レビュー

皮むき手袋がエビフライに 着眼点が面白い同人誌『100均商品だけで食品サンプルを作ってみた』司書みさきの同人誌レビューノート

まさに発想の勝利。

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 そろそろ夏休みの過ごし方についての話題が増えてきましたね。この時期、図書館では旅行のガイドブックと同じくらいに工作の本がよく動きます。何かにチャレンジしてみるのにぴったりな季節、今回は限られた材料で食品サンプルを作る同人誌です。

今回紹介する同人誌

『100均商品だけで食品サンプルを作ってみた』A6 52ページ 表紙・本文カラー

『100均商品だけで食品サンプルを作ってみた2』A6 38ページ 表紙・本文カラー

著者:寺田くれは

手芸用の編みひもが、うどんになっていく様子をまざまざと見せつけられる表紙。プリンも豪華に

素材も絵具も器も。100均しばりで挑む食品サンプルづくり

 こちらのご本は、食品サンプル職人の養成スクールに通いはじめた作者さんが「専門技術がない私にできること」の挑戦として考えたのがきっかけだそうです。食品サンプルを作るにあたり、素材は100円均一ショップで入手すると心に決め、その上で

器まで100均のものを使う
絵の具や筆も100均のものを使う
粘土をむやみに使おうとしない

といったルールも自らに課しての制作の様子が、カラー写真と文章で繰り広げられます。

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しかし粘土も適材適所で登場。ここで粘土を使ったことによりエビフライのしっぽが固定しやすくなるというラッキーな流れに

これがこうしてこうなる! 着眼点と技術の楽しさ

 ご本は2冊出ており、1冊目ではきつねうどん、サンドイッチ、エビフライ、たこやき、2冊目ではうな丼とプリンパフェの食品サンプルが掲載されています。白いひもがうどんになるのにはじまり、ゴツゴツした表面の皮むき手袋は見事にエビフライに変身、入店からわずか3分で発見したというふわふわ素材の髪留めは言われてみれば鰻にぴったりで、その見事な観察眼にうなります。

 そうして選ばれた素材が、食べ物になっていくためにどんどん繰り出される技術も見逃せず、深緑色の風船を切っただけでわかめにする大胆さと、サンドイッチ用のパン(元はスポンジ)の断面の美しさを求めて何度も切りなおす細やかさの緩急が効いています。

 プリンを作るにあたり、その本体としてアイスを入れるカップを選択した際には、最初からすでにプリンらしさ全開の素材を選んでいることについて、妹さんから「ギリギリやなぁ」と言われながらも、これでいくしかない、と真っすぐに心を決める思い切りの良さ。「何を使いどう作るか」と「完成した見た目のクオリティーのための柔軟な変更」のバランスも光ります。

 そして、出来上がってみれば一目でおいしそうな見た目に仕上がっており、写真の構図の素晴らしさはもちろん、素材選びからの試行錯誤が文章で語られていくのが、これまた楽しいのです。


言われてみれば、着色する前から既に鰻っぽさがあるような!

制作は不安と安心の連続……最適解を求めて!

 あとがきに「制作は不安と安心の連続」と書かれていたのを読んだとき、ああ、やっぱり、と思いました。例えば、鰻のツヤが急にくすんでしまったときの驚き、そこからのリタッチ……そんなとき、作者さんのどきどきが文から伝わってくるのです。けれど気持ちの吐露はどこまでも軽妙で、その軽やかさによって、思いがけない展開はつらい困難ではなく、お楽しみ要素のあるハプニングのようにも思えてきました。

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 2冊のご本の制作時期は、2年ほど空いています。1冊目を発行したあと、作者さんは食品サンプル職人の養成スクールを無事に卒業され、いまも食品サンプルづくりを続けていらっしゃるそうです。そんな中、2冊目のご本が出された経緯(けいい)には、制作した食品サンプルとご本を並べて展示する機会があったのが大きなきっかけだったとのことで、作品披露にあたり、新刊も出されるエネルギッシュさと、時がたっても変わらない制作スタイルをうれしく読みました。

 作者さんは食品サンプルづくりについて「知っている知識を使って最適解を考える」という言葉も書かれています。ご本は、工作の指南書ではありません。それなのに、限られた物をうまく活用する面白さ、自分にできる技術を総動員しながら、手のひらサイズの2冊でスタートからゴールまでを駆け抜ける軽やかな様子に、物作り心がうずうずしてきます。

ご苦労なさったツヤも見事にうな丼が完成

サークル情報

サークル名:クレハフーズ

Twitter:@908foods

Instagram:@908foods

入手できる場所:SNSを参照

今週の余談

 「やってみたい」「面白そう」と思えること、その気持ちがもう、夏に似合ってます!

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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