会議で視聴率の話は1回も出ていない――フジ深夜の激ヤバ番組「ここにタイトルを入力」若手Dがテレビというメディアで表現したかったこと(1/3 ページ)
ヤバい番組の源流である原田和実ディレクターは入社3年目。
フジテレビが7年ぶりの大改変を行った4月、月曜深夜に新設された「月曜PLUS」枠で、バラエティー番組「ここにタイトルを入力」がトップバッターとしてスタート。2021年に「水曜NEXT!」の枠で2週にわたって放送されていたバラエティー番組が6週限定で復活する形となり、5月16日深夜にラスト#6の放送を迎えます。
各週、クイズや街ブラ、マジック、恋愛ドラマなどテレビの王道をなぞったテーマを扱ってきた同番組。しかし、放送後のネットの反応は「カオス」「一体なにを観せられているのかわからない実験的な番組」「想像以上の激ヤバ番組で笑った」など、予想の斜め上をいく声ばかり。
#1では、お笑いコンビ「バイきんぐ」の小峠英二さんをダブルブッキングしてしまった番組スタッフが、解決策として「小峠さんの右半身と左半身ずつを両方の番組に出演させる」手法をとっており、セットにめりこんだ小峠さんの半身を鏡で反転させ、同時に2つの番組への出演を実現させる内容となっていました。何を言っているか分からないと思いますが、ありのまま起こったことを伝えています。
#2では、タレントのフワちゃんと浅草を巡る「フワちゃんの浅草のんびりツアー」が放送される予定でしたが、撮影したデータを無くしてしまった番組スタッフが、「防犯カメラや非接触体温計カメラの映像、セクシービデオ撮影用の移動スタジオ『マジックミラー号』での映像などに映り込んだフワちゃんを追い続ける」という大掛かりなしかけがされた内容でした(関連記事)。
以降も、コンプラの影響で遠回りな工程を見せられる狂気のマジックショーや、費用削減で俳優がパネルとして登場する恋愛ドラマ、恋に金額をつけ買い取る謎システムの恋愛バラエティーなどが放送。実験的な番組「ここにタイトルを入力」は、テレビというメディアで何を表現したかったのか、ヤバさの源流である入社3年目のディレクター・原田和実さんに話を聞きました。
テレビのテンプレートで遊ぶ 高カロリーすぎる「ここにタイトルを入力」レギュラー化まで
――「月曜PLUS」枠でレギュラー化される前、2021年に「水曜NEXT!」で2週にわたって放送されていたんですよね
原田和実ディレクター(以下、原田D) 「水曜NEXT!」の企画募集に応募した5本中の2本が放送されました。この枠は、1つの企画を2週連続にわたって前後編分けて放送するので、どちらの企画で進めるか悩んだんですよね。今の「月曜PLUS」枠で放送しているような企画が好きなのでそのときもそういう企画が多くて、2週連続だとボケが弱くなったり、入り口がぼんやりしちゃうと思って。
そんな中で、「逆に違う企画を2本やっちゃうのってどうなんですかね?」と編成になんとなく相談したら「いいじゃん」「やれるならやってみよう」と言ってくださったので、進んでいった形です。そのときから「ここにタイトルを入力」は、テレビのテンプレートで遊ぶという趣旨の番組でした。
――「ここにタイトルを入力」という番組名の狙いはなんだったのでしょう?
原田D ラテ欄にこれがあったら面白いだろうな、というシンプルな下心はあります。あとは、毎回違ったテイストの番組が放送されるに伴って番組名も変更したかったので、大本になる番組名の存在感のあり方と消し方のバランスを探った結果、このフォーマットなら都合がよかったんです。
――その実績が認められ、「月曜PLUS」枠で6週限定のレギュラーが決定しました。6回と限定されていることはバラエティーをやる上でやりづらさなどはなかったのでしょうか?
原田D 個人的にはやらせていただけるなら頑張るという所存ではあるんですが、この番組をレギュラーでやるのが相当カロリー高めなので(笑)。6週限定でやってみないかと話をもらった段階から、全部違う企画で、かつ、違う角度から面白いものを提案できたらなと考えていたので、どちらかというとこの番組向きの枠でやりやすかったなというのが正直なところです。
6週限定というゴールがある分、もう頑張ればいいだけだったので、ひたすら詰めて詰めて、どれだけ変化球を見せられるかというところを考えてはいました。
マジックミラー号の映像は別日収録だった
――5回の放送を終えて、一番大変だった企画はありますか?
原田D 大変だった……#2のフワちゃん(笑)。とんでもないカロリーだったなと思いますね。企画上、撮影データを無くしたと説明はしていますが全部こちらが仕掛けた映像なので、めちゃくちゃ下見は行きました。この角度からこう狙う、ここでこういうことが巻き起こって、というボケと場所の組み合わせとかも全部細かく計算して、緻密に積み上げた放送だったので、編集も込みで一番カロリーを使いました。
マジックミラー号の映像だけ、実は別日に収録しているんです。当日レンタルする予定だったんですけど、ロケ撮影日に本職の収録が入って急きょ借りられなくなってしまって。
――別日で!
原田D あの画は絶対に入れたかったので、別日で収録しました。でも、Twitterなどネットを見ると労力をかけた分だけの反響はあったのかなと思います。
――一般のお店にも取材されてましたよね。企画内容を理解してもらうのはなかなか大変だったのでは?
原田D めちゃくちゃ説明はさせていただいたんですけど、内容が内容なのでどこまで分かっていただけていたかは……。放送前にもう一回連絡をいれたお店もありました。怒られないかとすごく不安でしたが、こんなことに協力してくださった浅草の懐の深さはすごいです。
右脳的な笑いと左脳的な笑いのバランスを極めることが、笑いの新しい感情につながる
――Twitterでもかなり盛り上がっていた印象でした。ネットや視聴率の反響はいかがでしたか?
原田D 「月曜PLUS」が始まるときに数字はそんなに気にしなくて良いと言われていて、実は会議でも視聴率の話は1回も出ていないです。そういった意味では、面白いことだけを考えられる環境ですごく恵まれていましたね。
Twitterの反響もどうなんでしょう。ただ、1年目のころ「きみの企画書は難解すぎる」と言われ続けていたんですけど、いざ放送してみると、やっぱそんなことないよなというか、みんな面白いポイントを分かってくれるし、こういうことを面白がってくれる余白はあるんだと反響を見て認識できました。
あえてめちゃくちゃ分かりやすくする、変におべっかを使うのがどこまで必要なのかとは思いますが、「分かりやすい」というのはテレビが長い歴史の中で積み上げてきた発明なので、そういうところはまだまだ学びたいなと思っていますし、だからこそできる番組をつくっていきたいです。
――「ここにタイトルを入力」は企画内容が複雑だったので、どこまで分かりやすくするかというバランスは難しかったのでは?
原田D これが言語化として合っているのか分からないですが、右脳的な笑いと左脳的な笑いのバランスを極めることが、笑いの新しい感情につながるような気がしていて、「ここにタイトルを入力」の見せ方はそのバランスを探る挑戦でした。
構成を練るときに「左脳的」な構造の面白さとか説明しない面白さ、考察的な面白さと「右脳的」なパッと笑える、いわゆるお笑いのテンプレートをどこまで引っ張って、どこで切り替えて、ここでこう思ってもらって――――という視聴者目線での感情の回路は意識して作ったつもりです。
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