「Flash終了」までの20年とはなんだったのか? ネット文化からアニメへ至るFlashの歴史を振り返る(2/3 ページ)
iPhoneの登場とFlashへの非対応
iPhoneの発表とその後のスマートフォンの普及は、ユーザーのWeb閲覧環境を激変させました。iPhoneやiPadは当初からFlashに対応せず、世の中でスマートデバイスの存在感が増していくのと反比例するように、Flashは徐々にWeb上での存在感を失っていきました。
PCに比べスペックの低いモバイルデバイスでは、Flashはパフォーマンスの問題やセキュリティ面でのリスクがあり、またAdobeという1社のみが提供しているというプロプライエタリ(クローズド)な面が“オープン化していくWeb”というAppleの思想にあわなかったためとされています。
「Flashアニメ」と「Flashを使ったアニメ制作」の違い
ここで一度視点を変えて、「アニメ制作におけるFlash」についても見てみましょう。
制作においてFlashが使われている作品としては、2006年にスタートした「秘密結社 鷹の爪」(FROGMAN監督)を思い出す人が多いのではないでしょうか。
この作品が有名になったため、いわゆる“Flashアニメ”といえば「鷹の爪」のように切り絵を動かすような作風をイメージされることが多いようですが、実のところ、FROGMAN監督のこうした作風と、「Flashが使われていること」との間には関係がありません。こうした作風は「カットアウト」と呼ばれる表現技法に含まれ、Flash以外のソフトでも普通に制作できます。
こうした誤解があるのは、前述しているように「Flashアニメ」という言葉そのものに対する混乱があるからで、IT界隈では「閲覧にFlash Playerを必要とする動的表現の1つ」を指すのに対し、アニメ界隈では単純に「Flashで作られた作品」の意味でとらえられているからです。つまり、閲覧環境とソフトのどちらに重点が置かれているかの違いです。
筆者もセミナーで試してみたことがありますが、紹介した複数の作品のうちFlashが使われた作品を当てられた人はごくわずかでした。また当てた人も偶然当てることができただけで自信がなく、理由を答えられませんでした。結局Flashアニメを名乗っている作品はFlashを使ったと“自己申告”しているにすぎないので、有名な作品でない限りは伏せられると分からないのです。
例えば2007年にNHKの「みんなのうた」でヒットした「おしりかじり虫」(うるまでるび)にもFlashが使われていますが、Flashを使ったことが強調されていないので、そのような認識を持っていた人は少ないでしょう。
またFlashを使っているというと「Flashしか使っていない」という印象にもなりがちです。もちろんFlashのみでも制作可能ですが、通常であれば複数のソフトを使い分けて制作することになります。「作風によって使い分ける」というよりも、「使い勝手によって使い分けられている」というのが実情なのです。
Flashが「アニメ制作の“新手法”」?
アニメ界隈では、1990年代後半からデジタル化の波が押し寄せていましたが、アニメーターの作業だけは依然、紙での作画が基本でした。アニメーターも作画をデジタルに移行しなければという雰囲気になってきたのは2010年前後のことです。
またFlashに関しても、前述した「鷹の爪」や「おしりかじり虫」のように、これまでも個人レベルで制作が可能な短編やショートアニメでは2000年前後と早くから用いられてきましたが、完全分業で制作される国内の長編映画やテレビシリーズで使われるようになったのも、やはり2010年前後のことなのです。
最近、アヌシー国際アニメーション映画祭にて長編部門グランプリを受賞した「夜明け告げるルーのうた」(湯浅政明監督)も、制作にFlashが使われているということが話題になりました。制作手法についてNHKが公開した記事「世界も評価! アニメ制作の“新手法”」(現在は記事削除済み)では、SNSなどで「(昔からある)Flashが“新手法”?」と疑問の声が上がりましたが、Flashの持つ複雑な歴史と、各人の認識の違いが引き起こした議論だったといえるでしょう。
なお“新手法”については、長編映画やテレビシリーズでFlashが使われた場合、クレジットに記されていることもあるので確認できます。この場合はFlashがデジタル作画のために使われたことが重要となっています。
そもそもCGなども含め、他のソフト名が伏せられているのにFlashだけが明示されているのは妙な話ですが、アニメ界隈内でも誤解されていたFlashのイメージから脱却を図ろうとしているようにも見て取れます。
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