利用客激減、大赤字、そして廃線へ? 「地方ローカル鉄道の役目」はもう終わったのか:月刊乗り鉄話題(2022年5月版)(4/4 ページ)
いま、鉄道業界では「赤字路線をこのまま維持していくべきか」が深刻な問題です。「え? あの路線、廃線になってしまうの?」「そもそもなくす必要あるの?」──。そんな素朴な疑問を冷静にひもといて解説します。
Q:今後、地方の鉄道はどうなってしまうの?
A:国家的規模で「交通、物流政策」が必要です。
JRグループが発足して35年が経過しました。発足時と2022年現在では経営・事業環境も大きく変わりました。
特に少子高齢化、人口の都市への集中、地方の過疎化などが問題です。国鉄時代は輸送密度4000人/日以上で廃止を免れてJRに継承された線区であっても、今や2000人/日を下回る線区は多いです。「便利な道具はもっと便利な道具に交代されていく」という原則を考えれば、鉄道の本来の特性である「大量輸送を実施できない」鉄道路線は、道路交通に替わっていく運命です。
しかし、鉄道路線は「もっと便利に使えるにもかかわらず、使われていない」とも言えます。
例えば、長距離トラック輸送や長距離バスでは、ドライバー不足が深刻です。運転士の疲労による事故リスクもあります。そこで、(客の少ない)旅客列車で荷物を運ぶ取り組みが始まっています(関連記事)。
鉄道貨物輸送を見直し、地方ローカル線にも貨物列車を復活させて、鉄道ネットワークをもっと活用しましょうという取り組みです。長距離ドライバーは不要、駅周辺で配達する近距離ドライバーに転進できます。また、複数の夜行バスが運行される都市間では夜行列車の復活も検討すべきでしょう。
鉄道、自動車、航空機、船舶。それぞれに長所と短所があります。本来はそれぞれの特性を生かし、補っていくべきです。しかし現時点、それぞれの施策はバラバラ。国土交通省内で各部門のタテワリ行政が続いています。
特に公共交通事業については国の予算が少なすぎます。国土交通省内の鉄道局の予算割り当ても少ない。これでは地方鉄道の支援はできません。
国が民間企業であるJRに肩入れできないという事情は分かります。しかし、交通と物流をきちんとデザインし、各交通モードを効率よく運営する仕組みは考えてもらいたいところです。地方を活性化し、日本の隅々まで住みやすくするために、鉄道の役割はあるはずです。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。ITmedia ビジネスオンラインで「週刊鉄道経済」連載。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。日本鉄道全路線の完乗率は100%(2021年4月時点)
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