花より団子ならぬ“旅先で団子” 5人の書き手たちがつづるアンソロジー同人誌『団子絵道中双六』:元司書みさきの同人誌レビューノート
エッセイ、短歌、小説。さまざまな形で書かれた団子愛。
今年は桜がびっくりするほど早くから咲き始めました。そしてそれに続くように、あちこちでいろんな花が一斉に開き始めたようです。満開の中、またひらひらと花びらの降る中……すてきなお花見がもっと充実するお供と言えば、そう、お団子ではないでしょうか。今回の同人誌はお団子をテーマにしたご本です。
今回紹介する同人誌
『旅先で食べる団子ろじー 団子絵道中双六』文庫版 38ページ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:橋本野菊、正岡紗季、ミド、すと世界、庭鳥
エッセイ、短歌、小説……団子をテーマにした掌編アンソロジー
ご本には5人の書き手さんが参加しておられます。エッセイ、短歌、小説と、表現形態はさまざまですが、共通しているのは“旅先で食べる団子”がテーマになっていることです。地元の郷土菓子である団子、遠征して出会った団子、海を見ながら団子を食べる青春の一場面……時に団子を真正面から取り上げ、時に気になる名脇役として、どの文章にも団子の存在感がたっぷりです。
けれど、それらはみんな短い文章で、1ページに収まる分量でコンパクトに一区切りがつけられているんです。そうそう、ご本の大きさもてのひらに乗る文庫版サイズ。考えてみれば、両手に持たないと食べられないようなお団子ってなかなか出会えなさそうですし、短編をつなげていく構成、装丁と、このテーマはぴったりですね。
文字だけでのどが鳴る? 団子をいかに描写するか
本文ページは基本的に文章だけが掲載されたシンプルなものです。目次やあとがきにはかわいいイラストが添えられていますが、本文はさっぱりと文字のみの潔さ。しかし、文字だけで勝負する方々だけあって、団子の取り上げ方はバリエーション豊富です。「少し平べったく焼きたてで包み紙から香ばしい匂いが漂ってくる」と書かれれば、手に持ったほんわりとした温かさを思いますし、お団子屋さんの新商品開発のショートストーリーには「わんこ三兄弟」ってどんな形かな? と想像してしまいます。「くっきりと焦げ目のついた」「こってりと濃い色のたれ」ときたら、思わずのどが鳴ってしまいそう……そんな団子の姿が、短く軽やかに、ご本の中に多彩に収められています。
日常の安らぎを創作の一風景にして
甘くて、しょっぱくて、やわらかい。食べたことのない遠方のお団子も、文字を追って、頭の中でその姿を描いてみます。そうして思い浮かべると、そのものの形状と相まってか、お団子のある様子はどこか“ほっこり”がそばにいるように思えてきました。
アンソロジーの中には殺人事件の絡む連作サスペンス風の小説もあります。緊迫した傍らにひと皿の団子が……シリアスな場面にお団子の存在があることでぐぐっとギャップが生まれ、その違和感に気をひかれました。
このアンソロジーは東日本と西日本の食文化の違いについて話していたのがきっかけとなったそうです。旅という非日常と、日常と生活に親しんだやすらぎの一品がともに創作に入ることで、また一つの柔らかな風景が生まれていくのを、気軽にしみじみと味わった気分です。
サークル情報
サークル名:庭鳥草子
Twitter:@niwatoring
入手できる場所:BOOTH
次回参加イベント:文学フリマ東京36(2023年5月21日)
連絡先:niwatoring☆yahoo.co.jp(☆→@)
今週の余談
今回のご本は、レビューし終わったらお団子が食べたい! と強く思いました! あんこのお団子にしようか、あまじょっぱいみたらしもいいかな? くるみのお団子も出てきていたし……と、いまとてもわくわくしています。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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