桜が満開のワシントン!! 103年前、日本から贈られた桜に秘められた物語

ポトマック公園に桜が贈られてから約100年、日本の桜が無事に植えられるまでには数々の歴史がありました。

» 2015年04月13日 07時30分 公開
[日本気象協会 tenki.jp(http://www.tenki.jp/)]
Tenki.jp

 アメリカのワシントンで春の風物詩となっている「全米桜祭り」(National Cherry Blossom Festival)。毎年70万人以上の人が訪れるこのお祭り、今年は3月20日から4月12日まで開催されました。メイン会場のポトマック公園にはタイダルベイスンという大きな入り江があり、1912年に日本から贈られた桜の多くが、この岸に植えられています。桜が贈られてから約100年、日本の桜が無事に植えられるまでには数々の歴史がありました。

タイダルベイスンから見るワシントン記念塔。岸辺には満開の桜とそれを楽しむ人々が。

日本の桜に魅せられ、ポトマック川沿いを桜並木にしたいと活動した4人の共通の夢

桜が満開のジェファーソン記念堂。桜が水面に映える。

 桜の植樹を思いついたのは、紀行作家で写真家、ナショナル・ジオグラフィック協会初の女性理事でもある、エリザ・シドモアです。彼女は日本に関する記事や著作を残していますが、1884年(明治17年)に日本を訪れたとき、向島の桜の美しさに魅せられました。翌年、ワシントンに帰国したシドモア女史は、埋め立て工事が始まったばかりの殺風景なポトマック川沿いに日本の桜を植えようと、アメリカ陸軍管理者に植樹の計画を訴えましたが、断られてしまいました。それから24年間、シドモア女史は所轄官庁に働きかけ続けると同時に、「1ドル募金」などを通して、ポトマック川沿いに毎年100本の桜を植樹する活動を始めました。

 この時期、やはり、日本の桜の美しさに魅了されたのが、植物学者のデイビッド・フェアチャイルド。彼は自宅の庭に桜を植樹しようと、1906年、横浜から125本の桜の木を輸入し、東洋の木がアメリカの地に根づくかを試しました。桜は見事に開花し、桜がワシントンに植えるのに適した木であることを確認した博士夫妻は、ワシントン市内に桜を植えようと決意、シドモア女史の桜並木の計画の後押しもしました。

 1909年4月、ウイリアム・タフトが第27代大統領に就任すると、大統領夫人も、ポトマック川周辺の埋め立て地に、優雅な桜を植えたいと考えるようになりました。実はタフト夫人は1903年に家族と日本を訪れ、荒川沿いの桜並木を見て、桜の美しさに心を奪われたといわれています。シドモア女史やフェアチャイルド博士がタフト夫人に桜の植樹を要望したのをきっかけに、夫人も桜の苗木の購入を主導、ポトマック川の公園化の話が急速に進み、桜並木が現実化へと向かいました。

 4人めのキーマンは日本人の科学者、高峰譲吉博士です。彼はニューヨークに在住し、「アドレナリン」を発見した人物です。彼はタフト夫人が桜の植樹を推進していることを知り、当時の東京市長・尾崎行雄にも協力を要望、東京市から2000本の桜の苗木を贈ることを約束したのです。

 こうして、「ワシントンに桜を」という4人の念願がかない、1909年11月、横浜港から2000本の桜を乗せた船がワシントンへと出航しました。ところが、翌1910年1月にワシントンに到着した桜は病害虫に侵され、防疫検査を通過することができず、泣く泣くすべてが焼却処分となってしまいました…。しかし、高峰博士と尾崎市長は桜を贈ることをあきらめませんでした。次に贈るときは病害虫に侵されることがないよう、綿密な計画が立てられ、荒川の桜に接ぎ木などを施して、健康な桜の苗木を育てたのです。

 1912年、12種類の桜の苗木は再び横浜港を出発し、アメリカ西海岸のシアトルに到着、そこから冷蔵貨車で大陸を横断してワシントンへと届けられました。検疫検査の結果ですべての苗木が健康であることが確認され、ようやく植樹できるようになりました。

 桜が届いた翌日の3月27日、植樹の式典が行われ、タフト夫人らが植樹を行いました。この木は今でも根づいていて、これが最初の桜の木であることが銘板に示されています。アメリカ政府はこのお礼としてハナミズキの木を日本へと贈り、日比谷公園などに植えられました。

 翌1913年から1920年にかけて寄贈された桜のうち、約1800本のソメイヨシノがタイダルベイスン周辺に植えられ、残りの11種類と残りのソメイヨシノは東ポトマック公園に植えられました。

「全米桜祭り」のルーツは、桜の木が伐採されるのを反対する集会

住宅街にも桜が植えられている。

 ワシントンで毎年開催される「全米桜祭り」ですが、最初の桜祭りは1935年、市民団体などの主催で行われ、それから毎年開催されるようになりました。

 1938年、ジェファーソン記念館を建てる用地を確保するため桜を伐採するとの計画が持ち上がりました。しかし、女性グループらが反対、人間の鎖で計画予定地を封鎖し、桜が伐採されるのを阻止しました。そしてこの問題は、タイダルベイスンの南の岸に、より多くの桜を植えることを条件に妥協され、さらに多くの桜が植えられるとともに、1940年代ころから桜祭りの催しものが始まりました。

さらに多くの桜を寄贈。桜の手入れ、植え替え、植樹…、ワシントンで大切にされる桜

National City Christian Church。街の中にも桜が。

 1965年、日本はさらに3800本のソメイヨシノを寄贈、この桜はアメリカで育てられ、その多くがワシントン記念塔の周辺に植えられました。

 1986年から1988年の3年間には、1912年に寄贈された最初の桜の回復のために、アメリカの国立公園局に寄付された101,000ドルを費やして、676本の桜の木が植えられました。

 また、1996年、クリントン大統領の訪日を記念して、100本の桜がポトマック川沿いに植樹されました。

 こうして、ポトマック公園周辺には8000本以上の桜が植えられ、今ではワシントンは桜の名所となっています。

 桜の花見は日本だけの風習だと思いがちですが、ワシントンでは100年以上も前から日本の桜が植えられ、今でも市民に大切にされています。最近は日本ブームで、世界各国から日本を訪れる観光客が増えただけでなく、政府の観光呼び込みの効果もあってか、日本で桜の花見をする外国人の数が増えました。でも、日本以外でも何年も前からお花見文化があり、しかも、桜を100年以上も大事に育てていてくれていたとは、ちょっと感動ものですね。

あわせてチェックしたい

Copyright (C) 日本気象協会 All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2410/02/news120.jpg 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  2. /nl/articles/2410/01/news047.jpg プロ警鐘「エアコン、夏が終わったらコレやらないと……」が530万再生 水漏れや“内部のスライム化”を防ぐコツが目からウロコ
  3. /nl/articles/2410/02/news185.jpg “医療ミス”で両頬に大きな火傷 「鏡見るたび涙が止まらない」フォロワー24万人のモデルが悲痛の声 「周りの目が怖い」
  4. /nl/articles/2410/02/news188.jpg 「平成に戻っちゃった」 マクドナルドが「まさかの内容」を投稿→“ネット老人会”のみなさんが思わず二度見
  5. /nl/articles/2410/03/news031.jpg 実家からヤバそうな「母のイチオシ」段ボールが届く→開けてみると…… 胸がじわっとあたたまる裏切りに「母様 最高」「愛がいっぱい詰まってる」
  6. /nl/articles/2410/03/news172.jpg 「驚愕の修理代」の金額明かす お見送り芸人しんいち、約2000万円の愛車が故障で「終わった」「お金がないです」
  7. /nl/articles/2410/02/news013.jpg 【今日の計算】「5−5÷5+5」を計算せよ
  8. /nl/articles/2410/03/news073.jpg 母が高校生娘に作る“モザイク弁当”をのぞくと…… 325万再生の芸術のような美しさとおいしそうな見た目に驚き
  9. /nl/articles/2410/03/news022.jpg 「こんなことになるなんて」 安全靴を購入→10分もしないうちに…… 買った直後に起きた“まさかの事態”に騒然
  10. /nl/articles/1809/23/news019.jpg 炊飯器いっぱいに炊けまくった米…! 「5.5合炊いて」が生んだ悲劇に「全米が泣いた」「笑いすぎてしんどい」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ネットで大絶賛「ブラウニー」にカビ発生 業務スーパーに7万箱出荷…… 運営会社が謝罪
  2. 「全く動けません」清水良太郎がフェスで救急搬送 事故動画で原因が明らかに「独りパイルドライバー」「これは本当に危ない!!」
  3. トラックがあおり運転し車線をふさいで停車…… SNSで拡散の動画、運転手の所属会社が謝罪
  4. 「ヤヴァすぎる!!」黒木啓司、超高級外車の納車を報告 新車価格は5000万円超 2023年にはフェラーリを2台購入
  5. そうはならんやろ “ドクロの絵”を芸術的に描いたら…… “まさかのオチ”に「傑作」の声【海外】
  6. 「ウソだろ?」 ハードオフに3万円で売っていた“衝撃の商品”に思わず二度見 「ヤバいことになってる」
  7. 「結局こういう弁当が一番旨い」 夫が妻に作った弁当に「最強すぎる!」「絶対美味しいビジュアル」
  8. “メンバー全員の契約違反”をライブ後に発表 異例の脱退騒動背景を公式が釈明「繋がり行為などではなく」
  9. 「言われる感覚全く分からない」 宮崎麗果、“第5子抱いた服装”に非難飛び……夫・黒木啓司は「俺が言われてるのかな?」
  10. 大沢たかお、広大プールを独り泳ぐ“バキバキ姿”が絵になり過ぎ 盛り上がる筋肉の上半身に「50代とは思えない」「彫刻みたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. “緑の枝付きどんぐり”をうっかり持ち帰ると、ある日…… とんでもない目にあう前に注意「危ないところだった」
  2. 「しまむら」に行った58歳父→買ってきたTシャツが“まさかのデザイン”で3万いいね! 「同じ年だから気持ちわかる」「欲しい!」
  3. 友人に「100円でもいらない」と酷評されたビーズ作家、再会して言われたのは…… 批判を糧にした作品が「もはや芸術品」と490万再生
  4. 高校3年生で出会った2人が、15年後…… 世界中が感動した姿に「泣いてしまった」「幸せを分けてくださりありがとう」【タイ】
  5. 「ま、まじか!!」 68歳島田紳助、驚きの最新姿 上地雄輔が2ショット公開 「確実に若返ってる」とネット衝撃
  6. 荒れ放題の庭を、3年間ひたすら草刈りし続けたら…… 感動のビフォーアフターに「劇的に変わってる」「素晴らしい」
  7. 食べた桃の種を土に植え、4年育てたら…… 想像を超える成長→果実を大収穫する様子に「感動しました」「素晴らしい記録」
  8. 「天才!」 人気料理研究家による“目玉焼きの作り方”が目からウロコ 今すぐ試したいライフハックに「初めて知りました!」
  9. 「エグいもん売られてた」 ホビーオフに1万1000円で売られていた“まさかの商品”に「めちゃくちゃ欲しい」
  10. 義母「お米を送りました」→思わず二度見な“手紙”に11万いいね 「憧れる」「こういう大人になりたい」と感嘆の声