レビュー

漫画家×絵描きのタッグが生み出す 地球のIFを描いた水生生物たちの擬人化マンガ『水棲のエデン』元司書みさきの同人誌レビューノート

ファンタジーな世界観に引き込まれます。

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 水たまりに氷が張るような、一年でいちばん冷え込む時期になりました。けれど水面下ではいつも小さな動きがあるかも? 今回の同人誌は水生微生物をテーマにしたストーリーマンガ作品です。

今回紹介する同人誌

『水棲のエデン』B5 40ページ 表紙カラー、本文モノクロ

著者:しの原しの、境井ラク


淡い色合いが不思議な世界へといざないます

水の中の進化を考えたファンタジーマンガ

 物語は少女“緑(リョク)”が目を覚ましたところから始まります。登場人物は人間のような姿で二足歩行をするけれど、ふわりと飛べもする不思議な存在。いわくありげな“センター”からやってきた緑は、世の中のことを知らないまっさらなまなざしをしています。街で出会った“陽(ヨウ)”は思わず手を差し伸べ……と、ファンタジーな世界観でふたりの出会いが描かれていきます。


現実とはまた別の分岐先の物語

もしもの発想からのやわらかな世界

 登場するキャラクターの名前や特徴的な髪形、テーマは水生生物であることなどから、もしかしたら読む方によってはぴんと来るかもしれませんが、キャラクターにはモデルがあります。例えば緑はミドリムシ、陽はタイヨウチュウがモチーフとのこと。いずれも水生の微生物が基になっているのですね。けれど描かれる姿はシルエットにモチーフの名残はあれど、しなやかな手足を持った姿ですし、彼女たちが動き回る世界もどうやら現実の私たちとは違う、「もしこの地球が、原初の生命に違う進化の可能性を与えていたら」な世界のようです。

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 その世界の謎は小出しにされ、一冊を読み終えてもまだまだ全容はつかめません。けれど、ふんわりとしたこの不思議な世界と、やわらかく丸みを帯びた絵の魅力、そして緑の初々しさ、陽の心優しさがうかがい知れるふたりの交流がマッチして、ちょうどゆるやかな水の流れに身を任せるような気分でストーリーを追いました。


街をゆく陽が出会うのは……

描きたい世界をマンガにするまで。作り上げるふたりの共同作業

 このご本はおふたりで制作され、ストーリーのイメージや作画の担当と、マンガの骨組みを作るネームなどの担当とに分かれて取り組まれたそうです。もともとはイラストやマンガをそれぞれに描かれていたおふたり。「マンガにしたい」という思いでつながっていったことが、ご本でもあとがきで触れられており、その源流には「どんな世界のどんな話を描くか2人で話し合って決める」という、おふたりのやりとりがあったことが示されます。

 各々に創作して世界を作り上げられる人があえて手を組んで、新しいマンガを作り出してみる……きっとそこには幾多のご苦労もあったことと思います。けれど一冊の本として完成された形で読むことができ、この不思議でやわらかな物語の味わいと重なって、読み終えるともっと先を見て見たくなるような、可能性の明るさを感じるご本でした。


おふたりで作っていくいきさつも知ることができます

サークル情報

サークル名:淡水微生物図館、ハザマノハイイロ

直近のイベント参加予定:COMITIA147(参加確定)、COMITIA148(申し込み予定)

入手先:アリスブックス

連絡先:

【しの原 しの】

メールアドレス:3.cocco☆gmail.com(☆→@)

X:@shino_cocco

Webサイト:https://potofu.me/shinohara-shino

【境井ラク】

メールアドレス:rakusakai☆gmail.com(☆→@)

X:@sa_kaira_ku

Webサイト:https://potofu.me/sakai-raku

今週の余談

 指先が冷たくなる季節ですが、そのぶん暖かい場所のうれしさ倍増ですね。

みさき紹介文

 公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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