ファンタジックな世界に、ひとさじの胸騒ぎ―― 「キューカンバー!」のマンガに内在するアンビバレンス司書メイドの同人誌レビューノート

「星と見習い」「あおばやし第三公園」の2作品をご紹介します。

» 2017年03月05日 12時10分 公開
[シャッツキステねとらぼ]
シャッツキステ

 先日、「コミティア」(自主制作漫画誌の展示即売会)に行った際、関西で行われる「関西コミティア」の告知チラシが机の上に置いてありました。何気なく目をやったそれに、はっと目を見開いてしまいました。そのチラシの告知イラストは、サークル「キューカンバー!」さんではないですか。「わ、私も読んでます!」と、会場でチラシを手に、同行していたうちの総メイド長に熱く語ってしましました。

今回紹介する同人誌

「星と見習い」 B5 20ページ 表紙カラー 本文モノクロ

「あおばやし第三公園」 A5 12ページ 表紙1色刷り 本文色擦り

著者:食べこぼし


同人誌「星と見習い〜」 宇宙でひとり、星を繕う女の子は大きな目が印象的です
同人誌「あおばやし第三公園」 実際の本は薄く華奢な紙と、カラフルな印刷の装丁もすてきです


素朴さを感じる、ちょっと不思議な世界を描くオリジナルマンガ

 作者さんはオリジナルのマンガを描かれています。どれもしっかりと描きこまれた、でもどこか素朴な線と、二足歩行の猫がしゃべっていたり、人でないものがいたりするような不思議な世界観がマッチした作品です。数々の作品の中から、今回はどちらも女の子が主人公の2作品をご紹介します。

ファンタジックな世界に、ひとさじの胸騒ぎ

 「星と見習い」は夜空に浮かんで、宇宙を繕う仕事をしている女の子のお話。大きなお裁縫セットを背負って、星と星をステッチでつないで星座を表したり、ミルクを流して天の川を作ったりと、こまごまと働く見習いさんです。背中に持った糸巻きリュックがかわいいですねー。お仕事の間には、宇宙にふんわり浮かんで、お茶とクッキーで一服したり、忙しいけれど充実した日々です。

星と見習い 電信柱、星……ぐっときますね!

星と見習い 宇宙に浮かんでお仕事中

 しかし、その宇宙に小さな“青緑の星”があることに気付いてしまってから、彼女の胸にざわめきがやってきます。ぴかぴか光る小さな星をちらりと横目で見ながら女の子は思うのです。「どんなに仕事が上手くいってても あれを見ると なあんでだか 妙にがっかりするんだ」と。このせりふ、私の胸にもざわっと波が立ちました。そして、この時の女の子のデフォルメされた表情がまたいい! つながった眉毛と大きな目が強調された顔は、彼女が抱えてしまったもやもやを、そのまま読者に伝染させるような不安さを感じさせます。

星と見習い 背中の便利そうなお裁縫箱がかわいい……

裏切られるラスト、憂いの余韻に身を任せる

 「あおばやし第三公園」は、間違い電話からストーリーが始まります。日常を感じさせつつ軽やかな雰囲気は、安房直子さんの短編小説のような世界です。交流する2人。そのお洋服や電話の形が、何気なくかわいらしくて、ほのぼのと読んでいたら……最後は思わぬ形で幕が引かれる、「えっ!」という展開でした。

あおばやし第三公園 軽やかにはじまるふたりの交流ですが……

あおばやし第三公園 花柄お洋服の子の足元にいる謎生き物もちょっと気になります……

 「星と見習い」も「あおばやし第三公園」も、ほのぼのとした世界をまとっているのに、それだけでは終わらないんです。ふと忍び寄る心の揺れが描かれる前者と、あっと驚くショートストーリーの後者では方向性が違うのですが、2つの作品に共通しているのは読後感の余韻かなと感じました。めでたしめでたしで終わらないラストは、心の中にふっと影を落として、妙に後を引きます。ひとつかみしたこんぺいとうの中に、ほろ苦いかけらが紛れ込んでしまったような……。でも、そういうささやかな寂寥(せきりょう)感とか、心の隙間風に身を任せるって、なんだか悪くない気分なんです。

 春の夕暮れはぼんやりかすんで、ふわふわ暖かいのだか寒いのだか、どっちつかずの不思議な空気。この世界のどこかで、奇妙なできごとが起こっているのかも、と空を見上げてしまうような作品たちです。

サークル情報

サークル名:キューカンバー!

Twitter:@uzunyan620

pixiv:http://www.pixiv.net/member.php?id=5268481

入手先:アリスブックス(在庫少ないようですが、近日追加予定)、「あおばやし第三公園」はイベントのみでの頒布

次回参加予定:関西コミティア50、東京コミティア120に申し込み中


今週のシャッツキステ

シャッツキステ 現在放送中のアニメ「アキバズトリップ」の台本の展示閲覧を行っています。今週放送されたばかりの台本をめくっては、「あの時の表情の指示はこんな意図があったのね……」とふむふむしております

著者紹介

司書メイド ミソノ 司書メイド ミソノ:秋葉原カルチャーカフェ「シャッツキステ」でメイドとしてお給仕する傍ら、とある大きな図書館で司書としても働く“司書メイド”。その一方で、こよなく同人誌を愛し、シャッツキステでも「はじめての同人誌づくり」「こだわりの特殊装丁」の展示イベントを開く。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えた辺りで数えるのをやめました」と語る

関連キーワード

同人誌 | 宇宙 | 漫画 | チラシ | pixiv | かわいい | 星座 | イラスト


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2408/31/news036.jpg 犬が同じ場所で2年間、トイレをし続けた結果…… 笑っちゃうほどの変貌が379万表示「そこだけボッ!ってw」 半年後の現在について聞いた
  2. /nl/articles/2408/30/news121.jpg 「地獄絵図」「えぐすぎやろ……」 静岡・焼津市の地下歩道が冠水 “信じられない光景”にネットあぜん
  3. /nl/articles/2408/31/news073.jpg 「よくこんなものが……」 米不足でメルカリに米出品→疑問の声も 運営は“禁止出品物”に「然るべき対応」
  4. /nl/articles/2408/31/news025.jpg 次男に塩対応の柴犬、いよいよ次男の帰省最終日を迎え…… 本音が出た瞬間に「不意に泣かせるのやめて欲しい」と感動の声
  5. /nl/articles/2408/30/news017.jpg 最上位グレードのハイエースを“50万円の底値”で購入したら…… 驚きの実物に「ある意味最強」「正直、羨ましい」
  6. /nl/articles/2408/30/news188.jpg 実写「着せ恋」、キャストに物議 海夢の再現度が高すぎるタレントを推す声あがる 「逆になんであかせあかりさん以外の人……」
  7. /nl/articles/2408/29/news193.jpg 「なんで欲しいと思ったんですか?」 酔った勢いで購入 → 後日届いた“まさかの商品”に反響 「理性あったら買わないw」
  8. /nl/articles/2408/28/news142.jpg 明石家さんま、69歳バースデー迎え長男から幸せ呼ぶ“輝かしいプレゼント” 同席した元妻・大竹しのぶは「最高の笑顔でした」
  9. /nl/articles/2408/31/news084.jpg 仕事早いな! 大谷翔平の愛犬“デコピン”、大反響の始球式がさっそくTシャツ化 「こ、これは……」「欲しい!」と爆売れの予感
  10. /nl/articles/2408/30/news113.jpg 「これ600円なの?」 大谷翔平が長く愛用しているデコピンの“おやつ入れ”、始球式で注目「おそろだった」「真美子さんが選んだのかな」
先週の総合アクセスTOP10
  1. ヒマワリの絵に隠れている「ねこ」はどこだ? 見つかると気持ちいい“隠し絵クイズ”に挑戦しよう
  2. 「米国人には想定できない」 テスラが認識できない日本の“あるもの”が盲点だった 「そのうちアップデートでしれっと認識しそう」
  3. 「苦手な芸能人は誰?」 あのちゃん、女性芸能人を“実名で即答” 「ここ最近で一番笑った」「強すぎる」
  4. ホテルでチェックアウト、忘れ物で多いのは? ホテル従業員が教える「圧倒的に多い忘れ物」
  5. 乳がん闘病中の梅宮アンナ、抗がん剤治療で「髪の毛ほとんどなくなっています」 帽子かぶり「ああ、来たか」
  6. 「キティちゃんのお面だと思ったら……」 ひっくり返すと“まさかの正体”に11万いいね
  7. 「凄すぎる…」「ガチで滝」 “市ケ谷駅の冠水”が衝撃与える 階段に大量の水が流れる様子も…… 東京メトロに経緯を取材
  8. 「早すぎます」「一体なにが」 52歳ボディービルダー、訃報1週間前に最期の投稿で“人生初の試み” 恋人は「亡くなる数時間前まで普通にお出かけも」
  9. お盆で帰省した次男に、柴犬も猫もまさかの反応→どちらも豹変して爆笑 「涙出てきました」「おもろ可愛過ぎ(笑)」
  10. 着陸する戦闘機を撮ったはずが…… タイミングが絶妙すぎる1枚に「一部の専門家には貴重な一枚」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 釣れたキジハタを1年飼ったら……飼い主も驚きの姿に「もはや魚じゃない」「もう家族やね」 半年後の現在について飼い主に聞いた
  2. 「もうこんな状態」 パリ五輪スケボーのメダリストが「現在のメダル」公開→たった1週間での“劣化”に衝撃
  3. 「コミケで出会った“金髪で毛先が水色”の子は誰?」→ネット民の集合知でスピード解決! 「優しい世界w」「オタクネットワークつよい」
  4. 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  5. 「米国人には想定できない」 テスラが認識できない日本の“あるもの”が盲点だった 「そのうちアップデートでしれっと認識しそう」
  6. ヒマワリの絵に隠れている「ねこ」はどこだ? 見つかると気持ちいい“隠し絵クイズ”に挑戦しよう
  7. 「昔はたくさんの女性の誘いを断った」と話す父、半信半疑の娘だったが…… 当時の姿に驚きの770万いいね「タイムマシンで彼に会いに行く」【海外】
  8. 鯉の池で大量発生した水草を除去していたら…… 出くわした“神々しい生物”の姿に「関東圏では高額」「なんて大変な…」
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「なんでこんなに似てるの」 2つのJR駅を比較→“想像以上の激似”に「駅名だけ入れ替えても気づかなそう」