25歳までに読みたいマンガ3選 「ローファイ・アフタースクール」「マフィアとルアー」「ストロボライト」虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ! 第7回(1/2 ページ)

「25歳を過ぎてから読んでも、もう作品世界にのめり込めないだろうなー」という作品を厳選。ところでなぜ25歳かというと――。

» 2013年11月01日 10時00分 公開
[ねとらぼ]
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画像 前回ご紹介した「ひまわりさん」です(C)菅野マナミ

 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞社主のUKです。

 まずは前回の連載で紹介した菅野マナミ先生の「ひまわりさん」なのですが、最新第4集には店舗特典としてポストカードがもらえるキャンペーンが展開されるということを知り、発売翌日に地元のアニメイトに駆け込んだものの、これがまさかの売り切れでした。

 本連載で「ウソだと思って読んでみろ!」などという看板を掲げておきながら、当の本人が「まあ、さほどメジャーな作品でもないし、翌日でも間に合うだろう」という甘い考えを抱いていたのが災いしました。当日完売ということは、それだけ初動が大きかったということなので、紹介者としてはうれしい限りですが、一ファンとしては痛恨の極みです。ぐぬぬ。

「25歳までに読んでおきたいマンガ」――なぜ25歳なのか

 さて、今回はタイトルにもあるように「25歳までに読んでおきたいマンガ」というテーマで3作、厳密には4作をご紹介します。

 「なぜ25歳なのか」と言うと、大学を卒業した後、社会人3年目あたりで学生気分が抜けきること、また大卒でなくともこれくらいの年齢になると自然とモラトリアムを脱する時期に当たるから。逆説的に言えば、今回紹介する3冊はいずれも「25歳を過ぎてから読んでも、もう作品世界にのめり込めないだろうなー」というものを厳選しました。文学でいうところの村上春樹作品みたいなものですかね。

 「そんなこと言われても、もう30代だよ……」と思う人も多そうですが、あくまで精神年齢的な基準での25歳を想定しているので、30歳になってもまだ社会人になりきった気がせず、この日常生活に違和感を覚えるようなら、試しに一読をすることをお勧めします。かく言う社主自身も今回紹介するマンガのほとんどが25歳以降に読んだもので、「これ、25歳までに読んでいればもっと楽しめたお……」→「だから手遅れになる前にみんなに紹介するお!」と思ったことが今回のテーマを思いつくきっかけとなりました。25歳未満の人、また25歳を過ぎていても心が25歳未満な人、ぜひ手に取ってみてください。

ローファイ・アフタースクール(五十嵐藍)

画像 (C)Ran Igarashi

 最初に紹介するのは五十嵐藍先生の短編集「ローファイ・アフタースクール」(マッグガーデン)。五十嵐先生の作品は4コママンガ「鬼灯さん家のアネキ」(KADOKAWA/全4巻)が知られていますが、「鬼灯さん家」を読んだ人なら分かるように、一見単なる「姉萌え」風な作品かと思いきや、4コママンガにしてはちょっと重いのではないかというようなシーンがところどころに交じっていて、当時「何でもっとライトに吹っ切らないのだろう」と疑問に思ったことを覚えています。

 連載終了後もこの作品には何だかもやもやした印象が強く残っていたのですが、その後発売された本作を読んで「ああ、元々こういう作風の人なのか」と納得しました。

 ヤングジャンプ増刊「アオハル」(集英社)に掲載された短編を中心に全8本を収録した本作には、自分の居場所が見つからない若者の姿が低体温気味に描かれています。

 「宿題」「目覚まし時計」「微妙な仲のクラスメイトからのメール」「理数系の教師」など、主人公の少女が嫌いなものを次々と食べてくれる謎の生物が登場する「暗黒さん」、学校に行かずゲーセンで時間をつぶす男子と爆弾作りに興じる少女の交流を描いた「アオ」など、学校という空間になじめない男女と、そんな彼らが抱く「この終わりなき日常を壊したいけれど、何を壊していいのか分からない」という、行き場のない破壊衝動が本作に通底する1つのテーマであることは間違いないでしょう。

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 中でも特に社主おすすめの短編は「神様ごっこ」。主人公は普段何をするわけでもなく、毎日街の片隅で何かを燃やしている名もなき少年。ある日、街外れの丘の上にある廃灯台からチカチカと送られる光が自分に向けたものであることに気づいた彼が、誘われるようにして向かった先にいたのは、望遠鏡から下界を眺める名もなき少女。いつも悲しげな眼をした彼女はまもなくやってくるという世界の終わりを、この灯台の最上階から神様気分で傍観しているのだと話します。居場所のない少年は、何か特別なことをするでもなく、彼女とともにこの灯台から世界の終わりをただ待ちわびるだけの「神様ごっこ」に参加することを決めるのです。

「毎日学校が終わった後……/どこに行ったらいいか分からなくなる/迷子になる」

「こうして静かに何もないところで/嫌なことを燃やして一日を終える/そんな毎日」

「何で自分には何もないんだろう……?/どうしたらいいんだろう?」

 思うに、こういう少年の心情を「青臭い」「中二病」として、苦笑交じりに一蹴しまう人はもう立派な大人なのでしょう。今回「25歳までに読んでおきたい」としてこのマンガを取り上げたのは、歳を取るにつれ、こういった感覚・意識とシンクロできなくなっていくからなのです。社主自身、この少年少女の中にある空虚と終末願望を理解できなくはないものの、さすがに「人生なんて無そのものだ!」などと大声で叫べるほど若くはありません(何だかよく分からない変な人生を送っているなあとは思いますが)。

マフィアとルアー(TAGRO)

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 続いて紹介するのは「モーニング・ツー」(講談社)連載の「変ゼミ」で一躍注目を集めるようになったTAGRO先生の短編集「マフィアとルアー」(星海社文庫)。「ローファイ・アフタースクール」が21世紀的にドライでフラットな厭世観を描いているのに対し、こちらはそれよりもう少し古い、音楽で言うところのフォークソング的な作品が多く、登場人物の性格や言動からは、切れば血がにじみ出てくるような生臭さが感じられます。

 それは当然のことで、収録された短編のいくつかは全くの作り話と言うわけではなく、TAGRO先生本人の体験をもとにした自伝的要素が多分に含まれており、また不躾を承知で言わせてもらうなら、主役として登場する先生の分身たる男たちは基本的にダメ男ばかりなのです(TAGRO先生、ほんとにすみません!)。

 マンガ家志望のヒモ男(「マフィアとルアー」)、躁鬱を抱える自殺願望の女と付き合う大学生(「LIVEWELL」)、取引先でいきなり告白してきた少し病んだ女とバーで会い、その後延々と愚痴ともつかない自虐を繰り返した挙句、相手の女から手のひらにフォークを突き立てられる男(「R.P.E」)など、どこまでが先生の実体験なのかは分かりませんが、まあとにかくどいつもこいつもダメ男なのです。

 本作は2002年発売のスタジオDNA版以降、講談社BOX版、そして星海社文庫版と絶版と復刊を繰り返して出版されていますが、社主は最初のDNA版を何とか25歳までに読むことができました。

 ただ惜しむらくは、これを読んだ当時、社主は女性どころか人との交わりをほとんど断ち、図書館で借りた海外小説や思想書を何か強迫的に追い立てられるようにして毎日延々と読みつづけるだけの半引きこもり生活だったので、男女関係を描いたこれら短編の味わいが全く理解できなかったのです。短編「トラベリングムード」で語られる「傷心旅行」という概念など、なぜそんなことをするのか、これっぽっちも分かりませんでした。恥を忍んで告白すると、この作品の持ち味が実体験を伴って理解できたのは、いよいよ30歳に差し掛かろうとした頃でした。TAGRO先生が20代前半に体験し、いわく「心に蓄えに蓄えた毒のインクと膿のホワイトで原稿を塗り潰してやるつもりで」描いたことの意味を、遅れること10年にしてやっと理解できたわけです。

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