江戸時代のすしってどんな感じだったの? 時代小説で“江戸沼”にはまった作者が描く同人誌が興味深い:元司書みさきの同人誌レビューノート
同人誌『江戸の甘辛メモ&すしめも1+2』をご紹介。
3月は旅立ちや出発の季節。お祝いなどで食卓が華やかににぎわうのも楽しいですね。今回はこのメニューはなんだか特別で、うれしい気持ちになる食べ物、おすしにスポットを当てた同人誌です。
今回紹介する同人誌
『江戸の甘辛メモ&すしめも1+2』A5 44ページ 表紙カラー 本文モノクロ
著者:相丸
「好き」から発展。江戸の食べ物メモ
こちらは時代小説を好きになったことから発展して、江戸時代について調べだしたという作者さんが、ご自身で調べたことや解釈を書いた同人誌です。これまで複数の同人誌を出されている中で、今回は「甘辛」と「すし」についてを1冊にまとめられたとのことです。
読み解き、まとめ、ほんわかイラストを重ねて
ご本では、江戸時代を中心に習慣や暮らしのあれこれを書き残した本や、江戸の町の様子を描いた図や浮世絵などを参考に、そこから気になる食べ物をピックアップされています。
ページをめくると、出てくるのはおすしをはじめとして、うなぎや天ぷら……今につながるけれど、現代とはちょっと違うような? と、目の前の食事のご先祖様を知るようなわくわく感に包まれました。作者さんは自らについて「江戸初心者」と書かれており、専門的な見地ではありません。けれどどのように当時の食を推察したかを具体的な資料をもとに、作者さんが感じた驚きや楽しさを共有するような文章と、ポイントを押さえた絵で説明されるのが親しみやすく、時代を経た資料の面白みを感じることができました。
おいしいものをたどる豊かなひととき
昔の資料は国立国会図書館で公開されているデジタルコレクションを利用したり、現代の本は巻末に参考文献リストを載せたりするなど出典を明らかにしています。ざっと200年くらい前の本をひもとき、先人の見解を参考にしながら、おすしの形や種類、人々への広がりをたどる様子は地道です。
そこから食べ物の描写を見逃さない観察眼の細やかさが光り、描き起こされるおすしや天ぷらがかわいく見えてしまうほどのイラストの魅力が加わります。
昔の資料は絵や図であっても、なじみが薄いとなんとなく見過ごしてしまう部分があったりしますが、あたたかく隣を歩いてくれるような内容で、なんだか江戸の町を一緒に案内してもらっているような気分になりました。今ではなじみが薄くなってしまったことを遡るのはけして小難しいことではなく、おいしいものを知っていくって満ち足りた気持ちになるものですね。
今週の余談
おすしか天ぷらか……今度おいしいもの食べに行こう! と意気込んでしまいます。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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