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「映画わんだふるぷりきゅあ!」で色濃く描かれた“ペットと飼い主の関係性”サラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)

「悟と大福の変身」に話題を取られがちですが、本映画は「ペットと人間の関係性」に深く踏み込んだ名作映画なのです。

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「いっしょにおばあちゃんになる」

 さて。

 そんなギャグ満載、ゲームにダンスと楽しい映像がいっぱいで、お子様向けに特化した映画かと思われた「映画わんぷり」ですが、中盤のあるシーンで、この映画で一番「クリティカル」な言葉が、こむぎちゃんより発せられます。

 自分はこのシーンで、虹の橋を渡ってしまったかつての飼い犬のことを思い出し不覚にも泣いてしまいました。

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 こむぎ役の声優・長縄まりあさんもインタビュー動画内で「注目してほしいセリフ」に挙げている(ので言及しても大丈夫だと思われますが)、この場面。

 中盤、閉じ込められたバグの世界から脱出するため一人ぼっちになってしまったこむぎは走ります。

 時が止まったバグの世界。

 「ゲームの中なら歳も取らないし、ずっと一緒にいられる」というムジナの甘い言葉。

 しかし、こむぎはそれを拒否します。

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 「もっともっといろはのことを好きになりたい」

 「こむぎは一緒におばあちゃんになるんだワン」

 こむぎは「時間が止まった世界」でいろはと過ごすことを否定し、「時間が進む世界」で大好きないろはとたくさんの思い出を作り「いっしょにおばあちゃんになる」道を選ぶのです。


「いっしょにおばあちゃんになるんだワン」(画像はYouTubeから)

 このシーンは「映画わんぷり」を象徴する場面だと思います。

 「時が止まった世界」という場面を用意し、その対比として「おばあちゃん」という単語を意図的に使うことにより、そこに内包する「時間の経過」「老い」を示唆しました。

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 さらに「おばあちゃん」という言葉をペット側にしゃべらせることにより、「寿命が異なる人間とペットの関係性」を提示してみせたのです。

 「ずっと一緒にいたい」というあいまいだった言葉は、「いっしょにおばあちゃんになりたい」というぐっと身近で生々しい言葉に変換され、「人間とペットの寿命差」「いつまで一緒にいられるのか」など、より具体性を帯びたイメージとなりました。


本映画ではどうぶつと飼い主の強い絆が描かれます

 正直なところ、自分は「わんぷり」ではこういったペットの寿命に関するようなセンシティブな話題は避けるのだろう、と思っていました。

 しかし、この映画ではそこから逃げずにきちんと向き合いました。

 人間とペットは、どうしたって寿命が違うのは当たり前です。

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 大人であればその辺りも理解しているのだろうけど、子どもはどこまで理解しているのか分かりません。ずっとずっとペットと一緒にいられるものと思っているのかもしれません。

 だからこそ、いま「もっともっと好きになること」「楽しい思い出をたくさん作ること」「いつも一緒にいること」の大切さが浮き彫りとなるのです。


「いつも一緒にいること」の大切さを問いかけます

 自分の家でもかつて犬を飼っていました。その犬は、こむぎと同じ「女の子の捨て犬」でした(隣家が夜逃げして犬だけ残されていたのです)。家で飼うことになり、13年間一緒に暮らしました。一緒にお散歩に行って、一緒のお布団で寝て、楽しい思い出をたくさん作りました。

 最後の方はお散歩にも行けないほど老衰で弱ったその犬に「お前も、もうおばあちゃんだもんなあ……」なんて言ったこと、ぬれた黒い鼻、もう食べることができなくなったササミスティックの箱、壁に掛かったままのリード、お気に入りだったへこんだクッション。

 そんな光景がこむぎの「おばあちゃん」という言葉で一気に引きずり出され、僕はこのシーンで大号泣してしまいました。

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 彼女が虹の橋を渡るとき、幸せだったのかなあ? 幸せと感じてくれていたら良いのだけどなあ……。そんなことを思いながら映画の続きを見ていると、キュアフレンディが「あなたの思いは届いているよ」みたいなことを言ってきて、そこで2度目の号泣です。


著者の飼い犬だったわんこ

犬のこむぎがきちんと主人公

 本映画では、きちんと「犬のこむぎ」が主人公となっています。

 こむぎの行動原理は「いろはのことが大好き」です。自分を助けてくれたいろは。自分を愛してくれるいろは。

 そんないろはのために、犬のこむぎは走ります。「ずっと一緒にいる」ために。そのけなげな行動に心が打たれます。

 「いっしょにおばあちゃんになりたい」というセリフの後に聞く「ずっと一緒にいたい」という言葉はその意味が少し変わって聞こえます。

 「大切なのは言葉じゃなくて気持ち」
 「あなたの思いは通じている」
 「大好きな人と一緒にいたい」

 「わんだふるぷりきゅあ!」で一貫して描かれているこれらの要素が、本映画においてもきちんと描かれているところがすてきなのです。

 「こむぎはずーっといろはと一緒だワン」と無邪気にほほ笑むこむぎ。

 「思いが伝わっていると信じる気持ちが大事」という飼い主のいろは。

 「どうぶつ」を扱う子ども向け映画において、「飼い主といっしょにおばあちゃんになりたい」と願うペットの強い思いを描いたこと

 それだけでもこの映画は「プリキュア映画」として、そして「子ども向け映画」としても本当に素晴らしいと思うのです。

 「ずっといっしょにいる」とはどういうことなのか。

 果たして、こむぎといろはは「いっしょにおばあちゃんになること」ができるのか。

 この先のアニメ本編の展開も楽しみですね。

 「大切な何か」と一緒に過ごしている人に本当におすすめの映画です。

(C)ABC-A・東映アニメーション

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