「24時間テレビ」マラソンランナーを追う「24時間マラソン追跡団」はどんな人たち? メンバーに聞いてみた
結成のきっかけや24時間テレビのスタッフとの交流について聞きました。
「24時間テレビ」といえばチャリティマラソン。毎年「ちゃんと走ってるの?」という疑いが出ますが、実は「確かに走った」ことを証明する「24時間マラソン追跡団」なる人たちが存在します。
追跡団はなぜ生まれ、どんな人が集まっているのか? 積もり積もった謎を明らかにすべく、その中心メンバーの団員(@YSB_DANCHO)さんにお話をうかがいました。
結成のきっかけは「西村知美ワープ事件」
――追跡団の活動はいつからでしょうか?
2003年からです。当時のメンバーは一人も残っていません。
――結成のきっかけは?
2002年西村知美さんがランナーだったときに、残り3時間で30キロ残っており、武道館には間に合わない計算でした。しかし1時間後、再び西村さんが現れた際にテレビ画面の残りの走行距離が10キロに。1時間に20キロを走破するということはハーフマラソンの女子世界記録よりも早く、「車に乗ったのではないか?」という疑惑が生まれました。ネット上では西村知美ワープ事件と言われています。
そこから「2ちゃんねる」で「来年から追跡監視しよう!」と呼びかけられたことがきっかけです。一見、正式に結成されたように見えますが、有志が自由にやっている形です。
実は多くの班に分かれた大所帯
――何人くらいでやっていて、どんな編成ですか? どんな準備を?
編成は正式名称ではないですが、「スタート地点特定班(2〜3人)」「自動車追跡班(2人)」「自転車追跡班(5人)」「自走追跡班(1人)」「動画撮影(3人)」「バイク追跡班(1〜2人)」「地図作成班」などです。この班の名称も、特に決まってはいません。
大事なのは自分が何をやりたいのかで、個人が勝手にやっている形なので「お前は○○をやってくれ」ということもありません。準備も各々でやります。
――どんな人が参加していますか?
ネットユーザーから信頼を得ているメンバーは30〜40代が多いです。私の知る限りニートはいません。大手企業に務める人もおり、職種もサービス、技術職などさまざまです。“独身暇人”と言われておりますが、半数以上既婚者ですよ。
団員の連携プレーで判明した、スタート地点
――マラソンのスタート地点(今年は府中市)は極秘でした。どのようにして知りましたか?
本番の4日ほど前に今回のスタート地点付近で見覚えのあるロケバスを目撃し、スタート地点特定班に連絡しました。それからSNSなどから一般の人のロケバス、中継車目撃情報を探しましたが有力情報はなく。
また今回、距離発表がなかったので勝手に100キロ前後と仮定し、100キロ前後のあやしげな地域、施設をスタート地点特定班が調べていました。しかし今回は事前番組から「スタート地点は武道館から」とにおわせる部分がありましたのであきらめかけました。
我々は「武道館スタートはあり得ない」と思っていたのですが、当日はモヤモヤした気持ちで、とりあえず電車で武道館へ向かいました。しかしその途中で特定班から連絡がありスタート地点発見の連絡が入りまして。例年よりスタート地点の特定が大幅に遅れたワケは、スタート地点があまりにも(ゴールと)近い場所で、ノーマークだった……ということです。
なぜ発見できたのかは、(特定班が)私が目撃したロケバス情報が気がかりでダメもとで行ってみたとのこと。距離稼ぎのため、「スタート直後はゴールとは真逆の方向へ走る」という過去にはない大胆なルートでした。
ガードマンの役割も
――ランナーを追うときに大変なことは?
自転車班の場合は補給ですね。夜中などはサイクリングロードを長時間走るとき、コンビニ・自販機などがなかなかないんです。あとは車両の故障、パンクなどのトラブルです。一応、修理の予備チューブなどは個人で用意しますが、遅れを取ってしまい合流するのが厄介になります。距離を正確に測る私にとってはショートカットなどできず、全速力で合流しなければなりません。
――ランナーたちの邪魔にならないように心がけていることはありますか?
もちろん心がけております。先行隊は一定の距離を保ちますが、信号待ちなどで追いつかれてしまう。その場合は自転車を脇に除けランナーを先頭に出し、それができない場合は青になった途端に猛ダッシュします。なお後行隊は一般の追っかけがランナーの邪魔をしないよう、ランナーの後ろのガードマンのすぐ後に着き、妨害などを防ぐようなこともします。
徳光さん「君たちも最後までありがとう!」
――ランナーとの交流はありますか?
ランナーとの交流は応援するくらいですね。ランナーも我々の存在は知っています。印象的だったのが2011年の徳光さん。終盤で「徳さん最後だ! 頑張れー!」と叫んだところ「君たちも最後までありがとう! 気をつけろよー!」と走りながら言ってくれました。あの時は目が潤みましたね。
また2014年の城島さん、2015年のDAIGOさんのときは彼らのライブのMCでも我々が話題になったと、各々のファンから報告を受けました。
スタッフの先導自転車のパンク修理をしたことも
――スタッフさんとの交流はありますか?
はい。我々は原則的にスタート地点ではなく、少し離れたところに集合し、時おり少数か1人で様子を見に行きます。そのときに我々を見て「お疲れ様です。今年も事故のないようにお願いしますね」という風にあちらから声をかけていただくこともあります。
また、スタッフさんの先導自転車のパンク修理をしたこともあります。先行隊には、ランナーのはるか先で待っている沿道の応援者に「もうすぐランナーが参りますので道を広めに開けてお待ちください!」などと整理する者もいます。
休憩中はスタッフさんに毎年「今回はスタート地点なんで分かったんですか?」なんて聞かれたりもします。
神奈川スタートだったころは多摩川を渡るときのハイタッチが恒例でした。スタッフさんとのハイタッチが撮れた動画もありますよ。
沿道からの応援や差し入れも
――応援している方との交流はあるのでしょうか?
個人の名前を沿道から呼んでもらったり、差し入れをいただいたりもします。特にサイクリングロードなどで食料が手に入りづらいときは、かなり助かりますよ。
――注意を受けるなどトラブルはないのでしょうか?
私がデビューする少し前までは「どけ、邪魔だコノヤロー!」と怒号が飛ぶなど厄介がられていたようです。ボランティア的な活動が功を奏したのか、今は特に注意を受けることはありません。
今では狭い休憩地点などで一般の応援者が自転車を停めるとき、警備員さんに「狭いのでそこに自転車を停めないでください」と注意され、移動しようとしたら「あなた方は結構です」と言われることもあります。
「これじゃ間に合わない!」という会話が耳に届く
――追跡の経験上、マラソンコースはどんな道が選ばれますか?
車による追っかけ応援を防ぐためか、自転車専用道など自動車走行不可の場所を組み込むことが多いです。あとはとにかく距離稼ぎのため、大回りが原則です。
――ランナーやスタッフさんの会話を聞くことはあるのでしょうか? 具体的に印象に残っていることは?
深夜、早朝はよく聞こえますね。「時間」についての話が多いです。「これじゃ間に合わない」とか。あとは「休憩は○○分まで」という声が我々にとって重宝します。それで我々は食事をしたりトイレに行ったりできますから。
――今年は走行距離90キロということでしたが、(追跡班の記録では)1.45キロほど超過しているようです。原因は何だと思われますか?
おそらくスタッフさんは距離測定をWebマップで行っているのではないでしょうか。我々もトイレや食料補給で、少し余計に走っていますので。走行距離が多いのは問題ないですが、少なかったときに世間の反応が恐ろしいですね。
ブルゾンちえみの走りは素晴らしかった
――ブルゾンちえみさんの走りは、例年のランナーと比べていかがでしたか?
かなりしっかりしていました。スタートから40キロ集中して見ていましたが、歩くことはありませんでした。朝方もスタッフさんと笑って世間話しながら走ってましたよ。
――24時間チャリティマラソンについて思うところがあれば教えてください。
マラソンにより、1円でも多く寄付が集まればよいと心から思っております。
もともとは「しっかり走っているか、監視しよう」という目的だったのが、いつの間にか「ちゃんと走っていることの証明」をするスタンスに変わりつつあるという追跡団。賛否分かれることもある24時間テレビマラソンですが、彼らの目は確かにランナーやスタッフたちの頑張りを見届けています。
(辰井裕紀)
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