「半分くらいは咲が勝手に話を作ってくれた」―― ついに完結&2巻発売記念「つまさきおとしと私」ツナミノユウ先生インタビュー
「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第74回はツナミノユウ先生にインタビュー。「つまわた」連載お疲れ様でした!
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
タイトルそのままに「ウソだと思って読んでみろ!」と、社主おすすめのマンガを隔週で紹介してきた本連載も、この8月で4年目に突入しました。いつもご愛読いただきありがとうございます。
さて、この夏も毎年恒例のマンガ家さんインタビューの機会を得ることができました。4回目となる今回お話をうかがったのは、ここ「ねとらぼ」にて2014年5月から2年間、全108話にわたってWebマンガ「つまさきおとしと私」を週刊連載されていたツナミノユウ先生です。
本作「つまわた」は、余った靴のつま先を切る妖怪・つまさきおとし(とし君)と、そのとし君にほれ込み、一線を越えた破壊的な愛情で彼を追いかける中学生・長妻咲の2人を中心に、人がついやってしまうささいな愚かさや気まずさにツッコミを入れるラブコメ(?)作品。ネット上ではTwitterでのつぶやきが累計2万リツイートを超えるなど、物語が終盤に近づくにつれてぐんぐんと盛り上がったマンガです。
社主も連載当初からずっと楽しみに、時にはドキドキ交じりに更新を待っていましたが、このたび無事「つまわた」完結を迎えたツナミノ先生に、一読者としてずっと気になっていたことなどをうかがいながら、「つまさきおとしと私と2年間」を振り返っていただきました。
半分くらいは咲が勝手に話を作ってくれた
―― まずは2年間の連載おつかれさまでした! 今回「ITAN×ねとらぼ」というWebでの週刊連載でしたが、終えてみていかがですか。
2008年のデビュー作「シュメール星人」(全3巻/集英社)の時から、なぜか雑誌とWebの同時連載をやっていたので、「いつも通りやるか」って感じだったんですけど、「ねとらぼ」は情報サイトなので、読者層も違って反応も直接返って来るし、やりごたえがあって楽しかったですね。読まれているっていう実感が全然違って、こんなにすごくたくさん反応がもらえたのは初めてでした。
―― 回を追うごとに勢いを増す咲ちゃんのインパクトがものすごかったです。
咲はシチュエーションだけ与えておけば一人で勝手に暴れてくれる、手のかからないよくできた子って感じでしたね。半分くらいこの子が勝手に話を作ってくれたなっていう。
―― そうやってキャラクターが勝手に動き出すっていうのは、割とあることなんですか?
正直あまりないですね。なかなか稀有(けう)な経験なんじゃないかと。咲はものすごく特別な子だったので、手放すには惜しいです。
―― どのあたりから、咲ちゃんが勝手に動き出したんですか?
第4話で咲がとしを連れて帰ろうとしたときの「お姉ちゃんと手つなぐ?」のせりふなんかは、この子が勝手にしゃべり出した感じですね。
―― ということは、ずいぶん早くから咲ちゃんというキャラが出来上がってたんですね。
キャラクターって言うより、知り合いみたいになるんですよ。知り合いってコントロールできないじゃないですか。友達が何かやらかしちゃって「ああ……」って(笑)。こっちは口も手も出せないし、やってしまったままを描くしかない。
―― 咲ちゃんがとし君を追いかける“重すぎる愛”が、見どころの1つだと思うのですが、連載当初はまだそこまで重くなかったですよね?
としへの気持ちは、最初は一種の信仰心なんです。邪神崇拝の気があるというか。第1話を見ると全然そんなこと思わないんですけど、ちょっとダークな子なんでしょうね。学校にいるシーンでは目が死んでるし、いろいろ問題を抱えている感じ。そこで世の中を何とかしてくれると思い込んで、としについて行ったんじゃないですかね。
―― そんな咲に振り回されっぱなしのとし君ですが、そもそも「つまさきおとし」という妖怪って実在するんですか?
よく聞かれるんですけど、いないです。10年くらい前に「余ったつま先を切る妖怪」というのがふわっと浮かんで。その時pixivに描いたスケッチは、目がぼやっと光った感じで不気味なんですけど、基本は今とそんなに変わってないです。
―― でも、こっちのとし君はちょっと怖いですね(笑)。今の方がずいぶんかわいい。
最終回は「どっちも見た後でたどり着ける真エンディング」
―― 2015年発売の1巻には、とし君につま先を切られた人々のプロフィールを紹介した「つまさきこれくしょん(つまこれ)」が描き下ろしで収録されています。前作の「彗星継父(メテオトウサン)プロキオン」(全3巻/講談社)でも、地球に襲来するインベーダーの設定がすごく詳しく書いてありましたが、「つまわた」も脇役に力が入ってますね。
物語は主人公たちが作っていくんですけど、その後ろにいる人たちの人となりを考えるのが楽しいんですよね。主人公は主人公でやってるけど、それも生活している何でもない人たちがあってこそというか。
なので、モブはすごく大事ですね。モブのリアクションの方が描きたくて、そこに主人公を連れてきてるのかもしれないです。
―― 第1話でとし君がつま先を切る理由について「現代の愚かな人類に警鐘を鳴らす」とか、咲ちゃんにうっかり勢いで言っちゃいましたけど、実際とし君は何か目的があって靴を切ってるわけではないんですよね? でも作品を読んでると、結果的にそういう何でもない人たちが陥りがちな「あるある」の愚かさを指摘しているような……?
いや、としは普段から何でもない、ただ歩いてるだけの人のつま先も切ってるんですよ。
―― えっ、そうなんですか!?
そうです。ひょっとしたら、咲がとしをずっと背後から観察してて、口を挟む隙をうかがってるかもしれないですけど(笑)。「あれはちょっと絡めないな」っていうときはスルーしてて。
―― で、「これなら行けそう!」ってなった場面がマンガになってる(笑)。
いやらしいですね(笑)。
―― さっきのモブの話とも関わるかもしれないですが、「つまわた」のネタになってる日常の気付きはすごく共感できます。例えば「ダンゴムシって『お母さん目線』な所あるよね」の話(第6話)は、ものすごく共感を覚えました。生き物の命をもてあそびたい子どもと、それを嫌がるお母さんの妥協点としてのダンゴムシ。他の生き物だと残酷ですけど、ダンゴムシなら丸まるだけだから、お母さんも許してくれそうっていう。
あれは昔から「ダンゴムシ理論があるぞ」って考えていたことで。そういうコラムのタイトルみたいなものや、街で見かけたものや人をメモっておいて、そのシチュエーションの中に咲を放すと、好き勝手やってくれますね。
―― 2巻に収録される物語後半では、咲の担任・桐杉府かづ芽先生が新しく登場します。
問題児に困らされる先生っていうのが好きなんですかね。先生キャラが好きなのか、よく描いてしまうんですけど。
―― かづ芽先生はわれわれと同じで、とし君の姿が見えないんですよね。だから先生が登場する回は、コマの中にとし君が描かれなくて、咲ちゃんが何もないところに向かって1人で話しかけるじゃないですか。それを見てあらためて普通の人が咲ちゃんをどう見ているか、その浮いてる感じに気付かされました。
そういえば、連載当時「とし君いない説」っていうのもありましたね。
―― えっ、「それはあなたの想像上の存在にすぎないのでは……」ってやつですか? とし君って実在してますよね!? えっ、えっ!?
いますいます。実際に靴切れてますし。
―― よかった! さすがにそれは怖すぎます……。
「とし君いない説」が本当だとしたら、「つまわた」のバッドエンドはそれだったでしょうね。
―― 今「バッドエンド」というお話がありましたが、最終回はあまりに予想外で衝撃的でした。個人的には、劇場版「まどか☆マギカ」の意表をつく斜め上展開に近いものを感じたんですが、あのラストは最初から考えておられたんですか?
最初は考えていなかったですけど、ああいう終わりにした理由は、「つまわた」の後半がすごいラブコメになってしまって。観覧車でデートする話(第62話)で、完全におかしくなった(笑)。
―― 確かにあの回の咲ちゃんは普通の恋する女の子でしたね(笑)。
あの頃、ツイッターで「#咲怖くない」っていうのをやってて、すごくかわいい咲の絵を描いてたんですよ。それをやっていくうちに、目にハイライトが入るようになったり、結構まともな美少女顔になって。その影響が本編にまで出て「君こんな顔すんの!?」みたいに、作者的にもびっくりです(笑)。
―― この頃になると、とし君もかなり懐柔されてましたよね。それだけにどんなふうに終わるのかなというのはずっと気になってました。
観覧車の話から明らかにラブコメになっていって、加えて割としっとりした話もやったので、最終回をどうするか悩んでたんですよね。例えば、としの姿が見えなくなって「ちょっとさびしいけどお別れです」な最終回っぽい最終回もあり得たんですけど、そうおとなしく終わるのも「つまわた」っぽくないので、考えられる中で一番飛距離のある終わり方にしました。
―― めちゃくちゃかっ飛ばした最終回でした(笑)。
とにかく絶対に2人を幸せにするっていうことは決めてたんですけど、「でも幸せにするってどういうことだろう」っていうのを割と真面目に考えて。
―― なるほど。ではあのラストは1つの愛のかたちですね。
愛ですね、愛。ハッピーエンドです、間違いなく。だから「とし君いない説」がバッドエンドで、「さみしいけどお別れ」がグッドエンドだとすれば、最終回のラストはどっちも見た後でたどり着ける真エンディングみたいな。
―― そうか、あれはトゥルーエンドなのか!
ちなみに、2巻には108話以降の後日談も描き下ろしで入ってるので、最終回に困惑した人も安心してください。
今やりたいのは「百合マンガ」
―― 次回作については、何か考えておられますか?
まだ決まっていないのではっきりしたことはいえないですけど、ぶっちゃけ今は百合マンガがすごくやりたいですね。
―― 百合ですか! これまで妖怪や怪獣ものを描いてこられたので、それはまた意外な感じです。なぜまた百合を?
好きなんですかね。完全にオタクの目線ですけど、最初からこれは百合だというマンガより、普通のマンガの中から百合を見つけ出すのが好きで。微妙に下世話な話、咲とかづ芽先生だってそんな感じもあるし。
―― おお、言われてみれば確かに……。それでは最後に「ねとらぼ」読者の皆さんに、先生から一言いただけるとありがたいです。
長いような短いような2年間、ずっと見ていただいて本当にありがとうございました。毎週コツコツ描いて気付いたら108回。連載中こんなにリアクションをもらえたのは、マンガ家人生で初めてだったので、毎週充実していて、「つまわた」は読者と一緒になって作ったくらいの感じがあります。月並みですが感謝の一言です。給料をもらいながら遊んだみたいな、本当に楽しい2年間でした。
女性コミックの棚にあるので見つけにくいですが、2巻もぜひよろしくお願いします。
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