「戦争をしている国の子どもにも届けてほしい」 ちばてつやが「風のように」に込めた日本人らしさアニメ化記念インタビュー

インタビュアーはアニメ「風のように」のプロデューサーを務めるエクラアニマルの豊永ひとみ。

» 2016年03月20日 10時00分 公開
[大澤小雪ねとらぼ]
漫画家のちばてつや先生 漫画家・ちばてつや先生

 「あしたのジョー」「あした天気になあれ」などで知られる漫画家・ちばてつや先生による短編漫画「風のように」(1969年発表)の劇場用アニメーション化が進んでいる。

 主人公・三平の声を担当するのはベテラン声優の野沢雅子さん。企画・演出は、「巨人の星」でアニメの世界に入り「ルパン三世」「おれは鉄兵」「ドラえもん のび太の恐竜」など数々のヒットアニメの作画・作画監督を務めた本多敏行さん。作画監督はアニメ「暗殺教室」の作画監督で「あしたのジョー」の大ファンでもある野口征恒さんが務める。

 本多さんは子どものころからちば先生の作品が好きだったことから、2003年にちば先生に直談判して「風のように」アニメ化の許諾を得たものの、資金面などで難航し長い間実現に至らなかった。今回「風のように」が、文化庁による映画製作への支援として助成金の対象になったことをきっかけに企画が大きく前進。現在、アニメーション制作費の一部をクラウドファンディングサービス「FUNDIY!」で募っている

 本記事では、「風のように」執筆当時の思いやアニメ化のことなどをちば先生に伺った。インタビュアーはアニメ「風のように」のプロデューサーを務めるアニメ製作会社・エクラアニマルの豊永ひとみさんだ。

「風のように」(ちばてつや) 「風のように」(1969年、週刊少女フレンド25号) (C)ちばてつや

原作あらすじ

日本中、花を求めて旅をする養蜂家一家のトラックが谷底に転落し、少年・三平だけが生き残った。三平は蜂に刺されて倒れていた少女・チヨと出会い、彼女の住む里で暮らすことになる。やがて三平は、村人も諦めて手をつけずにいた荒地を一人で開墾し、突如姿を消す。花園となったその場所へ、三平は必ず帰ってくると信じ、チヨは今日も待っている。


日本中を旅する養蜂家に憧れて

漫画家のちばてつや先生

―― 初めに、漫画「風のように」を描いたきっかけをお聞かせください。

ちば 「風のように」はもう50年近く昔に描いた作品なのですが、当時はちょうど日本が高度成長に差し掛かって、自然が壊されたり、河が汚れたり、山が崩れたり、工場もどんどん建つ、そういう時代だったと思います。日本の美しい自然がどんどん壊れてしまうことに危機感を感じたのがこれを描いたきっかけですね。

 花とかミツバチとか自然のなかに生きる養蜂家たちが、四季それぞれに日本中を旅するわけですね。どちらかというと家の中に閉じこもって屋根裏でずーっと仕事をするのが私の、漫画家の仕事ですから、養蜂家にとても憧れていました。ああやって、花を訪ねて日本中を旅するというのが、なんて素晴らしい仕事なんだろうと思ったし、彼らは自然を守っていますよね。自然を管理しながら自然を守っている、そういう仕事がとてもいいなぁと。「日本の自然が壊れないように」といつも考えていたので。

チヨは理想の妹をイメージ

「風のように」(ちばてつや) (C)ちばてつや

―― 「風のように」のなかに三平という男の子とチヨという女の子が出てきます。ネタばれになってしまうので深くは説明しませんが、両親を失った三平を見てチヨが彼の心の支えになるというストーリー展開です。先生の三平に対する思いをお聞かせください。

ちば 私は男ばかりの4人兄弟で妹がいたらいいなーといつも思って暮らしていたんですけど、チヨはこんな妹がいたらいいなーと思って描きましたね。三平については、私の3人の弟がモデルになっているかな。

「風のように」三平

 三平はきかんぼうですごく優しいところもあるけれど強いところもある。あと、日本人というのはどんな山奥の農村に行っても一人一人どこかに凛としたものを持っているんですね。サムライの心っていうのかな。

 三平も事故で両親を亡くした後、本当はワンワン泣きたいんですよ。つらいっていうのを皆に訴えて「助けてほしい」って言いたいけれど言わない。最初は表情がないですよね。ただただ我慢して何かに耐えて、最初は村の人たちとうまくいかないんだけれど、だんだん本質が分かってきたらこの子はとても良い子だなって気が付いて皆が応援してくれる。そういった人間の本質、日本人の良さ、自然の良さ、そんないろんなことをちりばめて描きたいと思いました。

「風のように」チヨ

群馬の沼田市に不思議な縁

「風のように」(ちばてつや)

―― エクラアニマルが「風のように」にひかれた理由の一つに、この作品には群馬の沼田という町が出てきますが、エクラアニマルの演出家・本多さんは沼田市出身というのがあります。

ちば 本多さんはそうだったんですか。

―― はい、小さいときは煙草の葉っぱを育てたり、そういう素朴な土地柄で育った人間で、今回三平の役を引き受けて下さった野沢さんも小さいときに疎開で沼田で過ごされていたという……。

ちば いろいろな縁がありますね。私は両国にある学校に通っていたんですけれども、友達が2人くらい沼田から来ていたかと。あと名前が非常に日本的じゃないですか。田んぼ、沼、稲を育てるにはとても大事なものでそういう言葉からも引っ掛かって染みこんでいたんだろうと思います。

漫画家のちばてつや先生

―― 「風のように」を作るきっかけですが、漫画家の上田トシコ先生が「フイチンさん」という作品を描かれて、2003年に自主制作でアニメ「フイチンさん」をエクラアニマルが作らせていただきました。

ちば 良い作品でしたね、あれは。

―― その折に渋谷でお披露目のパーティーをしたときに、本多さんがずうずうしくもちば先生に「今度は『風のように』を作らせてください」と言ったんですね。

ちば え、そのときなんですか。

―― はい、かれこれ10年越しの恋がかなったという感じですが、何回か先生に「そのうち、そのうち」と言っていたのが今年ようやく完成に向かいます。

ちば もうそんなにたちますか。

アニメ化を楽しみにしすぎて「早くしないと死んじゃうぞ」

―― 最後に、アニメ「風のように」に応援メッセージをお願いします。

ちば 私は日本という国がとても大好きです。なぜかというと四季がある、あざやかな季節がある、その時その時に本当にきれいな姿を見せる、そこに住んでいる人間たちもいろんな文化を育てて日本独特の文化と精神的な強さと凛々しさ、といろいろなものを守ってきたと思う。

 そういった日本の美しさ、日本の良さ、日本の凛々しさ、風格、品格というものを「風のように」を通じて世界中の人たちに見てもらえたらうれしいなと思うんですよね。日本人ってこういう生活をしているんだ、子どもたちはこういう気持ちで毎日毎日勉強したり遊んだりケンカしたりしているんだ、っていうのをアニメーションを通じて世界中に発信していけたらうれしいなと思います。

 アニメーションはまた漫画とはちょっと違う形になってると思う。動くし、声も出るし、音も出るし、私、シナリオを読みましたけれど本当に子どもたちがイキイキしてる。村の人たちや駐在さんも本当に元気で日本人らしさがとても出ていると思うし。

 この作品ができるのをすごーく、誰よりも一番楽しみにしているのは私だと思うので。ぜひ良い作品を作ってください。私は本当に心から応援しております。

 もう戦争をしている国の子どもたちも届けてほしいの。ああいう子たちにもこういう子どもがいるんだよ、勤勉に頑張っている人たちがいるんだよ、っていうのを「風のように」を通じて伝えてほしいです。本当に私、楽しみにしてるんですよ。応援のメッセージのなかに「早くしないと死んじゃうぞ」って書いたんですけどね。

ちばてつや先生のメッセージ ちば先生のメッセージ

―― ありがとうございます。これからたくさんの人に見ていただく際には、じかにファンの方と触れ合う時間も作りたいと思っておりますので、その際にはよろしくお願いします。

ちば よろしくお願いします。野沢さんが声を引き受けてくれたり、沼田市のご縁があったり、良い縁があるものはうまくいきますよ。

ちばてつや先生と、エクラアニマル・豊永ひとみさん ちばてつや先生と、エクラアニマル・豊永ひとみさん

 アニメ化に寄せて、「はじめの一歩」の漫画家の森川ジョージ先生も応援のメッセージを送っている。

森川ジョージ先生のコメント

3歳のころちばてつやさんの漫画に出会い僕の人生は決定づけられた。以来何度も読み返し、漫画家となった今も勉強のためページをめくる。

大人になって読むと、子どものころの感動は色あせずさらなる感情が上乗せされる。

「子どもに読ませたい」

「子どもと一緒に読みたい」

ぜひ家族で楽しんでいただきたい。全ての年代に刺さる何かがあるはず。

そういえば「風のように」も僕が3歳の頃の作品だ。今何を感じるのか胸が高鳴る。



 「風のように」クラウドファンディングは「FUNDIY!」にて、4月22日まで支援を受け付けている。ちば先生とエクラアニマルの野心作の実現に期待したい。


(C)ちばてつや/エクラアニマル

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2501/06/news042.jpg ハードオフに1650円で売られていた“まさかの掘り出し物”→修理すると…… 見事な復活劇に「相場が上がってしまうw」
  2. /nl/articles/2501/06/news014.jpg 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら……3年半後、目を疑う結果に大反響 2024年に読まれた植物、家庭菜園記事トップ5
  3. /nl/articles/2501/05/news001.jpg 幼稚園の「名札」を社会人が大量購入→その理由は……斜め上のキュートな活用術に大反響 2024年に読まれた面白記事トップ5
  4. /nl/articles/2501/06/news043.jpg 「こんなおばあちゃん憧れ」 80代女性が1週間分の晩ご飯を作り置き “まねしたくなるレシピ”に感嘆「同じものを繰り返していたので助かる」
  5. /nl/articles/2501/06/news090.jpg 【編み物】10年前祖母が教えてくれた編み物、まさかの作品を生み出して…… 二度見必至の完成品に「信じられない」
  6. /nl/articles/2501/05/news006.jpg 目からウロコな“ビニール袋のたたみ方”が100万再生 超便利な“裏技”に「こっちの方が絶対いい」
  7. /nl/articles/2501/05/news033.jpg 「昔はモテた」と話す母→全然信じていない息子だったが…… 当時の“異彩を放つ姿”に驚き「わぁ!」「とても魅力的」【海外】
  8. /nl/articles/2412/27/news137.jpg 男性に「きみの友だちを紹介してよ」と言われてきた女性、40キロの減量に成功し…… 人生激変した姿が120万再生「自信がついてさらに輝いている!」【独】
  9. /nl/articles/2501/06/news046.jpg 北海道の用水路で“巨大な外来魚”を捕獲→さばいてみると…… 中から出てきた“ヤバすぎる物体”に大興奮「ずっと釘付け」
  10. /nl/articles/2501/05/news015.jpg 【編み物】白と黒の毛糸をひたすら編んでいくと…… “あの人気キャラ”の完成に「あなたは魔法使いですか?」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  2. 大谷翔平、妻・真美子さん妊娠公表→エコー写真に“まさかの勘違い” 「デコピン妊娠?」「どう見てもデコピンで草」
  3. 「すごい漢字!」 YouTuberゆたぼん、運転免許証公開 「本名の漢字」に衝撃の声続々
  4. 「麻央さんにそっくり……」 市川團十郎の11歳息子・勸玄の成長ぶりに驚きの声 「大きくなってる!」「すでに貫禄がある」
  5. チェジュ航空社長、日本語で謝罪 犠牲者は170人以上との報道 公式サイトは通常のオレンジからブラックに
  6. 「スマホ入荷しました」 ハードオフ店舗がお知らせ→まさかの正体に大横転 「草しか生えない」
  7. 母「昔は数十人もの男性の誘いを断った」→娘は信じられなかったが…… 当時の“想像を超える姿”が2800万再生「これは驚いた」【海外】
  8. 毛糸で作ったお花を200個つなげると…… “圧巻の防寒アイテム”完成に「なにこれ作りたい……!!」「美しすぎる!」と100万再生【海外】
  9. 「思わず泣きそう」 シャトレーゼの“129円クリスマスケーキ”に衝撃 「すごすぎない!?」「このご時世に……」
  10. 「デコピンを抱き寄せたのはもしかして」 妻・真美子さん第1子妊娠発表で大谷翔平の発言と行動に再注目 「“もう帰る?”は気遣っていたのかも」
先月の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  3. 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
  4. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  5. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  6. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  7. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  8. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  9. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  10. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」