浮世絵に描かれた玩具を再現してみた ある同人誌を読んで感じた“自分で生み出すことの楽しさ”:元司書みさきの同人誌レビューノート
なんとも味わい深い姿。
夏の公共図書館は、自由研究や読書感想文などで子どもさんが来館される機会も多い時期です。宿題はおっくうでしたが、観察をしたり工作をしたりと実は楽しくもあったな、なんて思い出すこの頃。今回は好きな形をご自分で作ることにチャレンジされたご本です。
今回紹介する同人誌
『浮世絵の玩具を再現してみた話』A5 12ページ 表紙、本文カラー
著者:むゆう舎
江戸時代の浮世絵をもとに手作りで再現
丸みのある形のなんだかかわいい姿……これらの置物は江戸時代に描かれた絵がもとになっています。浮世絵に残る玩具の変わったフォルムに心ひかれた作者さんは、ご自身でその姿を再現することにしたそうです。国立国会図書館や東京都立中央図書館などの所蔵する資料がインターネット上で公開されており、そこから「これ!」という姿を決めたら、和紙をのりで張りながら形を作る張り子という方法で6点の玩具を再現。ご本には制作の流れと、モデルにしたもとの絵とともに完成した写真が掲載されています。
観察眼と想像力で導き出す愛嬌と立体感
張り子の玩具たちはざっと200年ほど前、はやり病のまじない絵として描かれたもの。なんともしみじみとかわいらしい姿です。みみずくやうさぎをモチーフにした特徴的なライン、雪だるまのようななだらかな肩、見開かれたまんまるの目が飄々(ひょうひょう)とした雰囲気をにじませてキュート! 魔除けの意味を持つ赤い色も効いてポップさを添えます。こんなにチャーミングな子たちの、200年の時を経ても新鮮さを感じるデザインの力に感嘆するとともに、このかわいらしさを発掘した作者さんの着眼点に驚きます。
実はもとの絵を見てみると、この玩具が絵の中心にいるとは限りません。街中の風景の一つとしてそっと置かれていたり、病気のお見舞いグッズとしてだるまや猫などのいろいろな型と混じって描かれていたりする場合もあります。必ずしも全体像が分からないことすらある1枚の絵から立体物を完成させる、まなざしと想像力のパワーを感じます。
どこに目をつけるか? 自分で生み出す楽しさ
パワーを感じると書きましたが、ご本は淡々とした内容。元絵と完成品と、そっと一言添えられた文章がメインです。しかし、そのシンプルな構成からでも、立体となった玩具たちの愛らしさ、味わい深さがにじみ出ますし、それにひかれてじっと見ていると、立体化するにあたり、あちこちに作者さんの解釈があることが見えてくるんです。
あくまでもとの絵の印象を大切にしながら、色を補ったり、線を省略したりといった細部に変更があるように見受けられます。しかし、それこそが、自分のひかれたものを自分の手で再現する楽しさ、そして作り手がどう解釈したのかを読み手側が受け取る、面白みの部分でもあると思うのです。
200年ほど前のかわいさを自分で見つけ、形作る楽しさ、魅力が伝わってきます。
今週の余談
公開されている図書館資料からこんな楽しみ方が! と、デジタル画像の活用の仕方としてもとても面白いですね。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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