ニュース
» 2016年10月24日 13時00分 公開

浦沢直樹、「バンド・デシネ」の著名ベルギー人作家と対談 デビュー当時の原稿料もぼそり

手塚作品をマネした子ども時代から、カラーページに苦労したデビュー後の話まで。

[宮澤諒,ねとらぼ]

 日本のマンガやアニメに多大な影響を与えてきた人物といえば、手塚治虫さんや宮崎駿監督、大友克洋さんといった名前を思い浮かべる人は少なくないだろう。彼らは偉大なクリエイターであることとは別に、ある共通点を持っている。それは少なからず「バンド・デシネ」に影響を受けているということだ。

 バンド・デシネ(以下、BD)とは、フランスやベルギーといったフランス語圏のマンガを表す言葉で、バンドは「帯」、デシネは「描かれた」という意味を持つ。スイスの教育学者だったロドルフ・テプフェールさんの作品がその始まりとされており、実に180年以上の歴史を持つ。特に、「アンカル」シリーズや「ブルーベリー」シリーズなどで知られるメビウスさんの日本での影響は大きく、手塚さんもその特徴的な線を「メビウス線」と呼び、漫画を描くのに用いていたという。

アンカル 「アンカル」(Amazon.co.jpより)
アルザック 宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」は「アルザック」の影響を受けたと言われる(Amazon.co.jpより)


 そんなBDの作家と日本の漫画家の対談が、10月12日に東京の某所で開催された。熱心なBDファンが詰め寄せる中、ベルギーからはフランス語版だけでも1000万部超の大ヒットを飛ばしている「ラルゴ・ウィンチ」シリーズ(原作:ジャン・ヴァン・アム|作画:フィリップ・フランク)のフィリップ・フランクさんが、日本からは「MASTERキートン」「20世紀少年」などの作者で大のBD好きとして知られる浦沢直樹さんが登壇。マンガの描き方からBDと日本のマンガの違い、さらにはデビュー当時の原稿料に至るまで、興味深い話が飛び出した。

浦沢直樹さんとフィリップ・フランクさん 浦沢直樹さん(写真右)の話に耳を傾けるフィリップ・フランクさん(写真左)

最初から漫画家を目指していたわけではなかった

浦沢直樹さん 浦沢直樹さん

 幼いころ、共働きだった両親から「鉄腕アトム」と「ジャングル大帝」を与えられたという浦沢さん。5歳で手塚作品のキャラクターを描くようになり、7歳になるころにはコマ割りをしてノート1冊をマンガで埋めるように。そして中学生になると、兄から薦められて「火の鳥」を読み「こんな素晴らしい仕事をする人がこの世にいるんだ」と心を打たれた。

 しかし、それで漫画家を志したかというとそうではなく、学生時代は陸上部やバンドに励み、大学も美術系とは縁のない経済学部に進学。デビューのきっかけは就職活動で訪れた出版社だった。当時、描き溜めていた原稿を持って訪問しており、たまたま編集者に見せたところ新人賞への応募が決まり、そのまま受賞。「1年間ぐらいやって芽が出なかったらやめよう」と思ってはじめたが、気付くと33年たっていたと自嘲気味に語る。

フィリップ・フランクさん フィリップ・フランクさん

 一方のフィリップさんも、もともと生物学に興味を抱いていたが、いつの間にかBD作家としての道を歩むことに。作家になること自体は、両親が絵を描いていたこともあって反対されなかったが、母親からは「職業にするならその第1人者になりなさい。そうじゃないとひどいことになるよ」と忠告されたという。浦沢さんもその言葉に「僕も子どものころから、漫画家になってもロクなことがないことは分かっていた」と同調した。

 いまでこそ、一流の漫画家となったフィリップさんだが、デビュー当時は原稿がボツになることも少なくなかった。しかし、出版社に自身の絵を拒否されることで、(がっかりはするものの)もっといいものを作ろうというエネルギーが生まれてくるのだという。「デザインというのは空気のなかにある酸素のようなものであると言っています。それが息苦しくなったらやめたほうがいい」というフィリップさんの言葉に、会場内ではうなずく人も少なくなかった。

BDと日本のマンガの違い

 浦沢さんは、「真夏の裏通りから見える窓の中で2人の男が話している」というシーンを例にあげ、BDと日本のマンガの違いを「コマ割り。端的にいえば、そこのリズムの違い」と説明した。そこから物語の結末まで、どれだけのシーンを描くのか、そこに違いがあるという。

「MASTERキートン」第1巻完全版 「MASTERキートン」第1巻完全版(Amazon.co.jpより)

 フィリップさんによると、日本のマンガの方が1ページに割かれるコマの数が平均して少ないという。それは、BDが価格を抑えるためなどの経済的な理由から、47ページというフォーマットに落とし込んでいるからであり、それに合わせると1ページに17、18コマほどコマ割りすることもあるという。ページが少ない分、自ずと描かれるシーンも限定されてくる(もちろんこのフォーマットに則らない作品も多数ある)。

 また、執筆ペースにも大きな違いがあり、フィリップさんが月産10ページなのに対し、浦沢さんは、「MASTERキートン」連載時に、「YAWARA!」や「Happy!」の連載も重なり、130ページを超えていたと回答。もちろん、これは日本の漫画家の平均を大きく上回る数字であり、BDにはカラーの作品が多いなど作業内容は大きく異なるが、文字通り桁違いのページ数に会場がざわつく結果となった。

 そんな浦沢さんだが、カラーページが苦手だったという意外なエピソードも披露した。子どものころからマンガはモノクロで描いており、色付けには関心がなかったそうで、デビュー後にカラーページを依頼され途方に暮れたこともあったという。いまでこそ浦沢カラーとも言うべき独特の色付けで知られるが、その域に至るまでには、BDの存在が大きかったという。特に、ベルギーの代表的なBDである「タンタンの冒険」に使われる中間色や、メビウス作品の独特な色使いなど、BDの作家から色の統一感を学んだと打ち明けた。

浦沢直樹さんとフィリップ・フランクさん 同時通訳を介しつつ、終始和やかに対談は進行した

話はデビュー当時の原稿料にまで

 トークショー後の質問コーナーでは、マンガ制作から一歩踏み込んだ、お金に関する生々しい話も飛び出した。例えば、最近日本でよく話題となるマンガの実写化について。自身も「20世紀少年」で実写映画化を経験している浦沢さんは、「あれはてっとり早いんです」と話す。パイロット版の制作費に比べ、マンガはペンと白い紙だけだから土台が安いと説明した上で、「映画監督は何十億とかけてお客さんを喜ばせるものを作らなくちゃいけない。僕はあんな仕事はまっぴらごめんですね」とぶっちゃけ、会場の笑いを誘った。

 さらに、原稿料はいくらかという直球な質問も。フィリップさんによると、税抜き価格のパーセンテージ分がもらえるそうで、その割合は作家の地位や名声によって変わってくるという。若いころは8〜10%ほどで、満足するほどの収入はなかったという。ページごとに支払われる出来高制もあったそうだが、いまではあまりそういうことはないとのこと。ちなみに浦沢さんは、1枚5000円からスタートしたと明かした。

 最後に、日本ではBDがあまり普及していない現状について聞かれると、浦沢さんは「いつしか、僕が好きだったBDの作風ではなく日本でも見かける作風のものが増えた」と回答。BDらしさを大事にしてほしい、「メビウスの時代よもう一度」と訴えた。

電子版で読める

電子書店「eBookJapan」では、ジャン・ヴァン・アムさん原作、フィリップ・フランクさん作画、原正人さん翻訳による「ラルゴ・ウィンチ」の日本語版を配信中。「跡継ぎ」「Wグループ」の2作品を各500円(税別)で販売している。


「ラルゴ・ウィンチ」(1)跡継ぎ 「ラルゴ・ウィンチ」(1)跡継ぎ
「ラルゴ・ウィンチ」(2)Wグループ 「ラルゴ・ウィンチ」(2)Wグループ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10

  1. /nl/articles/2112/01/news020.jpg 「キレッキレ!」「何回見ても笑えるwww」 白柴犬の激しすぎる後ろ足の動きに国内外から大反響
  2. /nl/articles/2111/30/news172.jpg 46歳と18歳の内田有紀、“2人そろって”『STORY』表紙へ 「自分の妹と撮影しているみたい」
  3. /nl/articles/2112/01/news118.jpg 渡辺美奈代、公開した自宅リビングが広すぎて“お姫様のお部屋” ゴージャスな部屋へファン「センスまで抜群」
  4. /nl/articles/2112/01/news111.jpg ゴマキの弟・後藤祐樹、服役中に死去した“母との約束” 「1000万円企画」朝倉未来の計らいで首のタトゥー除去
  5. /nl/articles/2112/01/news155.jpg 高嶋ちさ子、ダウン症の姉とさだまさしのコンサートへ 笑顔あふれる3ショットに「姉妹で素敵」「癒やされました」の声
  6. /nl/articles/2112/01/news182.jpg アイドルが「虚偽の発言」「繋がり行為」など複数の違反行為 ファンのため“卒業”を提案するもブロック→解雇へ
  7. /nl/articles/2112/01/news013.jpg 「校長先生の鑑」「神やん」 激長でおなじみの“校長先生の話”を描いた4コマ漫画が超展開で話題に
  8. /nl/articles/2111/30/news033.jpg パパに叱られる柴犬を黒猫がフォロー→柴犬「あとよろしく!」黒猫「えっ!?」 置いて行かれてあぜんとする表情がかわいい
  9. /nl/articles/2112/01/news095.jpg SPEED島袋寛子、18歳での悲劇を告白 鼻が約20年後も変形したままで「整形しようかと」
  10. /nl/articles/2111/30/news073.jpg 「犬の散歩みたい」――批判的な声にハーネスの使用をためらう親のために 現役ママが開発したリュック一体型「ワーネス」誕生秘話を聞いた

先月の総合アクセスTOP10

  1. 池田エライザ、 “お腹が出ている”体形を指摘する声へ「気にしていません」 1年前には体重58キロ公表も
  2. 「前歯を取られ歯茎を削られ」 広田レオナ、19歳デビュー作で“整形手術”を強制された恐怖体験
  3. ゴマキの弟・後藤祐樹、朝倉未来とのストリートファイトで45秒負け 左目腫らした姿を自ら公開し「もっと立って闘いたかった」
  4. 清原和博の元妻・亜希、16歳次男のレアショットを公開し反響 「スタイル抜群」「さすがモデルの遺伝子」
  5. 小林麻耶、おいっ子・めいっ子とのハロウィーン3ショットに反響 元気な姿に安堵の声が続々「幸せそうでなにより!」
  6. カエルに普段の50倍のエサをあげた結果…… 100点満点のリアクションに「想像以上で笑った」「癒やされました」
  7. 「左手は…どこ?」「片腕が消えてる」 中川翔子、謎が深まる“心霊疑惑”ショットにファン騒然
  8. 「家ではまともに歩けてない」 広田レオナ、左股関節に原因不明の“炎症” 夫から「凄い老けたと言われてます」
  9. 小林麻耶、髪ばっさりショートボブに「とても軽いです!」 ファンも反応「似合います」「気分も変わりますよね!」
  10. キンタロー。浅田舞の社交ダンス挑戦を受け体格差に驚がく 「手足が長い!!」「神様のイタズラがすぎるぞ!!」