「推しの結婚どう思う?」に1300件超の回答 アンケート結果をまとめた同人誌が熱くて厚い:司書みさきの同人誌レビューノート
きっかけは推しの「結婚したら……」との発言。
「推し」という言葉も随分と広く知れ渡った気がします。誰かや何かに夢中になったり、応援したりするのはうれしく、心癒やされる時間です。ただ、気持ちが動かされるからこそ、揺れるときもあり……今回は「推しの結婚」についてのアンケートをまとめた同人誌です。
今回紹介する同人誌
『いつも応援して下さるファンの皆様へ』A5 102ページ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:献立
「推しの結婚」に向き合うアンケート1300件のまとめ
このご本は、作者さんが応援している未婚の有名人の方が、ふとした折に「結婚したら……」という発言をしたことに端を発しています。「もしかしていきなり結婚発表があるの!?」と驚いた作者さんは、困惑するあまりにSNSを使って「推しの結婚についてどのように思うか」のアンケートを実施します。するとなんと1週間ほどで1300件を超える回答が! そしてアンケートを実施してから半年が過ぎたころ、作者さんの推しが本当に結婚を発表され……「やるなら今じゃね?」とアンケートの総括本を作るに至ったのだそうです。
アンケートから見える数と、自由意見が語りかける心の機微が行き交う
今回のアンケートは推しの対象を「存命中の有名人」とし、フィクションのキャラクターは含まれません。また「現在好きな有名人がいる」方に向けて呼びかけ、2020年11月に実施、1週間で1300件を超える回答が寄せられたとのことです。ご本は、前書きのマンガ以外は、ほぼ文章と図で構成され、第一章ではアンケートの結果発表、第二章では自由意見の紹介が載っています。
まず印象的なのは回答の多彩さです。そもそもアンケートの質問も相当細やかに設定されており、例えば「もし推しが『推しと協力して婚姻関係を営む力が申し分なく、確実に推しと2人で幸せになれるであろう自分以外の相手』と結婚(再婚)したら、祝福できると思いますか?」など、この件について考えられるさまざまな状況をできるだけ整理して、回答に臨んでもらいたいという配慮が感じられます。
それに対する答えも一つの意見だけが突出するのではなく、拮抗(きっこう)しているのが図からも明確になります。さらに自由意見が幅広く、推しに寄せる感情、周囲の反応と自分の思いとのギャップ、ファンコミュニティーのなかでの振る舞いなど、「推し」が居て、うれしく楽しい時間を過ごしているからこその心の機微が誌面に表されています。
受け止め方は一つじゃない。心の揺れを明らかにすることでの寄り添い
いろいろな気持ちが浮かび上がるのを本の形にするときに、ガイドとなっているのが作者さんの文章です。多くの人が答えたくなるような質問の設定からも伺い知れるように、決して一つにまとめきれないたくさんの回答の交通整理が丁寧に行われています。
最初から最後まで作者さんの目を通した解釈が添えられているのは、一冊まるまるが作者さんの「推しの結婚について考えた」結果でもあり、一人の方の思考をたどる読み物としても成り立っています。表紙込みで100ページにもなるご本の厚みも、おさまりきらないみんなの気持ちと、それに向き合う作者さんの姿の現れのように思います。
読み進めるうち、アンケートの回答も作者さんの文章も、いろんな考え方の一つであり、読み手の私と全く同じ解釈になるなんてすごく珍しいことだな、と自然に感じていました。「おめでたい話だよね」「普通なら祝福するでしょう?」と思われそうな出来事に対して、多様な受け止めがあることがありがたく身に迫ります。
いま、結婚そのものを公にすべきか、どこまでプライベートに踏み込むべきか、という部分や、婚姻制度そのものも、社会概念が急激に変わりつつあります。心の中に入ってくる問題をあえて明らかにすることは、同じように心の揺れがある人、これからあるかもしれない人、そしてもう揺れを体験した人にとって、得難い手掛かりになるのではないでしょうか。
今週の余談
一つの出来事に対して抱く感情はひとつでない、というのはごくごくあたりまえなのですが、冠婚葬祭は大きな出来事だからが、それに伴う気持ちの細やかな部分は、ときに少し隅に追いやられる時があるように思います。嬉しさのなかの衝撃、驚いたけど胸が温かくなったり……複雑な気持ち、そのままを大切にしたいです。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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