「この木なんの木?」を解決してくれる 同人誌『マンガでわかる 樹木図かんの使い方』:元司書みさきの同人誌レビューノート
図鑑を使った調べ方が分かっちゃいます。
各地から梅雨入りの声が聞こえてきました。雨粒に打たれた緑がいきいきとしてくる季節です。今回は、樹木を見るのが楽しくなりそうな同人誌ですよ。
今回紹介する同人誌
『マンガでわかる 樹木図かんの使い方 樹木れぽーとvol.5』B5 36ページ 表紙カラー・本文白黒
著者:marumo
用語も図鑑の使い方も。マンガでやさしくガイドする葉っぱの見方
こちらのご本は、森林生態学を専門にして森林関係で働く作者さんが、樹木について描く同人誌のシリーズ5冊目で、今回は樹木図鑑が取り上げられています。山や森、公園、庭でも、さまざまなところで見掛ける木々……これは何の木だろう? そう思ったときに、種類を確定させるべく葉っぱに着目し、図鑑を使いながら調べる方法がマンガで描かれています。
しかし、いきなり図鑑を開いてしまうのではなく、まずは前段階として葉っぱの軸の部分は「葉柄(ようへい)」、まんなかを通っているのは「主脈(しゅみゃく)」といった基本用語の紹介にはじまり、枝へのつき方、ふちのぎざぎさなど、どこに注目したらいいのかを説明しており、それから図鑑の使い方へと続いていきます。かわいらしい雰囲気のマンガで順を追って説明されていくので、身構えることなく次のページ、次のページへと進むことができました。
揺らぎのある自然物を特定していく面白さ
ご本の前半で葉っぱ本体を観察するポイントを説明し、後半ではいよいよ図鑑を使っての特定作業がやってきます。形や、葉が裂けるかどうかなどの特徴が分類された検索表を使い、該当する種類を絞るのですが、ここで私はこのマンガの主人公であるマキノちゃんのせりふに手が止まりました。それは図鑑の説明を読んで実物と照らし合わせることについて、マキノちゃんが「説明って全部合わなくていいの?」と投げかけた疑問です。
返された答えは「(図鑑の説明と)全部合わなくてもいい」のですって! なぜなら、実物の樹木は分布地域や環境によって性質や特徴に変化があるし、1つの図鑑の説明だけで決めつけてしまうのではなく、他の図鑑や資料も参考にして検討していくから……とのこと。なるほど、ひとつひとつが微妙に違う自然物を観察・比較するのですものね。決めつけず、“違いがある”のを前提にしつつも種類を絞り込む、そのおおらかさと繊細さ、面白いですねぇ!
調べるのは覚える近道? いま、図鑑で調べるメリット
さて、現代ではボタンを1つ押せば植物を調べてくれるアプリなど便利なものがたくさんありますね。それでも作者さんは今回のご本で「図鑑」をピックアップされています。作中で、手軽にネットで検索する良さも認め、その上で図鑑を使う調査は、“観察・比較を繰り返すことで記憶に残りやすくなる”“それが種類を同定しやすくなる”とマキノちゃんは語りかけられます。
ご本を読んでいると、ちょっと気になったことをしっかり自分の中に積み重ねていくために、信頼できる情報源をもとに自分の手と目でアタックしていくのが、なんとも楽しそうなんです。
実はこのご本は、再販にあたり修正し、本文も全ページフルカラーに変更されたバージョンなのだそうです。先人の積み重ねた調査や研究を大切に利用しながら、今できる取り組みを更新していく……このご本自体も環境に適応してよりよく変わっていく葉っぱに似ているかしら、なんて思えてきましたよ。
サークル情報
サークル名:葉っぱ案内所
Twitter:@cocopoke_no19
Instagram:@cocopoke_no19
Webサイト:https://cocopokeno19.wixsite.com/trees
入手できる場所:BOOTH、Kindle(無料公開中)、近畿圏のイベント(いきもにあ、自然史フェスティバル、関西コミティアなど)
今週の余談
ちょっとした街角で花を見掛けるとうれしくなるたちなのですが、これからは葉っぱも見逃せない! と意気込んでます。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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