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» 2016年10月12日 15時36分 公開

あなたの本好き、病気じゃないですか?

SFに一生を捧げたSFバカ、SF作家・山本弘が考える。今回のテーマは「本を捨てられない人は冗談抜きで病気かも?」。

[シミルボン]

捨てられない病

 僕もそうですが、本好きの人間の中には、本を大量に溜めこんでいる人がよくいます。

 本棚が端から端まで一杯になり、やむなく本の前に別の本を並べる。それでも収まりきらなくて、本が床に積み上がる……そういう人、多いんじゃないですか?

 そうした人たちは、本の多さを指摘されると自嘲して「いやあ、これはもうビョーキですね」と言って笑ったりします。

 でも、真剣に考えてください。冗談抜きで、本当にそれは病気かもしれないんですよ。

 本にせよ、服やフィギュアやプラモデルやDVDにせよ、他の人よりたくさん持っているだけなら問題じゃありません。でも、あまりにも多くなりすぎ、生活を極端に圧迫して、自分や周囲の人に苦痛を及ぼすようになっている。それでもなおかつ、捨てることができない──そんな症状は、強迫性ホーディング(compulsive hoarding)とかホーディング障害(hoarding disorder)とか呼ばれます。そして、そうした状況に苦しんでいる人をホーダー(hoarder)と言います。

 そうしたホーダーたちの世界を紹介しているのが、ランディ・O・フロスト(心理学教授)とゲイル・スティケティー(社会福祉学教授)の共著「ホーダー 捨てられない・片づけられない病」(日経ナショナルジオグラフィック社)という本。著者たちは長年、強迫性ホーディングを研究し、その治療や対応マニュアルの作成に尽力してきた人たちです。

ホーダー 捨てられない・片づけられない病

コリヤー兄弟の壮絶な死

 この本で最初に紹介されているのが、1947年にニューヨークで起きた「コリヤー屋敷」事件。住宅街にあった3階建て、部屋数12の邸宅に「死体がある」という通報があり、警察が調査に乗り出しました。邸内には大量の新聞紙が積み上がり、全ての出入口と窓が内側からブロックされていました。巡査がどうにか2階の窓から侵入したところ、新聞や本や雑誌、缶、傘、箱、古いストーブ、車の部品、古い乳母車などのガラクタが、床から天井まで積み上がっていました。おまけに侵入者を防ぐため、あちこちにブービートラップまで仕掛けられていました。

 ある部屋の中央のわずかに開いた空間に、この邸宅の住人、65歳のホーマー・コリヤーの遺体がありました。彼は盲目の上に身体がまひしていて、弟のラングリー・コリヤーに世話されていました。彼らの姿が何日も見えないので、周辺の住民が「死んでいるのでは」と思ったようです。ホーマーの遺体は運び出されましたが、警察の捜索にもかかわらず、ラングリーの姿はどこにも見当たりませんでした。

 ラングリーが発見されたのは、それから3週間後。ガラクタの撤去作業中、なんとホーマーの遺体があった場所から3メートルも離れていない場所で死んでいるのが見つかったのです。大量のガラクタに埋まっていたので、警察も作業員も気付かなかったんですね。どうやらラングリーは自分で仕掛けたブービートラップに引っ掛かって死に、世話をする者がいなくなったホーマーもしばらくして死んだようです。

 最終的にこの邸宅から運び出されたガラクタは170トン以上。中にはグランドピアノ14台とT型フォード1台が含まれていました。

「いつか読む」と言ってるけれど……

 「コリヤー屋敷」事件は悲劇的な結末を迎えた例ですが、こうしたホーディングは珍しい例ではありません。現代日本でもよく「ゴミ屋敷」が話題になります。ひたすら何かを溜めこみ、捨てられない人がいるのです。でも、彼らの意思を無視してガラクタを処分するのは危険です。絶望して自殺する人もいるそうです。

 ホーダーが集めているものは、古書や希少なアイテムなど、確かに価値がありそうなものもあります。しかし大半は、他人の目から見て何の価値もない代物です。しかし、ホーダーにはそれが価値があるように感じられます。だから捨てられない。

 この本に出てくるアイリーンという女性は、電話番号を書き付けた1枚の紙切れを捨てられません。彼女はそれが誰の電話番号か覚えていないのですが、自分が書いた以上、きっと重要な番号のはずだと信じているのです。そして、忘れないように目立つところに積み重ねておきます。でも当然、その上からどんどん他の紙切れが積み重なるので、たちまち見えなくなります。そうしてどんなささいなものでも捨てられないため、彼女の家は膨大なガラクタの山に埋もれています。

 ホーダーの心理の1つとして、「いつか必要になる」という信念があります。例えばガラクタを集めている人は、それらを組み合わせて何かを作ろうと思っているのです。だから捨てられない。でも、そう思っているだけで、いつまでたっても作ろうとはしません。積み上げ続けているだけです。

 この心理、僕も分かるんですよね。買ったけど作ってないプラモデルがけっこうあるんですよ。いつか組み立てて、きれいに色を塗ってやろうと思うんですが……その「いつか」っていつでしょうね。多分、一生、作らないと思います。

 あと、「いつか読もう」と思って、まだ読んでない本も、結構あったりします──あなたもそうじゃないですか?

「いつか読もう」と思って、まだ読んでない本、あるんじゃないですか?

「出てこないから買い直します」

 僕の知り合いにも何人もホーダーがいます。中でも典型的なのは、超常現象研究家の故・志水一夫氏です。

 以前から、「志水さんの家にはかなりの本があるらしい」とうわさされていました。志水氏が亡くなられた後、遺品の整理を手伝うために彼の知人たちが志水家を訪れ、ご家族の許可を得て内部を撮影しました。あとで見せてもらったその映像は、想像を絶するすさまじいものでした。

 部屋の床だけではなく、廊下や階段まで本が積み上がっているんです。移動するのも困難な状況。一体何万冊あるのか見当もつきません。当然、買ったけれども読んでいなかった本もたくさんあるでしょう。

 生前の志水氏の言動で思い出すのは、ある本が資料として必要になったときに、「その本は確かに持ってるんだけど、出てこないので、新たに買い直します」という発言が何度かあったことです。つまり本というのは、ある程度の量までなら確かに資料として役立つけれど、きちんと整理されずに積み上げられていると、多すぎて探し出せなくなり、もはや資料としての意味がなくなるということです。本末転倒ですね。

 実はこの「確かに持ってるんだけど出てこないので買い直す」という行為、僕も2度ほどやらかしてまして(苦笑)。いや、これはまずいです。なんとかしないと。

「猫がかわいそう」と言いつつ猫虐待

 この「ホーダー」の中には、本やガラクタ以外に、さまざまなタイプのホーディングの実例が紹介されています。

 例えば、毎日毎日テレビ番組を大量に欠かさず録画しなくてはいけないと思っている人。毎週録画していたバラエティー番組の録画に失敗すると、ものすごく落ちこみます。そんなの1回ぐらい欠けてもどうってことないし、どのみち、録画して保存しておいても、量が多すぎて、全て観直している時間なんかないんですが。

 あるいは動物ホーダー。捨て猫などを次々に拾ってきて世話してしまう人ですね。これもよく耳にします。一見すると動物愛護のように見えます。

 でも、一軒の家でいっぺんに何十匹もの猫を飼うようになったら、もうダメです。餌代だけで大変な額になって、経済的に破綻するのはもちろん、家の中に大量の猫の糞が散乱するので衛生状態は悪化、猫はかえって病気になって死んでしまいます。実際、猫を大量に飼っている人が、動物虐待で訴えられることもよくあるそうです。これも本末転倒。

ホーディングは命にかかわる

 ホーダー全般にいえるのは、最初は何かを集めて溜めこむことに喜びを覚えているけれども、それが次第に自分の首を絞めていったり、他人を傷つけたりしていることに無頓着だということです。たとえ気がついていてもやめられなくて、苦しみながらも続けてしまう。これはアルコール依存症に近いように思います。

 猫を集めて虐待してしまうのもひどいですが、本や新聞を積み上げる行為も、限界を超えると生命にかかわります。紙を集めるタイプのホーダーの場合、台所にまで紙を積み上げてしまい、紙のすぐ横でガスレンジを使っているという例もあります。これはかなり恐ろしい状況です。紙の山に燃え移ったら助かりません。

 このほかにも、「ホーダー」の中で紹介されている事例は、かなり切実な上、心当たりがあるものが多いです。特にコレクション癖のある人にはぜひ読んでいただきたいと思います。身につまされるんじゃないでしょうか。

 とは言うものの、この本に載っている事例を見て、「俺はまだまだ大丈夫だ」と安心してしまう人が出るんじゃないかと心配にもなりますけどね(笑)。

断捨離してみたけれど……

 ちなみに僕は、今年(2016年)の前半、思い切って本を何百冊も古書店に売りました。このままだと、この本に出てくるホーダーみたいになってしまいそうだったからです。

 その際、大変だったのは、「この本はいつか必要になるかもしれないぞ」という心の声と戦うことでした。いや、冷静に考えたら、「アインシュタインの相対性理論は間違っていた」なんて本は、まず読み返すことはなさそうなんですけどね……。

 幸い、現代はAmazonなどで古書が結構簡単に手に入ります。そこで「古書通販で手に入るから、たとえ必要になっても買い戻せる本」という基準で処分することにしました。200から300冊は売ったと思います。仮に100冊処分したうちの1冊が再び必要になって買い戻す羽目になったとしても、売った価格の100倍までなら元は取れますから。

 ついでに、おもちゃ、プラモデル、ビデオ、CD、DVDなども、かなり〈まんだらけ〉に売りました。20年以上前に中古で買って、一度も見ていないビデオなんて、今後さらに何十年たっても見ないでしょうし。あと、箱に入ったまま開けてもいないアクション・フィギュアも幾つもあったのには、われながらあきれました。どうも、手に入れただけで満足してしまって、遊ばなかったようです。だめじゃん、自分。

 売り物にならないものもありました。説明書をなくしちゃったトランスフォーマーとか。ユニクロンやドラゴンメガトロンなんて、変形のさせかた忘れちゃってますし(笑)。説明書なしじゃ遊べません。

 まあ、そうやって段ボール何箱も処分したんですが……。

 困ったことに、ぜんぜん減ったように見えないんですよね(苦笑)。まだ本やガラクタがあふれかえってます。うーん、あと何回か断捨離しなくちゃだめか……。

断捨離

山本弘

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