限られた空間でどう魅せるか 設営の参考にしたい同人誌『サークルスペースの作り方』:司書みさきの同人誌レビューノート
あるあるの体験を踏まえた試行錯誤。
街のあらゆるところで、人が増えたなと感じることが多くなってきました。今までにない新型感染症に対策をしながら、実際の会場に足を運ぶ同人誌即売会も少しずつ開催が増えてきているようです。今回は同人誌即売会にサークル参加した場合の展示方法について描いた同人誌です。
今回紹介する同人誌
『サークルスペースの作り方』A5 24ページ 表紙2色刷り・本文モノクロ
著者:みどり
“設営完了”できるかな? 同人誌即売会の卓上ディスプレイの記録
こちらのご本は、1冊の同人誌を持ってはじめて同人誌即売会にサークル参加したときから、11種以上の発行物をテーブルに並べるようになるまでの、本の並べ方の記録です。作者さんが実際に同人誌即売会に参加された状況がイラストとマンガで描かれています。同人誌即売会では、おおむね長机の半分が自分の持ち場所です。その限られた空間でどんなところを工夫したのか、使用した道具類を具体的に挙げつつ解説され、さらにここは改善の余地ありという点も併せて随所にコメントが添えられています。
「常にスペースの限界と戦ってる」あるあるの体験を踏まえた試行錯誤が楽しそう
発行物を持って同人誌即売会に参加するのって、うれしいです。しかし何度かやっているとある日、はたと「もう置く場所がない」と気付いたり、はたまた周りを見回して「なんかうちのスペース寂しく見える?」と思ったり。そんな、参加してみて分かる現場の空気や、困ったことのあれこれを、読んでいるうちに私も思い出しました。
例えば、本を飾れる小さなイーゼルをどう扱われているかに注目すると、新刊1冊を飾るところからはじまり、やがて置き場所がなくなって撤去したかと思えば、複数の見本誌を並べるためにたくさん買い足された時期もあったとのこと。道具一つにもそんな二転三転っぷりが読み取れ、作者さんの努力と葛藤がわがことのように感じられてきました。
「あっ、そういえば私もこれ困ってました」と自分のあるあるに置き換え、照らし合わせて参考にできるのは、ともすれば慌ただしさに紛れて忘れてしまいそうなイベントという非日常体験をきちんと振り返り、見える化・言語化された成果ではないでしょうか。卓上の様子はこつこつと試行錯誤を繰り返す図ですが、すっきり見やすく軽やかに描かれて、あるあるの気持ちと一緒に、やってみたい! なわくわくも浮かんできましたよ。
作品を届ける力。同人誌即売会の面白さを存分に
本を作るだけでなく、どう並べてPRするかという、いわば書店さんのような見せ方までも自分一人でコントロールできるのは、同人誌即売会の面白さの一つではないでしょうか。作者さんは最初のサークル参加からテーブルクロスやポップ、ポスターも準備されたとのこと。そんな、当初から「どうやって多くの人に手に取ってもらうか」をという作品を届ける力を意識しながら歩んでこられた奮闘記を、こうして同人誌という形で参考にできるのはすてきな循環ですね。
どう見せたいか? は、どう作品を届けたいか? という自分との対話ともいえるのではないでしょうか。作者さんも「サークルの数だけレイアウト案って無限にあると思います」と書かれている通り、作品のサイズや、即売会ごとのルール、ジャンルなどによって、スペースへの置き方はさまざまにバリエーションが考えられます。本づくりに加えて、「届ける楽しさ」一歩前進! なご本ですよ。
サークル情報
サークル名:道草パレット
Twitter:@michipale
次回イベント参加予定:ナレッジガレージ(12月5日)、ノーウェイマーケット(12月12日)、おうちdeクリスマスマーケット2(12月17日、会場A:う2)、NO WAY MANIACS(12月26日)、冬コミC99(12月31日、ネ36a)
今週の余談
今回は現地に赴いて参加する同人誌即売会のスペースについてですが、オンラインイベントや委託など、それぞれに工夫があるのでしょうね。作品としてまとめられることで、後年になったら「今」の記録になりそうなのもとても面白いと思います!
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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