そうだ、火星行こう(メロンと) 短編アニメ「Black Holes」制作のきっかけは「お尻の穴の鋭い痛み」(謎)
制作チームに聞いてみました。
4カ月で制作され、サンダンス映画祭にもノミネートされた約12分の短編アニメ「Black Holes」。ちりばめられた哲学的なテーマや耳に残るメランコリックな音楽など、不思議な魅力はIndieWire誌に「ピンク・パンサー映画のパンクロック版」と評価されるほど。制作チームは現在、続編制作のための支援をクラウドファンディングで募っています。
火星に向かうミッションを与えられた宇宙飛行士のデーブと、NASAがパートナーとして選んだファッションデザイナーの生まれ変わりだという果物の「メロン」を中心としたストーリー。フランス人兄弟のデビッド・ニコラとローレン・ニコラに、プロデューサーのケビン・ヴァンダー・メイレン、脚本のローラ・デロンを加えた4人を中心に制作されました。
もともと、デビッドとケビンが2カ月掛けて作り上げた約3分の短編を見たサンダンス映画祭の関係者から「さらに長いフィルムを作れないか」とオファーを受けたのがきっかけで生まれた同作。デビッド、ローレン、ケビンに詳しく聞いてみました。
―― 「Black Holes」、不思議な作品ですね。どんな風に思い付いたのですが?
デビッド きっかけは私が17歳で、グラフィティーアートの世界にはまっていたときでした。ある日、お尻の穴に鋭い痛みを感じたんです。母に連れられ病院に行き、軟膏の処方を期待していたのだけど、なぜが直腸検査を受ける羽目になってしまって。若かった私にはこの検査がとてもショッキングで、トラウマになりました。さらに最悪なことに、その検査をした医者が偶然にも私と同じマンションに住んでいたんです。マンションでその医者と顔を合わせる度に検査を思い出し、部屋から出るのが怖くなるほど。グラフィティーアーティストとして有名になりだしたころでしたが、その検査の記憶は若かった私にとって自信を失うほどのことでした。
―― 作中にもデーブに直腸検査でトラウマを与えたフィンガー教授の娘・クララも登場しますが、これは制作陣の実体験だったんですね(笑)。宇宙飛行士の設定はどう生まれたんですか?
ローレン 私たち兄弟にとってヒーローだった映画「ライトスタッフ」(※アメリカ初の有人宇宙計画を実話に基づいて描いた1983年の映画)のエド・ハリスとサム・シェパードについて考えたんです。会いたくない人物の顔を毎日みなければいけないとき、彼らだったら何をするだろう、って。普通なら自信を失うような事柄が起きたとき、彼らならトラウマをどう乗り越えるか、強くいられるのかを考えたのです。
ケビン それで私とローレンは2D短編アニメの「Pierre The Astronaut」という映画をフランスで制作しました。これが「Black Holes」の元となっています。
―― 今のチームはどうやって集まったのですか。
ケビン 「Pierre The Astroaut」の続編シリーズを制作しようとビジュアルコンセプトや3Dのパイプラインの作業に取り組んでいたころ、サンダンス映画祭の関係者が私たちのビデオクリップを幾つか見た後、短編アニメを2カ月で完成させられないかと聞いてきました。私たちはそれを受け入れ、何人かの友人たちとともに制作を開始したんです。音楽家のOizo、 Flying Lotus、Sebastian、素晴らしい俳優のWilliam Fichtner、Steve Little、「スター・ウォーズ」や「スター・トレック」のサウンドデザイナーでもあるWill FilesとRobby Stamblerなど。全く資金もない状態で私たちの情熱と、そんな私たちを信じてくれる友人たちの寛大さ、才能だけで作品を完成させました。
―― すごいスピード感。3Dとか大変じゃなかったですか?
デビッド 友人たちが3Dのパイプラインを完成させたんですが、これがとても画期的で、自宅のPCでも、とても早く、かつ美しい3Dイメージを制作できるものでした。複合的なソフトウェア技術で、3D映像制作は今までよりずっと早く進めることができますね。
―― 「Black Holes」はかなり成熟した視聴者を想定しているように思えましたが、作品のテーマは?
デビッド おっしゃる通り大人のためのアニメシリーズなので子どもは楽しめないかもしれません。メインのテーマはやや哲学的ですが、火星ミッションを通して人生の意味を表現していきます。そして人々が忘れがちな、大きな目標を成し遂げることの素晴らしさや人類の偉大さを伝えていきます。
―― ところで問題は「メロン」。作中では知的でファッションセンスも優れたメロンは、まわりの人間を魅了していきますが、なぜ果物にこんな役割を持たせたんですか?
ローレン この世で1番無意味な生命体を選び、それに知識と意識を与えたかったんです。最終的に行き着いたのがメロンでした。
デビッド 実は私たちの故郷である南フランス地方では、メロンは神聖なフルーツ。それがメロンを選んだ無意識の理由かもしれません。
ケビン 今回の短編フィルムで主人公のデーブは、メロンに対し動揺し恐怖を覚えますけど、今後のシリーズでは、全知全能の神のような存在のメロンを次第に理解していくことになります。
―― シリーズ化の暁にはどんな形態で公開する考えですか?
ケビン この短編アニメから続くファーストシーズン(※22分のエピソード×10回で1シーズン)の制作を進める考えで、既に幾つかのアメリカとフランスのテレビチャンネル、ネットテレビと協議しています。ただ、まだどの媒体で公開するかは決まっていません。私たちの目標は、多くの視聴者に見てもらうのと同時に、制作に関して独立性を確保することです。
―― 若いアニメーターにとって、クラウドファンディングの活用はより良い作品制作に有効?
デビッド・ローレン・ケビン クラウドファンディングは独自の作品を作り、それを売り込みたいクリエイターにとって、商業上の「しがらみ」から距離を置くにはとても良い方法です。まず作品を知ってもらい、資金を集め、視聴者・ファンを集めコミュニティーを作りあげるには最適な場所。クラウドファンディングをはじめるには大変な労力が必要ですが、たくさんのクリエイターにお勧めしたいです。
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