レビュー

旅の記録をもとに空想の村を作る面白さ 同人誌『日本各地を組み合わせて映える田舎を作る本』司書みさきの同人誌レビューノート

現実のデータも活用して映える田舎を考えていきます。

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 明るい日差しに窓を開けると風が爽やかで、外歩きにもちょうどいい季節になってきました。今回は、自分の街やすてきな風景、まわりの景色が気になってくるご本です。

今回紹介する同人誌

『日本各地を組み合わせて映える田舎を作る本』B5 表紙・本文カラー

著者:ぶっちゃん


オリジナルキャラクターのチカちゃん、この子が住んでいるのはどんな“映え”のある場所なのでしょうか

すてきな景色ってなんだ? 現実の土地から空想の村を作る

 この同人誌は現実をもとに、空想の場所を考えていくご本です。表紙にいるのは、オリジナルキャラクターのチカちゃん。この子が暮らすのはどんなところだろう? 山のあるところかな? 海のあるところかな? お買い物はどんなところでするのかな? そんな疑問の一つひとつを、作者さんは実際の土地や環境と照らし合わせながら作り出していきます。

 まずはチカちゃんが住むのは村、と決めてスタート。「街の景観は気候と関係がある」とはじまり、雨や風、雪が自然や建物の作りにも影響する点に着目し、続いて道や鉄道の有無、駅と駅名、集落、そこにあるお店は……と大きな視点から細部へと検証が進められます。

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 雨温図や人口密度、鉄道の仕組みなどの客観的な事実や知識をもとに考察されるのですが、最終的に方向を決めるのはもちろん作者さん。いろいろ考えた上で「人口は5000人で、人口密度が150人程度の町を想定したい」「2車線(片側1車線)の県道を外部と接続の基本とする」とスパッと方向性が示されます。これがなんとも心地よい! 今までもやがかかったようにかすんでいたところに、さーっと道が引かれ、駅ができ、人々がいるのが見えてくるような面白さを感じました。


雨温図から設定を考える

自作キャラの住む地……そこはとっておきの“映え”スポット

 こうやって決まっていく景色をもとに、作者さんはイラストを描かれています。チカちゃんたちは、この村で歩き、笑い、暮らしているのです。愛着のあるキャラクターをすてきに描くなら、その背景も魅力的であってほしいというのは、きれいな場所や物を撮影してSNSにアップするような“映え”と共通する部分があります。

 けれど、このご本からはそこからさらに“誰にとっての映えか”と、風景を写し取る描き手への視点が強く感じられます。文中でも、「映え」や「景色」の定義について述べられており、「日常生活の景観も見方を変えれば映えと言えるだろう」とはその通りだと思います。非日常じゃなくても、魅力的なところを最大限に引き出したい……では、魅力って何だ? そうだ、自分はこんな場所が好きなんだ! と、読み進めるうちに、作者さんがひかれる光景、大切にしたい街並みが明らかにされます。

 まずは自分が大好きな世界を作り、そこに大切なキャラクターを描き、そしてその後で見知らぬ誰かにも“いいね”を共有できたらいいな、とでもいうように、他者でなく自己の内面へと“映え”を探っていく姿があるように思いました。

あの場所にあった魅力的な要素を入れたい! と考えるの楽しそう。水路は盛り上がりますね!

土地を調べ、暮らしを知ることが創作を強くする

 作者さんはこれまで各地を旅し、巡ってきたそうです。思い描いた空想の地がふわふわとした雲の上のお城ではなく、どこかにありそうな現実味を伴っているのは、分析や検討の土壌に実体験が影響しているからでしょうか。ご自身が興味を持った地を訪れ、写真を撮り、地元の人と話したり歩いて感じた中から、一番いい景色を編み出す、ああ、それはいい村ができますねぇ! と心の中で感嘆の声を上げてしまいました。

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 知識をもとに調査し、しかも自分の感じた体験もプラス! この多層の構造が、夢想を、地に足の着いた創作にしているのだと感じました。空想の村には会いには行けないけれど、きっと今いるところと地続きに……そんな気持ちにもなるご本でした。


作者さん自身が体験したことが、想像の土台を支える

サークル情報

サークル名:地測工廠

Twitter:@BHCrusher1

Webサイト:https://chikou.bhcrusher1.net/

入手できる場所:BOOTHメロンブックス、「おもバザハンズ町田」(東急ハンズ町田店)10月1日~11月13日

次回参加予定イベント:コミックマーケット101申し込み済(創作少年(オリジナルイラスト))

今週の余談

 車窓からぼんやり風景を眺めるのが好きです。通りすぎる街を、ここに住むとどんな感じかなぁと想像したりします。立地や交通、いろんな方面から具体的に考えてみるの、楽しそうです。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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