうか。そのはじまりの楽しさを、やわらかく差し出されているようです。


気になるエピソードについてもコラムが

メニューから喫茶店を慈しむ。アイスドリンクを見守るあたたかさ

 ご本では個々のお店の紹介に加え、オ・レ・グラッセの作り方や、憧れの建築デザイナーさんと実際に出会うことになったエピソードなどのコラムも掲載されています。これまでの経緯に思い巡らせ、それぞれの個性を味わい、そしてそれが移り変わることさえも楽しんでいらっしゃる様子が伺えます。

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 こんなにたくさんのオ・レ・グラッセを見つめ続けた作者さんの目を通して、味や見た目はもちろん、喫茶店の持つ雰囲気丸ごとが大好き、という喫茶店への愛おしさを感じました。


さまざまなオ・レ・グラッセが待っています

サークル情報

サークル名:喫茶モンスター

Twitter:@milippe

Instagram:@milippe

次回イベント参加予定:エアコミティア135

Webサイト:https://www.merizucca.com/

入手先:通販/カッコのあるお店は実店舗あり

架空ストアタコシェ(中野)NENOi(早稲田)BOOTHメロンブックス

今週の余談

 食べようと洗った菜の花の束に、すこーしだけ黄色く花開きそうなつぼみがありました。目からも舌からも季節が楽しいです。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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