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住む家を作品として考える 大学時代から社会人9年目まで5つの部屋を記録した同人誌『わたしがいたへやたち』元司書みさきの同人誌レビューノート

すてきな暮らしの記録。

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 この連載のタイトルが、今回から少しだけ変わったのにお気付きでしょうか。この度、長年勤めた司書のお仕事からクラスチェンジいたしまして、それに伴い当連載のタイトルも「元司書」になりました。お仕事は変われど、同人誌への興味は変わらず、いえむしろますます興味津々にレビューをお伝えしていきたいと思います。

 仕事環境が変わると、おのずと暮らしも変化してきますね。毎日を過ごす住まいもそれを写し取っていたり。今回は、かつて住んでいた部屋を振り返るという同人誌です。

今回紹介する同人誌

『わたしがいたへやたち』A5 36ページ 表紙・本文カラー

著者:トム子


部屋への扉を開くようにページをめくります

はじめての一人暮らしからはじまる5つの部屋

 こちらのご本は、作者さんがはじめて一人暮らしをしはじめた大学時代から、お引っ越しを重ねて、社会人9年目の二人暮らしに至るまでの5つの住まいが載っており、間取りや家具の配置といった室内の様子がイラストと写真で紹介されています。

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 加えて、周辺の環境や住み心地について文章でつづられているのですが、そこにさらりと入り込むのが作者さんである“わたし”の経験や主観です。一人暮らしを始めて部屋作りにハマったこと、お付き合いをしていた相手と二人暮らしのころ、同棲を解消するのは結構大変だったけれど次の部屋にはワクワクがあったこと……。きれいなシルエットの照明器具や、こまごまと並ぶ写真立てなどの、「きっと住んでいる人が好きで選んだのだろうな」というセレクトと一緒に、作者さんの過ごしてきた日々を知ることで、イラストや写真で垣間見える部屋のそこここに物語があるように感じられました。


最初の部屋はイラストで。冷蔵庫は当時の推し色!

部屋は作品? 手塩にかけた作品に住む

 5つの部屋には、どれも人の住んでいる気配がします。椅子の背にかけられた服や、少しひっぱられたこたつ布団、そんな柔らかなしわや角度が、そこに息づく人の影を連想させます。けれどそれに住人の姿は写っておらず、白さを感じさせる画面は非日常的でもあるんです。

 部屋を公開する、しかも自分の過ごしてきた日々と一緒に、というのは、簡単なようで、実はかなり思い切った解放ではないでしょうか。自分の心安らぐ日常の居場所を丁寧に伝えるのは、好みや手にしてきた物品を通じて頭の中を紹介しているようでもあります。

 あらためて考えると、ちょっとドキッとするようなプライベート感。しかし、このご本では不思議にそれが心地よくもあり……そのバランスの良さの鍵は作者さんのあとがきの一言がヒントになっています。作者さんにとっての部屋は「ある種の『作品』として位置づけられていたように思います」と書かれています。ああ、なるほど! 部屋は単純に暮らすだけでなく、作り上げ、磨き上げていく対象でもあるんですね。だとしたら、時間をかけて積み重ねてきた作品の中で時間を過ごせるなんて、なんて満たされる環境でしょうか。部屋との向き合い方にこんな気持ちもあるんですね。


自分の部屋の横顔がきれい、なんて思ってみたい!

暮らし・記録・記憶のやわらかな重なり

 住まいを大切にされてきたからこそ、日常の至る所に語るべき愛着があるのがうかがい知れるのですが、ご本の中での写し取り方がまた興味深いです。最初の部屋は写真が残っていないためイラストが中心で、Instagramをしはじめたころには色味や風合いを加工した写真が多いなど、その折々に部屋のことを残すやり方にも移り変わりが感じられます。

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 写真だけでなく、イラストだけでなく、文章だけでなく……この3つの方法が混ざり合っているのが、リアルな記録と過去を振り返る記憶をちょうどよく、優しく積み重ねた心地よさにつながっているように思います。冬の日の穏やかな午後、居心地のいい場所で読みたい、そんな静けさと心地よさを感じるご本でした。


人の暮らしている気配が穏やかに漂います

サークル情報

サークル名:トモモ舎

Twitter:@1065dayo

入手できる場所:大阪シカクBOOTHBASEminne

次回参加イベント:COMIC CITY 大阪 123(1月8日)、文学フリマ京都(1月15日)

連絡先:https://thebase.in/inquiry/1065-base-shop

今週の余談

 忙しさにかまけたら、すぐにお部屋がてんやわんやになる身としては、住まいの美しさに憧れます! 心地よい空間を維持できるのって、素晴らしいスキルだと思います。

みさき紹介文

 公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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