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» 2017年01月27日 20時20分 公開

【ネタバレあり】ネットのマンガ好き騒然 「ど根性ガエルの娘」15話で何が起きたのか

まず1話と15話を先に読んでください!

[たまごまご,ねとらぼ]

 大月悠祐子「ど根性ガエルの娘」15話が、公開されてからネット上で話題になっている。掲載された日は、サイトに接続できないほどだった。


画像 「ど根性ガエルの娘」1巻。最初はKADOKAWAから出版され、現在は白泉社から電子書籍が発売中。1月26日に紙版刊行が決まった。ピョン吉がのぞき込んでいる壁の穴は、父・吉沢やすみが暴れて開いたもの

 何が起きたのかは、「ど根性ガエルの娘」1話を読んでから、その後に15話を読むと、おおまかに分かる。

 エッセイマンガ・ノンフィクションは、ちょっと視点を変えて編集すると、「絶望」を「幸福」として描けることを証明してしまったのだ。

「ど根性ガエルの娘」とは?

 マンガ家の大月悠祐子は、「ど根性ガエル」の作者・吉沢やすみの実の娘。父親が荒れに荒れて、家庭崩壊に陥った様子をエッセイマンガで告白。週刊アスキーでの連載当初から「家族再生物語」の触れ込みで話題になっていた。

 スランプで13本の原稿を全部落として失踪。自殺未遂。家庭内暴力。数多くの借金。

「家族全員そろってのだんらんは"日常のもの"となるのだが、それはまだ少し先の話だ」

 1巻番外編4の、だんらんについてのモノローグ。描き下ろし番外編では28歳になった娘と父が、同じ家で笑いながら仕事をしている様子が描かれる。

 家族再生は成功し、笑顔が戻ったかのように見える。読んでいて、きちんと心地よい。

見せかけの家族

 1話。吉沢やすみがカレーを作るシーン。娘は「アクとりしたかったなー」と言う。父は「ダメだ!!!」とうれしそうに言う。仲良し感にあふれている。

 15話。やりとりは全く同じだ。ただしこれは娘が父の顔色を伺って選んだ言葉だったのが、娘視点で描かれる。

「娘として、私は父の望む言葉を返さねばならない」

 ここから先、今まで描いてきた「幸せになったように見える」ことが、全部父の機嫌を損なわないようにしてきたハリボテだったことを打ち明ける。


画像 「ど根性ガエルの娘」2巻。幼少期、周囲の子にいじめられており、父の部屋にある無数の本を読んで過ごしていた

 特におかしくなってしまった母親の描写は、鬼気迫るものがある。14話。幼少期に父が失踪してから母は宗教にハマった。娘に腐った料理を無理やり食べさせようとした。娘が結婚してから、母はわめき、泣き崩れる。

「ねェ……産んでよ孫を、私にちょうだいよ、赤ちゃんをッッッ」

 15話では、父の罪を娘にかぶせた母が、タバコを吸いながら言う。

「なんで助けてくれなかったのかって? お母さん必死だったのよ」「お父さんのプライドを守らなきゃ。お父さんを責めたりしたら、また出ていっちゃうもの」

 「夫が元通り優しくなり、子どもがちゃんと育って、家族がうまくいっている」と信じたくて、暴君である父に娘を生贄にすることで作り上げた、母親の夢。

 15話ラストで、夢は何もかも醒めてしまう。

記憶の編集

 15話によると「ど根性ガエルの娘」1巻発売の時。吉沢やすみと大月悠祐子の親子対談が企画されたそうだ。ところが対談中に吉沢やすみが、思い通りにならなくて突然激怒。会議室から出ていってしまう。めちゃくちゃすぎて、娘はもう為す術もない。

担当「今のは表に出しませんから!! 対談は何事もなく和やかに進んだように、こちらで編集しますんで……!!!」

 当時の担当と作者は、楽しい結果に向かうよう「記憶の編集」をしてマンガを連載していた。

担当「母親が一時壊れていたことや、大月さんが昔引きこもっていたことは、描かないほうが良いと思います。あまりに酷い話は、読者が読みたくありませんから」
大月「確かに、ただヒドいだけで、誰も救われない全くオチのない話は、私も描きたくありません」

 1巻の最初から15話まで、描かれてきた出来事は、事実なのだろう。ネームも両親がちゃんと読んで確認している。

 ただし「エンタメとしての理想形」「父の顔を立てるためのベスト」な切り口で描いてきたから、本人の当時・現在の感情は隠したままだった。

 カットした「あまりに酷い話」は、8話での母の崩壊、12話での拒食・過食など、2巻中盤以降ものすごい勢いで飛び出してくる。事実の切り方で飾り付けた感動的な家族の話は、「誰も救われない全くオチのない話」そのものだった。

視点のミッシングピース

 「家庭崩壊から再生の物語」は、「何も解決していない機能不全家族を“幸福な家庭”に見せかけられることの暴露」へと変化した。今までの「再生」の流れが、全部前フリだったかのようだ。


画像 「田中圭一の『ペンと箸』」。23人の著名マンガ家家族への、インタビュー集

 「【田中圭一のペンと箸−マンガ家の好物−】第八話:「ど根性ガエル」吉沢やすみと練馬の焼肉屋」では、吉沢やすみの息子であり大月悠祐子の弟である吉澤康宏と、田中圭一が焼肉を食べに行った話が描かれている。彼もまた、父の吉沢やすみが失踪したことを語る。

吉澤「(失踪から帰ってきた父を)母(やすみさんの奥さん)はホント自然に迎え入れてあげて……」
田中「できた奥さんだー!!」
吉澤「父は肉が大好きです。ボクらも家族でにぎやかに食べるのが好きでした」

 一方「ど根性ガエルの娘」15話。父と母と弟は、幸せそうに焼肉を食べている。娘は父にお金を盗まれたのに土下座を強いられ、母に偽られた。3人に無視されたまま、泣いている。

 この2つは、どちらかがウソではなく、等しく正しいのだろう。実際「ど根性ガエルの娘」11話でも、大人になった家族で焼肉を食べているシーンがある。肉が好きなのは間違いない。

 ただ、弟が父を不必要におとしめないように語り、姉が家族の取り繕いの裏事情を描いた結果、大きなズレが生じた。このズレ自体が、さらに家族のいびつさを証明することになる。11話の焼肉シーンも、もうただのだんらんには見えない。

 家族のゆがみは、いまだまったくけりがついていない。

無料電子配信の引き金

 今回このマンガがものすごい勢いで伝搬した理由の一つは、ネットでの電子配信だったからだろう。

 1話と15話と「ペンと箸」。雑誌のバックナンバーや単行本を、全員が持っているわけじゃない。15話だけ見て「やばい家庭」なのは分かっても、このマンガがひっくり返したものまでは分からない。

 話題になったらすぐ誰でも読める。3つを並べて見て、ただならぬことになっているのに気づいた人が、一斉に話題をシェアした。

 今後ノンフィクションを読む時、多分このマンガが常に頭に浮かぶことになると思う。

 「これは事実か?」「どこから切り取っているんだろう?」「視点が欠けてはいないか?」

 ノンフィクションやエッセイマンガは、基本は事実を、誰かの視点で書く。でも全体像が見えているかどうかは、全く別の話だ。


画像 ヤングアニマルDensiの「ど根性ガエルの娘」トップ

 あらためて、ヤングアニマルDensiのトップを見ると。読む前と見え方が、全然変わる。

 大月悠祐子が並行して描いてるのは、サンリオの「ど根性!!けろけろけろっぴ」というハッピーな少女マンガ。もちろんフィクション。主人公のヒロコは、「ど根性ガエル」のひろしの娘。「幼いころ失踪した父を許せない」という設定。ここでも、割れた家族像がテーマになっている。



たまごまご


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