利用客激減、大赤字、そして廃線へ? 「地方ローカル鉄道の役目」はもう終わったのか:月刊乗り鉄話題(2022年5月版)(2/4 ページ)
いま、鉄道業界では「赤字路線をこのまま維持していくべきか」が深刻な問題です。「え? あの路線、廃線になってしまうの?」「そもそもなくす必要あるの?」──。そんな素朴な疑問を冷静にひもといて解説します。
Q:「輸送密度2000人/日」の基準とは? これはそもそも何なの?
A:「公共性」を検討する指標です。
公共交通事業は、赤字か黒字か「だけ」では評価できません。「地域の役に立っているかどうか」という指標が必要です。それが輸送密度です。
輸送密度は、年間で1日1キロメートルあたりの利用数を示します。鉄道は旅客と貨物を輸送するので、旅客の場合は人数で、単位は「人/日」、貨物は重量(トン)で単位は「トン/日」です。旅客に限る場合は「平均通過人員」ともいいます。
計算方法は、年間の利用者利用距離数の合計(人キロ)÷営業距離÷営業日数です。利用者ごとの利用距離はきっぷの区間やIC乗車券のデータを合計します。営業距離は線区の距離と同じです。災害などで一部区間が不通のときはその分の距離を省きます。営業日数は、大抵は365、うるう年は366ですが、こちらも災害や保守工事などで全日運休した日を省きます。
2019年度JR西日本の線区において、例えば大阪環状線の輸送密度は「29万2574人/日」です。東海道線(神戸線)の大阪~神戸間は「38万5049人/日」です。これらに比べると、輸送密度「2000人/日」はかなり小さい数字です。
輸送密度が大きければ「利用者が多く、公共性が高い。赤字線区といえども残す必要がある」といえます。逆に、輸送密度が小さければ「利用者が少なく公共性は低い」となります。JR西日本はその境目を「2000人/日」としました。他にも赤字線区はあるけれども、「公共性の低い路線」から存廃を検討したいというわけです。
Q:沿線自治体はなぜ「公共性の低い鉄道」を残したいのでしょうか?
A:「情緒的な理由」「災害時の備え」「交流人口獲得」などが考えられます。
「情緒的な理由」には、鉄道を利用しない人が鉄道廃止に反対するという話を聞くことがあります。
「鉄道があって当たり前だから」。
「自分は乗らないけどないと困る人がいるから」。
しかし冷静に考えれば、地域に必要なものは「移動手段」であって、必ずしも鉄道である必要はありません。
鉄道がなければ「地域が廃れる」という声もあります。しかし、地域の人口が減ったから鉄道利用者が減ったとも言えます。「鉄道と駅は地図に載るから」などもありますが、昨今はスマホで電子地図を見る時代です。駅なければ街が認識されないということはないでしょう。鉄道がなくても存在感を示す町はたくさんあります。
「災害時の備え」は、豪雪や津波などで道路が閉鎖される地域に見られる理由です。復旧工事中の只見線(福島県)や、南海トラフ地震で孤立のおそれがある阿佐海岸鉄道(徳島県、高知県)などです。鉄道は地域の非常口というわけです。ここは、その非常口としての役割に維持費が見合っているかどうかを考える必要があります。維持費を稼ぐために、観光輸送に力を入れるという考え方もあります。
「交流人口」は旅行者のことです。「公共交通を利用して訪れる観光客のために鉄道が必要」という考え方です。確かに他の地域からやってきた人にとって、もっとも確かで安心感のある移動手段は鉄道でしょう。鉄道旅の魅力は「お酒を飲める」「景色を眺める」です。マイカーではドライバーの飲酒は厳禁。よそ見も危険です。
交流人口に似た言葉に「移住人口」があります。「他の地域からの移住を推進するために鉄道や駅が必要」という意見です。しかし、移住計画の目標と実行が約束されないと、民間鉄道事業者は鉄道を維持したくはないでしょう。
いずれにしても、鉄道を維持するためには、定住人口の増加、交流人口の増加、そのためのまちづくりが必要です。
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