連載
» 2017年07月23日 21時00分 公開

東大ラノベ作家の悲劇――ティッシュ配りの面接に行ったら全身入れ墨の人がきて、「前科ついても大丈夫だから」→結果:<後編>(1/2 ページ)

配っていたのはティッシュか、それとも。

[鏡征爾,ねとらぼ]
東大ラノベ作家の悲劇

1 なぜかズボンをぬがされました


 目を閉じてみてください。
 そして、どうか想像してみてください。

 いま、あなたの前に女の子がいます。

 初恋の少女に、とてもよく似ています。
 こうばしい記憶が、蘇ってきます。

 放課後の学校。
 夕暮れの教室。
 机の木の匂い。

 白い肌の、瞳の綺麗な少女でした。

 何かを言いたそうに、こちらを見ていました。
 ようやく訪れたチャンスでした。

 しかし、あなたは、千載一遇のチャンスを棒にふり、
 曖昧な笑顔を浮かべて、逃げました。
 それから十年の月日が経ち、
 高校生という身分を失い、
 学ランを脱ぎ、

 そして今度はぱんつを脱いでいます。

 目の前には、女の子の顔があります。
 初恋の少女に、とてもよく似た顔があります。
 太ももには、ポタポタとあたたかい涙が落ちています。

 女の子は泣いていました。

 あなたの性器はもろだしでした。
 青春を遠くに感じました。

 狭苦しい室内では、入れ墨だらけの男たちが、
 あなたをとりかこんでいます。

 必死でティッシュを配っていたのに、
 どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。


2 ティッシャー・イン・ザ・トイレット


 サクラ、という単語をご存じでしょうか。
 もちろん、春に咲く、お花のことではありません。

 といって、決まった定義があるわけでもありません。

 場を盛りあげるための、にせものの存在、
 という言い回しが、適当でしょうか。

 たとえば、まだ知名度がそれほどないバンドのライブで、
 場を盛り上げるために歓声をあげる「仕込み」が、
 それにあたります。

 最近では、出会い系サイトのサクラが有名ですね。
 サイトの運営者(の男)が、女の子を装って、
 利用者の男性に「脈あり」な反応をみせつつ、
 いたずらに利用回数を消費させて、
 課金させる。

 そんな、人を騙して場を盛り上げるための、
 にせものの存在――。

 それが、サクラです。
「人生で、絶対にやりたくない」
 と、正義感の強いあなたが、考える仕事です。
 どれだけゴミ呼ばわりされようとも、
 絶対に魂だけは売りたくない、
 そんな風に考えるあなたが、
 単語を聞いただけで、顔をゆがめるような仕事です。

 しかし、予期せずそれをやらざるを得ない事態に
 巻き込まれてしまったら、どうするでしょうか。
 しかも、それが、十年ものあいだ彼女がおらず、
「私は女に飢えている」と書きまくった武者小路実篤のような危機的状況で、
 さらに相手が、初恋の少女にそっくりの異性だったとしたら――、
 あなたは断れますか?


3 やれやれ、僕は射精した


 ところで、ティッシュ配りにサクラがあるとしたら、
 どんなものを想定するでしょう?

 そのことを説明するためには、
 まず、ティッシュ配りバイトの、
 真相についてお話ししなければなりません。

「オネガイシマス」
「オネガイシマス」
「オネガイシマス」

 その日もあなたは、実直な宮沢賢治のように、
 小汚い格好でティッシュ配りに精をだしておりました。

 雨にも負けず、風にも負けない、
 そんな存在に、自分はなりたい。

 本気でそう思っていました。
 自分の弱さが許せなかった。

 お世話になった編集者の、
 顔面にグラスの中身をぶちまけ、
 金属バットをもって出版社にのりこ……
 めずに、ずるずるとバットの先端をひきずりながら、
 出版社前の通りをぐるぐると行ったり来たりしていた黒歴史が、
 思い出されました。

 その妄想とも現実ともつかぬ情景を振り払うように、
 あなたはティッシュを配りました。
 真夏の光が照りつけました。

 新宿のアルタ前を、綺麗な顔をした女性が通り過ぎ、
 笑顔でティッシュを渡そうとすると、
 唾を吐かれました。

 しかし、それも振り返ってみれば、
 致し方のない話でした。

 ダイニングバーのスタッフ募集、という文言は、
 嘘でした。

 ティッシュは、じつは風俗店の違法勧誘だったのです。


東大ラノベ作家の悲劇

4 ぶち殺してやる、と東大ラノベ作家は言った


 かわいらしい服を着た女の子たちが、
 ゴキブリをみて、指をさしながら逃げていきます。

 自分はゴキブリだと思いました。

 これまであなたは、無心でティッシュを配り続けました。
 これまであなたは、ティッシュを配ることが良いことだと思っていました。

 僧侶が念仏を唱え、功徳をつむように、
 お願いしますお願いしますお願いしますと唱えながら、
 黒いティッシュを配り続けておりました。

 しかし黒いティッシュは、文字通り「ブラック」なティッシュ、
 正真正銘ブラックバイトの配布物だったのです。

 許可を取っているといっていたのは嘘っぱちで、
 無許可で渋谷や新宿や池袋で、ダイニングバーを偽り、
 別の会社のティッシャーたちに配布させ、
 女の子が高時給につられて行ってみると風俗店。

 何も知らない彼女たちは、
 そこでぐるりと男たちにかこまれ、
 断りづらい雰囲気にさせられ、
 時給5000円の単語につられ、
 ケータイ代の支払いが滞っているなどの理由から、
 即金欲しさに、つい、その「仕事」に手をだしてしまう――。

 風俗勤務への、第一歩です。
 ティッシュは、その巧妙なトラップです。

 つまり、あなたが必死でしていたことは、
 功徳をつむ善行どころか、
 悪徳をつむ元凶、
 不幸を配り歩いていたようなものでした。

「……と、いうことなんだ」
 一連の内情を教えてくれた古株の歯欠けくんが、
 渋谷のパチンコ屋の軒下の日陰で、
 休憩しながら言いました。

 女の子にしか配ってはいけない理由が、
 分かりました。
 若ければ若いほどいい理由が、
 分かりました。
 綺麗であればあるほどいい理由が、
 分かりました。

 あなたは、天を見上げました。
 あいかわらずのカンカン照りです。

 働いてから一週間。
 一日も雨は降りませんでした。
 しかし土砂降りの雨に打たれたあとのように、
 いつもあなたは汗でずぶ濡れでした。

 額から、滝のように汗が吹きだしてきます。

 隣で、スラムダンクの三井くんにそっくりな
 イケメンが、ゲロを吐いていました。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10

  1. /nl/articles/2111/26/news120.jpg 江頭2:50、憧れの女性に一世一代の大勝負 熱意こもった“告白”に「涙出た」「感情が崩壊しそう」
  2. /nl/articles/2111/27/news058.jpg みちょぱ、恋人・大倉士門とのラブラブムービーに大反響 “公開イチャイチャ”に「本当お似合い」「夫婦にしか見えない」
  3. /nl/articles/2111/26/news137.jpg 上白石萌音、「カムカム」悲劇の展開後に“未来に向けた言葉”を届ける 娘・るいを抱いて「どうか見守っていてください」
  4. /nl/articles/2111/27/news054.jpg MALIA.、山本“KID”徳郁さんとの16歳次男と親子初共演 「パパに似てる」「美男美女」と“美形ファミリー”に反響
  5. /nl/articles/2111/27/news051.jpg 【Amazonブラックフライデー】初日売れ筋ランキングTOP20 1位は圧倒的大差で「Fire TV Stick 4K Max」
  6. /nl/articles/2111/27/news041.jpg さだまさし、友人・平原まことさんの逝去に悲痛の思い 「綾ちゃん、がんばれ!」と娘・平原綾香にエールも
  7. /nl/articles/2111/27/news064.jpg お父さんめっちゃパンクだな! SUMIRE、父・浅野忠信の誕生日祝いに幼少期の貴重な2ショットを公開
  8. /nl/articles/2111/25/news148.jpg 【その視点はなかった】「ネイルする意味が分からない」という男がいたので塗ってあげたら「爪って目に入るから元気出る!」と理解してもらえた
  9. /nl/articles/2111/27/news028.jpg 飼い主に遊んでほしい猫ちゃん、胸キュン必至なおねだりを見せ…… 甘えん坊な元保護猫が最高にかわいい
  10. /nl/articles/2105/19/news041.jpg 【お仕事楽しい】「3日間育休をとる」という男性社員に「理解できない」と上司 予想外の真意に感動の声

先週の総合アクセスTOP10

  1. 「前歯を取られ歯茎を削られ」 広田レオナ、19歳デビュー作で“整形手術”を強制された恐怖体験
  2. ゴマキの弟・後藤祐樹、朝倉未来とのストリートファイトで45秒負け 左目腫らした姿を自ら公開し「もっと立って闘いたかった」
  3. キンタロー。浅田舞の社交ダンス挑戦を受け体格差に驚がく 「手足が長い!!」「神様のイタズラがすぎるぞ!!」
  4. おばたのお兄さん、“高額”ギャラ明細を写真で公開 「こんなに稼いでるんですね!」
  5. 仲村トオルと鷲尾いさ子の長女・美緒、23歳の誕生日に姉妹ショット 親譲りの美貌&175センチの長身
  6. ゴマキ弟、朝倉未来との瞬殺試合に「抵抗してるつもりだった」 “怪物”がメッタ打ちする姿に妻ショック隠せず 「息できなかった」
  7. 店で急に話しかけてくる“なれなれしいオタク”は「逃げて正解」 アキバで勧誘に遭った漫画に「自分も出くわした」と反響
  8. 朝倉未来、1000万円ストリートファイト批判へ反論 一部挑戦者の大けがに「それくらいの覚悟は持ってきているでしょ」
  9. 広田レオナ、12キロ増なデビュー時代の姿を公開「鼻も埋没していった…」 6月には激細姿に焦りも「脚が棒みたい」
  10. 工藤静香、次女・Koki,が腕を振るった“ゴージャス朝食”を公開 過去には「私より上手」と料理スキルを絶賛

先月の総合アクセスTOP10

  1. 「本当色々あったけど、おかえり」 市川海老蔵、義姉・小林麻耶との再会を胸いっぱいに報告
  2. 「くそが……!」 最上もが、奮発した「Uber Eats」の対応に怒り爆発 1400円ステーキの“中身”に「絶望」「もう頼まねえ」
  3. 葉月里緒奈、美人な元マネジャーと“再会2ショット” 「共演した俳優さん達は私ではなく彼女を口説いてました」
  4. 田中律子、美人な23歳娘とランチデート 2ショットに「本当に親子!? 姉妹だよ〜」「そっくりで美しい」の声
  5. 「やりました!」ニッチェ近藤、半年間で10キロ減量に成功 ダイエット前後の写真に「すごい」「勇気もらいました」
  6. 板野友美、エコー写真とそっくりな娘の顔出しショットを公開 ぱっちり目の美形な姿に「こんな美人な赤ちゃん初めて見た」
  7. 木村カエラ、夫・永山瑛太と“意外な場所”で出会って驚き 「連れて帰りました」報告にファンほっこり
  8. 戸田恵梨香、水川あさみと同様に長文公開 「私を追いかけて、どうか車の事故を起こさぬようお気をつけください」
  9. docomo×進撃の巨人キャンペーンの商品「リヴァイ兵長フィギュア」が悲惨な出来だと話題に → 公式が謝罪「対応方法を検討しております」
  10. 加護亜依、「エヴァ」綾波レイのコスプレ姿に絶賛の声 体形くっきりのプラグスーツ&歌唱に「流石は元トップアイドル」