精神科病院を出て漫画家へ 『みちくさ日記』道草晴子を支えた熱きパトス(1/2 ページ)
13歳で「ちばてつや賞」ヤング部門を受賞した作者・道草晴子さんが、14歳で精神科病院に入院し、その後30歳を迎えるまでを自伝的に描いた漫画『みちくさ日記』。精神科病院という慣れない環境で過ごす中で、道草さんを漫画家たらしめたものとは一体何だったのか。
リイド社のWebコミックサイト「トーチweb」で2014年10月に連載が始まり、今年6月に最終回を迎えた漫画『みちくさ日記』。
作者は、かつて13歳の若さで「ちばてつや賞」を受賞した道草晴子(みちくさはるこ)さん。しかし、みちくさ日記が注目された理由はそこではない。道草さんは受賞後、統合失調症と診断され、精神科病院で20歳までを過ごす。「みちくさ日記」は、道草さんが入院した14歳から、この漫画を描き始めることになる30歳までを描いた自伝的作品だ。
線は荒く、フキダシも写植されておらず、シーンによっては背景も描かれていない。一見すると読みづらいと感じる作品かもしれない。しかし、余分なものがそぎ落とされた内容だからこそ、道草さんの叫びにも似たメッセージが胸を打つ。
ここでは、道草さんと、道草さんがコミティアの出張編集部に持ち込んだ原稿を受け取り、その後同作の担当編集を務めた中川さんに聞いた。
入院している方にも読んで笑ってもらいたい
―― 2014年5月のコミティアで持ち込みをしてデビューされたんですよね。
道草 そうですね。夢中で描いた漫画を友達に見せたら「面白いよ」って言ってくれて、その勢いで。トーチwebは「何か伝えたいものがある漫画」を募集していたので、それで。
―― 「みちくさ日記」はストーリー漫画でありながら、4コママンガの体裁を採っていますけど、これはなぜですか?
道草 コマを割って描くよりも、4コマの形の方が、気持ちをまっすぐ伝えられる気がしたので。
―― ちばてつや賞ヤング部門に応募したときも、4コマの形だったんですか?
道草 ちばてつや賞のときは1ページ完結の作品を32枚ぐらい描いて応募しました。
―― 「みちくさ日記」は、ジャンルとしては自伝ですが、恋愛や病気のことなど、かなりプライベートな部分まで描いていますよね。
道草 自分のことを描くのは恥ずかしかったですし、描くのがつらくて途中でやめたいと思ったこともありました。
中川 つらかった時期のことを描くときは、見ていてキツそうでした。
道草 そうですね。思い出すのもつらくて。そういうシーンは絵が他の部分と感じが違っていたりします。
―― ところどころ着色されていないのはそういうことなんですね。そうまでして描いたのには、どんな理由があったのでしょう。
道草 精神科病院や作業所(編注:共同作業所とも。ここでは、精神障害を患っている人が、社会で働くための支援をする施設)で過ごしている間、ずっともやもやしたものがあって、それを伝えられたらと。
あと、同じように入院している方に読んでもらいたいなって。鬱(うつ)なときって本の内容が頭に入ってこないらしくて、でも漫画なら読めるんじゃないかなと。生きるのがつらいと落ち込んでいる人が、読んで笑ってくれるようなものが描きたかったんです。
R・D・レインの『好き? 好き? 大好き?』に影響された思春期
―― 14歳で統合失調症だと言われ、その後29歳のときの再検査で発達障害と診断されます。専門の医師でもこの辺りの判断は難しいのでしょうか。
道草 精神疾患の分類は、たぶん先生でも判断が難しいと思います。統合失調症と言われてもずっとしっくりきてなかったんですよね。幻覚や幻聴もなかったので。発達障害だと分かったことでむしろ、自分の苦手なことや得意なことを知ることができありがたかったです。
14歳当時は、R・D・レインという精神科医の書いた『好き? 好き? 大好き?(DO YOU LOVE ME?)』という本を毎日繰り返し読んでいたんですけど、思春期ということもあって、影響を受けて本に書かれている内容をまねしちゃったりして、それがもしかしたら誤診の原因になっちゃったのかもしれない……(笑)。
―― ちなみに、レインのように影響を受けた漫画家や作家はいますか?
道草 ちばてつや先生、特に『あしたのジョー』。あとは高野文子さんや永野のりこさん、つげ義春さん。文字ものも好きですけど、入院中はぜんぜん読めなかったです。集中できなくて。
―― ちばてつや賞は『週刊ヤングマガジン』などが行っている賞ですけど、中学生でヤンマガって早いですよね。
道草 小学校高学年のころは『りぼん』とか読んでいたんですけど、あまり感情移入できなくて。そのあと『アフタヌーン』とか読み始めて、『ドラゴンヘッド』(望月峯太郎)とか『食べれません』(風間やんわり)とか、あとタイム涼介さんの漫画とか読んでました。
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