レビュー

和裁士が「ポンパドール夫人」のドレスを作って着てみた 18世紀のドレスを現代で再現する面白さ元司書みさきの同人誌レビューノート

材料の入手、作成、そして髪形や着用の仕方まで、豊富な写真付きで解説されています。

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 街にそろそろクリスマスの装飾が施されるようになってきました。毎年のことですが、この時期の風景の変わりように驚くとともに、来るべき年末年始のにぎやかさを想像して少し楽しくもなったり……。今回は、何かと華やかなかっこうをすることの多い時期にも、もしかして参考になるかも? 本格的なドレスアップの同人誌です。

今回紹介する同人誌

『A DAY IN THE LIFE OF THE MARQUISE de POMPADOLE~ポンパドール侯爵夫人の或る1日~』B5 40ページ 表紙、本文カラー

著者:六角堂


優雅な姿、実は……

ロココ調のドレスを現代に。ドレスを自作して再現

 ページを開くと、西洋絵画そのままのような優雅な姿が。こちらは、18世紀に描かれた絵画「ポンパドール夫人」の姿をそのまま再現しようと、自作でドレスを作り上げる様子などを記した同人誌です。

 フランスの画家フランソワ・ブーシェ作の「ポンパドール夫人」は、ロココ様式の優美ないでたちで長椅子に身を預ける夫人の姿が描かれています。ドレスのしわの具合から、織り模様の入った生地がたっぷり使われているのが見て取れ、そこにピンクのリボンや白いレースがこれまた惜しみなく施されています。

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 このいかにもゴージャスな雰囲気をどうやって再現するのか。作者さんは和裁士をされているそうですが、なぜ18世紀のドレスを再現しようと思ったのか「きっかけを完全に忘れてしまいました」とのこと。しかし、惰性でこれを完成させるにはあまりにも大仕事。やることが多いのに、その記録はなんとも軽やかです。縫うこと、作り上げることが本当にお好きでいらっしゃるんだな、と想像しながら、材料の入手、作成、そして髪形や着用の仕方まで、豊富な写真付きで解説されているのを読み進めます。


細かな部分も写真付きで解説

個人で再現を目指す様子をポイントを押さえて紹介

 「ポンパドール夫人再現」は、本や既存の型紙といった資料を参考にして型を作り、ドレスの生地やリボンを選んで購入。靴や扇はどうしたか? 着こなしは? と、やることは多岐にわたっています。そのため、制作にはお裁縫の知識をある程度持っているのが前提になっていますが、その分、取り上げられている部分がいかにも迷いそうなところ、苦労しそうなところが取り上げられています。

 きっと「自分もドレスを再現してみたい」と思ったら参考になるでしょうし、服のひだの取り方や、着用したときのポイントといった自分には直接関係なさそうなことでも、18世紀はこうなっていたんだ! という目線で見ると、楽しい発見になりました。


クラシカルな雰囲気にかわいらしい布地が。現代らしさがのぞくのも楽しい

現代に時代衣装を再現する面白さ

 しかし全てが18世紀そのままというわけにいかず、現代風にアレンジされているところも。例えば、18世紀当時の様式そのままを再現した型紙があっても現代人が使うにはサイズが小さかったり、小物は100円均一のお店を活用したり、さまざまな違いを現代流へと落とし込んでいくんです。

 実はドレスの見えない部分にはポケットが仕込まれているそうなのですが、その部分にご自宅にあった布地を使われた結果、かわいい新幹線柄のポケットが誕生! 豪華なドレスの下に新幹線イラストが潜んでいるなんて、とっても現代的でキュートな隠し味ではないでしょうか。

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 手に入るもので工夫を重ね、古典絵画のどこを取り入れ、どこをアレンジしていくのか。出来上がったドレスは18世紀の様式でありながら、21世紀の1点もの。それはロココ時代の宮廷で着こなされていたドレスと同じように貴重で、豊かなドレスではないでしょうか。あえて現代で18世紀を再現される、その選択の面白さを感じるご本でした。


こちらが完成した様子、麗しい!

サークル情報

サークル名:六角堂

入手先:booth

次回イベント参加予定:コミックマーケット103

今週の余談

 私も手芸が好きなのですが、服作りって、平らな布から立体を作り上げるので、慣れるまではパーツだけ見ても、これがどうやって服になるのがさっぱり謎だったりします。その上、過去の時代の服は現代では見掛けないシルエットになっていたり、謎はいっぱいです。それをちゃんと完成させておられるだけですごいのに、着こなしなどにも気を配り、さらにそれを記録として残すとは、ほんとに大仕事でいらしたと思います。でも、お針子さんであり、宮廷をかっぽする夫人でもあり……とその両方を体験されているのは、現代らしく、とても楽しそうです。

みさき紹介文

 公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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