レビュー

平成から令和へ、改元の瞬間なにしてた? サークルメンバーがあの日を振り返る同人誌『改元タイムライン』司書みさきの同人誌レビューノート

あなたはなにをしていましたか?

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 なにかと慌ただしい世の流れ、目まぐるしい移り変わりが続きますね。書類に記された“令和三年度”の文字が目に入り、ふと空を仰ぎました。新しい年号を迎えてもう3年なんですって。平成から令和に変わったのも、ちょうど青葉映えるこの季節。3年前、あなたはなにをしていました? 今回の同人誌は平成から令和へ、当日をどう過ごしたかをつづるご本です。

今回紹介する同人誌

『改元タイムライン なまけもの改元紀行』B5 44P 表紙・本文カラー


舞台となる場所が伝わるすてきな写真が表紙を飾ります

山へ、都へ、臨時列車に乗って……そして自宅で。それぞれの過ごし方

 2019年5月1日、その日をどう迎え、過ごしたか。サークルに属するみなさんが、あのときを振り返り、いまあらためて当時の様子を文章で書き起こしています。

 立ち入りには事前の申請とレクチャーが必要な国立公園の峡谷を目指した人たちは登山リュックを背負って歩き出し、改元記念の特別列車に乗ろうとチケットを取った人、京都を散策しながらひたすらおいしいものをおなかに詰め込む人、そして自室で東宝映画作品を見ることに決めた人。メンバーおのおのに流れる時間は平成の章と令和の章の2つに分けられ、自然と街、移動と固定が示し合わせたように対比となって、軽妙に描き出されていきます。

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 5月1日午前0時を境に、ご本は「平成の章」から「令和の章」へと変わります。その瞬間は、実は眠ってしまったり、ゴジラの呻き声で迎えたり。新しい時代がやってくる特別感が、日常に馴染んでゆく様子がまたおのおのの描写から感じられる、平成と令和が対になった構成がにくいです。


まずは平成の章からスタート

変化のときを文章で味わう

 バラエティーに富んだ内容ですが、ちぐはぐに感じられないのは、どの過ごし方も書き手の方がなじんだ世界だからではないでしょうか。

 例えば特別な夜行列車への乗車は、鉄道界の改元ツアーや改元記念チケット発売の盛り上がりに触れ、列車にどんないわれがあるのかがさりげなく文章に織り込まれています。驚くほどたくさんの飲食店を回られている京都のおいしいもの巡りにしても、なじみのお店や新店舗について、とっぴな思い付きだけでなく、その界隈(かいわい)を大切にしてこられた方だからこその情報がそこここに読み取れます。安定の上に特別感があり、読者を置いてきぼりにしない穏やかさが光ります。

 また、小さな写真がたくさんちりばめてあるのもすてきなんです。ごく日常的な様子も、はっとする美しい一瞬も同じようにページのなかにあります。山々と雲を見下ろす絶景の展望ポイントも、車窓から見る夜明けの青い景色も、つやつやとしたプリンの輝きも、一歩ずつ歩き続ける日常のなかに美しいきらめきがあることに思い至らせてくれます。それは唯一、写真が全くない、自室で「ゴジラvsデストロイア」を見ることを選んだことを書きつづるページにも、見事につながっているような気がするのです。

情報量の多いページですが、語り口が軽やかで堅苦しさは感じません

過ごしてきた時間は自分を作ってきた時間。己を緩やかに振り返る

 読んでいる間、「自分はどうしていたかな」「私だったらここに足を運んだかしら」と何度も手を止めました。こちらのご本はサークルの10周年を記念して企画されたとのこと。「我々が何者であるのか」を雄弁に物語る本になったのではと、あとがきで振り返られています。何をしていたかだけでなく、それを思い出して振り返り、足跡を眺めてみることは、自分の気持ちと向き合うことですね。

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 ご本をきっかけに、読み手をもあのときに連れて行って緩やかに向き合わせてくれるご本だと感じました。さあ、この春は、何をして過ごしましょうか。


黒地のページに目をこらすのも、夜汽車の雰囲気だと思えば乙なものではないですか

サークル情報

サークル名:生ケ物同盟

Twitter:@namakebungei

ブログ:https://namake5.hatenablog.com/

入手先:BOOTH

参加予定のイベント:第三十二回文学フリマ東京(2021年5月16日)

今週の余談

 当時、「令和まんじゅう」とか「改元せんべい」といったお菓子を求めてさ迷い歩いたのですが、直球! なものが意外と見つからず苦労したのが私の思い出です。でも結果おいしい……あれ? おまんじゅうだったか、おせんべいだったのか……ともあれおいしく食べました!

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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