「愛してる」は文字より声で――「すべて恋愛のため」に作るコーエーテクモゲームスの「乙女ゲーム」

「愛してるというセリフは文字で見るより囁かれた方が嬉しい」から、コーエーテクモゲームスの恋愛ゲーム「ネオロマ」シリーズではボイス(声)が必須。設定もキャラも、何もかもを「恋愛を楽しんでもらうため」に作っている。

» 2011年06月13日 11時49分 公開
[廣渡朝子,ITmedia]
塚口綾子氏

 すべては恋愛のために――コーエーテクモゲームスの恋愛ゲーム「ネオロマンス(ネオロマ)」シリーズに携わる塚口綾子氏は6月11日、乙女ゲームへの取り組みをコンテンツ文化史学会例会での講演で語った。

 ネオロマシリーズは1994年にスタートしたコーエーテクモゲームスの女性向け恋愛ゲームの総称。「アンジェリーク」「遙かなる時空の中で」「金色のコルダ」など複数のシリーズを展開している。同氏は入社から約15年、女性向けゲームの企画を担当し、「遙かなる時空の中で」を立ち上げた。

 同シリーズの一番の売りは恋愛をすること。ゲームシステムも設定も、何もかもが、プレイヤーが恋愛を楽しむために作られると同氏は言う。

購入動機の1位は声優、2位はキャラクター

 重要な要素はボイス(声)、設定、男性キャラクター。ボイスは恋愛に臨場感を与えるため、必ず入れるようにしている。「愛してるというセリフは文字で見るより囁かれた方が嬉しい」と塚口氏。声優ファンの存在もここ数年で大きくなっている。2010年のアンケートでは、声優が購入動機の1位だった(2位がキャラクター)。「この人の声で恋愛がしたい」という理由でゲームをする人が多いようだ。

 世界観、主人公の設定、主人公と恋愛対象の関係、どういう状況で恋愛するのか、全体の雰囲気(洋風・和風、甘い・切ない等々)なども恋愛を楽しめるよう設ける。主人公にセリフがあるかなど(プレイヤーの主人公への)移入度も考える。

 キャラクターは「そのときの自分の欲求を満たす一番重要な相手」なので気を遣って作っているという。Excelで表を作りながらバランス(真面目すぎず、ナンパすぎないといったように)を取り、特にメインのキャラクターは、クールなキャラクターと親分肌なキャラクターというように徹底的に対比させる。

 ちなみに、1回のプレイで全キャラクターを攻略してエンディングに到達するプレイヤーもいるが、塚口氏はできたことがない。「開発者なので(完全攻略の)タイムテーブルが作れるはずなんですけど、なんかうまくいかないんですよ」。プレイヤーが作った攻略ページを見て、こんなに計算しているのかと感心しているという。

 新作を作るときには「好きキャラと(いろいろ)恋愛したい(キャラを続投させる)」「世界観になじみがあるとハマりやすい(世界観を継承する)」「新しい恋愛をしたい、違う恋愛をしたい(新キャラ投入)」「違う題材の恋愛も楽しみたい(別シリーズ)」という「乙女のキモチ」を想定し、どこを狙っていくかを考える。

 例えば、シリーズ1作目のアンジェリークシリーズはキャラクターの人気が高く、好きなキャラクターともっと恋愛したいという要望に応えて、続編でも世界観を継承し、キャラクターを続投させた。一方、2作目の遙かなる時空の中では、続編で世界観はそのままにキャラクターを一新した(キャラクターの特徴は継承)。その理由は、“実際の恋愛は続くけれど、物語としての恋愛をいつまで続けられるだろうか”、“アンジェリークと同じ作り方でいいのか”という不安があったためとしている。アンジェリークと同様にキャラクターを続投させるものという雰囲気が社内にあり、キャラ一新の案を通すのに苦労したという。

 キャラクターや主人公を変えると、前作と比較され、ファンの間で論争が生まれやすいが、制作側は「常に全力投球でいいものを作ろうとするだけ」と同氏。

プラットフォームの変化

 ゲームプラットフォームの変化についても語った。ネオロマシリーズは据え置きゲーム機から始まり、DSやPSPなどの携帯ゲーム機に拡大している。5〜6年前から携帯電話の女性向けコンテンツが増え、その流れがGREEやMobageなどのソーシャルゲームへ続いている。手軽なプラットフォームへシフトしているようだ。ゲーム専用機は女性ユーザーの比率が低いのに対し、ソーシャルゲームの男女比はおおむね50%、携帯電話のソーシャルゲームは女性と親和性があるようだとしている。ネオロマシリーズでも、携帯電話向けの恋愛ゲーム「ラブΦサミット」を提供している。

 最後に、同氏は講演テーマ「少女が楽しむ恋愛ゲーム」を受けて、女性向きゲーム、乙女ゲームとは何か、という問いに答えた。女性向きゲームとはシステムなどには関係なく「女性をターゲットにしたゲーム」。乙女ゲームとは「自分の中の『乙女』を愛するゲーム」。生まれてから死ぬまで、結婚してもおばあちゃんになっても、女性の心には「乙女」がおり、その「乙女」を愛することができるものとして恋愛ゲームを作っていきたいと語った。

 講演後に設けられた討論セッションでは、塚口氏へ来場者から幾つかの質問が寄せられた。「ネオロマシリーズではやおい的二次創作も盛り上がっているが、そういったファン層を意識して制作しているのか」との質問に、塚口氏はそれはないと回答。ヒロインと男性キャラクターの恋愛がテーマであるため、男性キャラ同士に恋愛関係があるように受け取られないように配慮しているという。

 「乙女向けのゲームや漫画を卒業するきっかけは?」との質問には、「回答が難しい」。卒業するというより、割く時間が少なくなるのだろうと語った。コーエーテクモゲームスの乙女ゲームファンの年代は10代後半と20代後半がピーク。20代前半は、社会人になって忙しくなり、ゲームに割ける時間が減るのではないかとしている。特に電源を入れてから少し待たなければならない据え置き機は(忙しい中でプレイするのが)大変だと同氏。近年、乙女ゲームが携帯ゲーム機、携帯電話など手軽なプラットフォームへと移っているのには、そういう背景があるのではないかと語った。

 「女性のみでゲームを作るのは難しいか?」という質問には、ゲーム制作の社会は男性文化だと思っているので、男性ゼロで上層部に企画を通すのは難しいと答えた。女性スタッフだけという状況は想像しづらいとしつつも、やってみたいと述べた。

 今後の乙女ゲームの展開としては、ソーシャルゲームでの機会を見込む。ソーシャルゲームのプレイヤーは女性がほぼ半分で、従来型のゲームをやったことがない人も多く、そこにアプローチできる可能性があるとした。


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